オールド・スタンダードを現代ジャズのフィルターを通して再構築するNYSQ
ニューヨーク・ジャズ・スタンダーズ・クァルテットは、2006年に中堅プレイヤーのデヴィッド・バークマン(ピアノ)とティム・アマコスト(テナー・サックス、ソプラノサックス)を中心に、2004年までニューヨークで活躍していた井上陽介(ベース)、91年から2000年にかけてハービー・ハンコック(ピアノ、キーボード)のグループに参加し、現在は東京を拠点に活動するジーン・ジャクソン(ドラムス)の4人で結成された。コンテンポラリー・ジャズの視点から、オールド・スタンダードに新たな命を吹き込み、またスタンダードのコード進行を借用して、新たなオリジナルを生み出して、独自のスタイルを構築してきた。バークマンとジャクソンは夫人が日本人、アマコストは、元駐日大使の父を持ち、父の赴任に伴い早稲田大学で学び日本語は堪能、禅宗にも造詣が深いという親日家であり、結成と同時に日本全国を巡るツアーを展開してきた。前作の『ザ・ニュー・ストレート・アヘッド』からはイギリスのWhirlwind Recordingsと契約、7作目の本作ではアメリカでの活動のレギュラー・ベーシストのウゴナ・オケグワが起用された。また、初のLPレコードのリリースとなった。
NEW YORK STANDARDS QUARTET Heaven Steps to Seven Whirlwind Recordings(2018)
マイルス・デイヴィス(トランペット)のプレイで知られる“セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン”のもじりである本作のタイトルを冠したコード進行を借用したオリジナルが収録されるかと思いきや、その予想は見事に裏切られた。全曲ジャズ・ジャイアンツが数多の名演を遺したスタンダードで固められる。筆者は、滞米中にこのアルバムのレコーディング・セッションを撮影した。リラックスした雰囲気の中でも、けっしてジャム・セッションのような冗長さに陥ることなく、結成13年の信頼関係による緊密なインタープレイと、ツボを押さえたアレンジが、オールド・ジャズの持つ素晴らしさを、コンテンポラリー・ジャズのフィルターを通して雄弁に語られている。夏のアルバム・リリース日本ツアーに期待は高まる。