音楽の歴史、音楽史における技法の変遷をひとりの作家の個人史から描き出す本はこれまでもたくさんあり、その変遷の語り方も様々である。たとえば菊地成孔=大谷能生のマイルス・ディヴィス論「M/D」、あるいは濱瀬元彦の「チャーリー・パーカーの技法」、ピーター・バードの「武満徹の音楽」など様々である。この松平敬の「シュトックハウゼンのすべて」は、演奏家による文字通りすべての楽曲についての解説が時系列に展開するディスコグラフィのような体のシュトックハウゼン史である。向き合えばシュトックハウゼンを通じ前衛小史の扉が開く。技術、技法の理解は作品の音への関心を前進させてくれるはず。