J.S.バッハのチェンバロとオルガン作品すべてを一人で演奏する壮大なプロジェクト!
フランス若手の鍵盤奏者、バンジャマン・アラール。ハルモニア・ムンディ・フランス・レーベルからの第1弾は、オルガンとチェンバロを弾き分けたバッハの鍵盤作品全集の第1巻だ。これから10年ほどかけ、バッハのすべての鍵盤曲を作曲順に録音していくという、じつに長大なプロジェクトの第1歩になる。
BENJAMIN ALARD 『J.S.バッハ:鍵盤のための作品全集Vol.1』 Harmonia Mundi France/キングインターナショナル(2018)
今回の第1巻にはバッハが10代から20代にかけての作品が収められている。巨匠若き時代の作品をまとめて弾くのは、アラールにとっても初めてのことだ。
「ワイマール時代以降のバッハについては記録がありますが、若い時代は作品しか残っていません。でも、その作品を作曲順に演奏することで、バッハに親近感や共感を覚えました。彼は10歳までに両親を亡くしているのですが、そのとき味わったであろう苦しみも。そして、彼は音楽によって救われたのではないか、生きる意味を発見したのではないかと」
今回のディスクには、バッハのほかにも、フレスコバルディやベームといった、バッハに影響を与えたと考えられる作曲家の作品も収録されている。また、コラール前奏曲には、ソプラノ歌手ジェルリンド・ゼーマンによる歌唱も入る。バッハはそれ以前の作曲家と比べ、歌われている内容により即したコラール前奏曲を作った。だから、そのテキストを強調するためにも、歌唱を入れたのだという。「彼女は、子供のようなとても澄んだ声をしているので、家庭のなかでも歌われた伝承歌という側面がよく出ていると思いますよ」
アラールがオルガンに出会ったのは、5歳のときに訪れた教会だった。教会のオルガンを弾く場所は、座席からは見えにくい。しかも、まだ背が小さかったから何も見えず、音だけを聴いていた記憶があるという。
「この魅力的な音はどこから来るのか。まるで天から降ってきた奇跡のようでしたね」
チェンバロは10歳のとき。乾いた音で、味気ない楽器だと最初は感じたそうだ。しかし、弾き方によっては、魅力的な音楽を奏でることができる。それを自分でもやってみたいと思ったのだという。
「7歳のときの印象深い記憶があります。ノルマンディ地方の港町の教会にある1730年代のオルガンが修復を終え、お披露目の演奏会があったんです。信心深くて音楽好きの祖母に連れて行ってもらったのですが、人が多すぎて通路で折り畳み椅子に座って聴いたんですね。海のそばなので、教会に海風が吹いてきたんですが、子供心に、それはパイプ・オルガンの風で、それが音を運んできたんだと思い込んでしまったのでした。とても神秘的な気分でした。その祖母も、今度の日曜日で100歳になるんですよ!」