〈Third Coming〉の代わりに届いたキング・モンキーからの贈り物。ストーン・ローゼズという名の宴を経てもう一度ひとりの道を選んだ男が、新たな未来を切り拓くために己の原点と向かい合う!

終わったことを悲しむな

 約10年ぶりとなるイアン・ブラウンのソロ・アルバム、それが『Ripples』だ。前作『My Way』から10年も経っていたというのは驚きだが、これほどのブランクをブランクと感じさせない理由はもちろん、彼にとっての10年代がほぼストーン・ローゼズの再結成とその活動にあてられていたからだろう。

 2011年のローゼズ再結成と大規模なリユニオン・ツアーは大きな成功を収め、2016年にはバンドとして約22年ぶりのニュー・シングル“All For One”“Beautiful Thing”をリリース。〈皆はひとりのために、ひとりは皆のために〉と歌われる“All For One”には彼らの再起に賭ける熱い思いが感じられたし、一時は『Second Coming』(94年)以来となるニュー・アルバムのレコーディングに入ったとも報じられていた。

 しかし、その後どこかで4人はふたたび道を違えてしまったのかもしれない。現時点でローゼズの最後のライヴとなっている2017年6月のグラスゴー公演にて、〈終わったことを悲しむな。実現したことが幸せなんだから〉とイアンが発言。これがバンドの〈再解散〉宣言であったか否かは憶測の域を出ないけれど、何にしても以降のイアンはソロ作の、つまり本作の制作に没頭することとなった。自分の原点であるローゼズと改めて真摯に向き合った経験が、ソングライターとしての、そしてシンガーとしての彼に火を点けたことは想像に難くないし、実際に『Ripples』からはもう一度ひとりで立つ道を選択したイアンの決意と気迫が伝わってくる。

IAN BROWN Ripples Polydor UK/ユニバーサル(2019)

 この『Ripples』で徹頭徹尾貫かれているのは、〈ひとりでやる〉ということだ。本作はイアンにとって久々のセルフ・プロデュース・アルバムであり、2曲のカヴァー曲以外の8曲はオリジナルで、そのうち3曲はイアンと彼の息子たちの共作ナンバーである。つまり近年のポップ・ミュージックの主流となっているコラボ型、チーム型の制作スタイルの対極を行くパーソナルな内容であり、しかも驚くべきは、ギターはもとより、ベース、ドラムス、各種パーカッションに至るまで、演奏自体もほぼ彼ひとりでやりきっている点。ここまでのDIY作品はイアンのソロ・ディスコグラフィーのなかでも他に類を見ない。