没後150年のアニバーサリーイヤーに先駆けて、大作《ロメオとジュリエット》の新たな名盤が登場
20年以上に渡って黄金時代を築いてきたマイケル・ティルソン・トーマス(以下MTT)とサンフランシスコ交響楽団(以下SFS)が、ベルリオーズの《ロメオとジュリエット》に満を持して挑んだ。
この《ロメオとジュリエット》という作品は、ちょっと並大抵の作品ではない。《幻想交響曲》と《イタリアのハロルド》で交響曲の領域に革命をもたらしたベルリオーズは、ついにこの《ロメオとジュリエット》で声楽を含む交響曲に取り組み、オペラとオラトリオと交響曲が融合した、今まで誰も聴いたことのないような巨大な交響的世界を生み出した。それは自信作だったオペラ《ベンヴェヌート・チェッリーニ》の苦々しい失敗の昇華でもあった。私は自他共に認めるベルリオーズ狂であるが、《ロメオとジュリエット》はこの作曲家の最高傑作といっても差し支えないと思っている。なぜか? それは、ベルリオーズの本質である、極めて繊細で静謐なドラマが最も顕著に具現化しているからである。声を大にして言いたいのは、ベルリオーズは《幻想交響曲》の一発屋では断じてないし、爆発的音響が彼の音楽の本質ではないのだ。没後150年が、ベルリオーズのそうした真の魅力を知ってもらう機会になればと願っているのだが、このMTTによる《ロメオとジュリエット》は、まさにそれにぴったりの名演である。
全体で1時間半以上にも及ぶ長大な交響曲で、やはり一番の聴きどころはワーグナーも絶賛した「愛の情景」であろう。MTTとSFSの演奏は、込み上げ、溢れ出てしまう愛のどうしようもなさをたっぷりと音に滲ませながら、同時にどこか少し冷めている、という絶妙なバランスを実現している。ベルリオーズの演奏において、この音色の官能性と演奏の冷静さの両立は極めて重要であるが、彼らはそれに見事に成功しているのだ。まずは「愛の情景」から、それから少しずつ他の楽章を聴いてみる、という聴き方も良いのではないだろうか。この《ロメオとジュリエット》はきっとあなたのベルリオーズ再発見の扉を開いてくれるはずである。