意外性がありながらも絶妙な組み合わせが、予想を超える味わいに!

 いきなり奇妙な質問で恐縮だが、ビールと牛乳を同時に飲むことについてどうお考えだろうか? 私にとっては、とてもあり得ない最悪な組み合わせのように思える。しかし、ネットで検索してみると、黒ビールとミルクを混ぜ合わせたカクテルが実在するようだ(世の中は広い……)。

 さて、神奈川県民ホールが2021年以来続けているコンサート・シリーズ〈C×C〉のコンセプトは、日本の注目すべき作曲家と過去の偉大な作曲家を一人ずつ選び、その両者の作品を対置させるというものだ。過去の公演では、山根明季子とケージなど、その絶妙な組み合わせが話題を呼んだが、今回は、夏田昌和とシェーンベルクという少し意外な組み合わせだ。グリゼーに師事するなど、フランスの伝統に連なるイメージの強い夏田と、ドイツ音楽の硬派なイメージを背負ったシェーンベルクの二人の組み合わせは、一見、ビールと牛乳のような奇妙なもののように思われる。実際、二人の志向する音楽は大きく異なる。十二音技法から生まれる対位法的な構築性を優先させたシェーンベルクの禁欲的な音作りと、微分音を駆使した、官能性すら感じさせる夏田の豊穣な音色は、全く逆方向を向いているかのようだ。

 しかし、それゆえにこの組み合わせが魅力的だ。今回は、ピアノ独奏、ヴァイオリンとピアノのデュオ、アンサンブルを伴う声楽曲という、同編成による両者の作品を並置し、二人の語り口を聴き比べられる仕掛けになっているのだ。こうしたアイデアは、二人の感性が違えば違うほど面白い。コントラストが強い分、お互いの個性が引き立てられるからだ。

 シェーンベルクは、無調など、様々な作曲技法上の革新で知られるが、彼が十二音技法を適用しながらも、長三和音などの調性的な響きも取り入れた“ナポレオンへの頌歌”が選曲されているのも興味深い。意外に演奏機会の少ない作品であるというだけでなく、無調のコンテクストに協和音を効果的に取り込む夏田作品との繋がりも感じさせるからだ。“ナポレオンへの頌歌”で特徴的な〈語り〉という側面に関しては、夏田の“春鶯”とも関連性を見出せるだろう。“春鶯”は、鶯のホーホケキョという鳴き声を3本のフルートで精密に模倣、変形するという、鶯の〈語り〉を音楽化した作品だ(今回は事前録音された音源との共演によるひとり三重奏)。

 夏田、シェーンベルクという、少しひねった音楽のカクテルが、どのような味わいとなるのか、今から楽しみだ。

 


LIVE INFORMATION
C×C(シー・バイ・シー)作曲家が作曲家を訪ねる旅 vol.5
夏田昌和×アルノルト・シェーンベルク[生誕150年]

2024年1月13日(土)神奈川県民ホール 小ホール
開場/開演:14:30/15:00

■曲目
夏田昌和:波 ~壇ノ浦(1997)/エレジー(2022)/美しい夕暮れ (2023/新編成版初演)/春鶯(2013/フルート+プリレコーディング・フルート版初演)/新作(神奈川県民ホール委嘱作品・初演)
A.シェーンベルク:組曲 op.25(1921-23)/幻想曲 op.47(1949)/弦楽四重奏曲第2番 op.10(1907-08)より 第3楽章「連祷」/ナポレオンへの頌歌 op.41(1942)
★14:40より、夏田昌和と沼野雄司(音楽学者)によるプレトークを開催予定

■出演
丁仁愛(フルート)/石上真由子、河村絢音(ヴァイオリン)/甲斐史子(ヴィオラ)/西谷牧人(チェロ)/須藤千晴、秋山友貴(ピアノ)/工藤あかね(ソプラノ)/松平敬(バリトン)/有馬純寿(エレクトロニクス)/夏田昌和(指揮)
https://www.kanagawa-kenminhall.com/d/cxc05

■チケット取り扱い・お問い合わせ
ちけっとかながわ 0570-015-415(10時~18時)
https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc
※未就学児入場不可
※車椅子・補助犬同伴でご来場の方は、チケットかながわへ要問合せ
◎託児サービスあり(要事前予約)