日本の歌に内包された感情を表現するおもしろみを発見

 10年前にイム・ヒョンジュは、日本デビューした。美しいハイトーン・ヴォイスは、〈天上の声〉と称賛されて、オペラとポップを融合させた〈ポッペラ〉という言葉と音楽を日本に持ち込んだ。その彼の新作『トゥー・ハーツ、ワン・ラヴ』は、日本語でカヴァーした歌謡曲やJ-POP中心の編成になっている。

 「日本デビュー10周年を記念する作品を作りたいと思った。日本の歌は、母の影響で子供の頃から親しんできたので、そんな韓国人の僕が歌ったら、日本のみなさんがよく知っている歌がどのように生まれ変わるか。それをお見せしたいという気持ちもありました」

LIM HYUNG JOO 『トゥー・ハーツ、ワン・ラヴ』 ワーナー(2013)

 日本の歌をよく知っている。20代だが、驚くほど古い歌謡曲にも詳しく、それらをいつも愛唱しているという。収録曲は日韓の共同で選曲されたが、“青春の影”や“また君に恋してる”、“悲しくてやりきれない”など時代、性別を超えた多彩な7曲を取り上げている。

 「人は恋に落ちると、冷静ではいられず、愛に翻弄されるもの。その感情をストレートに表現をするのが韓国の歌。それに対して日本の歌は、奥ゆかしく、最初こそもどかしさを感じたけれど、抑制された感情に隠された部分を表現するおもしろみがあります。ただ日本語の発音は簡単ではない。美しい発音で歌うことも今回の課題、チャレンジでもありましたね」

 ポッペラ出身の彼は、韓国語以外にイタリア語などあらゆる言語を駆使して歌っているが、日本の歌詞には固有の文化が反映されており、そこに惹かれるという。そして、アルバムの後半ではオペラのアリアやクラシック、ミュージカル・ナンバーなども歌っている。

 「“清らかな女神よ”は、マリア・カラスへのオマージュです。彼女は、僕が音楽を始めたきっかけをくれた人なので。それからバッハの“主よ、人の望みの喜びよ”を取り上げたのは祈りの心は世界共通、だから。この曲は、世界各国どこで歌っても、言語を超えて心を通わせ合うことが出来るので、今回も歌いました」

 イム・ヒョンジュの声は天からの贈り物。海外留学の経験も豊富だが、幼い頃は独学だった。だから、クラシックの固定概念に縛られることなく、幅広いジャンルを歌うなど柔軟性が今では武器になっている。

 「今回は歌っていていつも幸せな気持ちに包まれました。別れの歌であっても、悲しい歌であっても、歌いながら温かな気持ちになった。その背景にあるのは韓国と日本の文化が僕の中でひとつになって、新たな愛を表現しているという気持ちになれたからです。アルバム・タイトルは、そこから生まれましたが、『トゥー・ハーツ、ワン・ラヴ』は、僕のモットーであり、永遠に続いていくテーマでもあると思っています」