令和最初の昭和の一撃は……ヒップホップとレゲエを跨ぐプレイで日本中のフロアを賑わせ、SHINGO★西成の相棒も務めてきた敏腕DJがついにスタメンを招集!
長いキャリアの始まり
日本勢のダブプレートも駆使したプレイでフロアを揺らすDJ活動の傍ら、ライヴDJ/ビートメイカーとしてSHINGO★西成と歩みを共にし、さまざまなアーティストにも楽曲を提供してきたDJ FUKU。高校時代に打ち込んだ野球部のOBにレゲエ・バーへ連れていかれたことを機にその生活が一変したように、レゲエのセレクターを出発とする彼のキャリアもまた、それから程なくして足繁く通うようになるクラブでの交遊がきっかけになった。いまや〈相方〉と呼ぶSHINGO★西成との繋がりも、その頃に始まったという。
「クラブによく行くようになった当時、同じような感覚で遊んでたのが、亡くなったTERRY THE AKI-06や、RYO the SKYWALKERで、話してるうちにRYO君が〈自分でサウンドシステム持ってて家に置いてんねん。セレクターやれへん?〉みたいな。マジで?ってなるじゃないですか。それでレゲエのレコードとにかく買って、サウンドシステムを車に積んで大阪城公園まで行って、そこでかけるってところから始めて、クラブでもDJできるようになって。で、そこに遊びに来てたうちの一人がSHINGO★君で、〈RYO君のサウンドシステムあれば学祭でできるで〉みたいになった時に話をつけてきたのがSHINGO★君やったんです」。
そうして活動を始めたFUKUがレゲエのみならずヒップホップにも本格的に開眼したのは90年代初期に出会ったラガ・ヒップホップの波を通じてだった。のちに3か月近く滞在したNYで、その先駆者の一人ともいうべきシャインヘッドと交流を持てたことも、彼にとって大きかったそうだ。以降、彼はヒップホップとレゲエを股にかけていくこととなるが、そこにビートメイカーとしての顔が加わるのはまたさらに後のこと。いわく「周りの人がハンパなさすぎて」、活動を始めた当初は自分の作品はおろか、誰かにトラックを提供することすら考えてなかったそう。しかし、その頃の経験と繋がりが、結局はビートメイカーの道に彼を導くこととなる。
「それまでは〈人に聴かしてええんかな?〉とすら思ってたぐらいなんで、自分の特技をまず磨いていこうと思って毎日毎日DJやってたんですけど、やってくうちにやっぱ曲作りたいなって。そこで先輩がやってたラジオ番組で勉強させてくださいって言って番組の編集をずっとやって、そのうちジングルとかも作れるようになって、〈こう組み立てれば曲になるやん〉とか〈こういう曲もアリなんや〉っていうのも学んで、空いた時間でビート作ってたんですよ。そしたら、ラッパーの若い子たちに〈何かビートないんすか?〉って言われて、その時トライトン叩いてやってたんで、〈ほんならお前らのライヴでこれ持っていってやろうか?〉言うて、イヴェントのリハやってたら、そこにSHINGO★君もいて〈久々に会ったなあ思ったら何してんの? キーボードなん?〉みたいな(笑)。それで俺が曲を作り始めてることも知ってくれて、一緒にやってくうちにいまの形になって」。
喜怒哀楽のすべて
以降、さまざまな経験を経て、最初に世に出た曲から数えて実に18年余り。ここにFUKUはようやく自身のファースト・アルバム『スタメン』に漕ぎ着けた。般若からの誘いにも押され、昭和レコードにて実現した本作で、彼は喜怒哀楽のすべてを表現したかったという。
「マジメなアルバムにするとマジメ一本とか、ワルになるとそれ一本とかなるけど、生きてるとそうじゃないじゃないですか。マジメなことも考えなあかんけど、家に帰ったらお笑い観てたり、かわいい女の人いたら遊びたいとかなったり、楽しいところもシリアスな部分も、〈この人何考えてんのやろ?〉って部分も詰め込んで、人生観が見えたらいいなと思って」。
そうした内容面と共に、DJ目線の曲作りは当然彼が意識するところでもあった。本作の中心をなすスケール感に溢れたトラック群は、何よりそれに適うものだ。
「DJのアルバムなんで現場でも何でもDJにかけてほしい。だから、イントロに僕の名前が出てたらかけづらいやろなとかそういうことも極力心がけたし、自分は特に日本語ラップをプレイでもよくかけるので、自分でもかけれる曲にしないと意味がないと思いましたね」。
『スタメン』というタイトル通り、今回のアルバムでは、FUKUの考える外せないメンツを召集。客演の般若に「喜怒哀楽で言ったら哀でも怒でもあるけど、ドラマの挿入歌みたいな、〈俺やるしかない、負けられへん〉ってなるようなものにしたいねんって伝えた」という“色”、新しい時代に向かうお花畑な言説の裏でいまだ変わらぬ体制にクギを刺すSHINGO★西成らしさ全開の“新しい日本”に、ZORNとの“メロス”と、昭和レコードの3トップがそれぞれアルバムをシリアスに飾れば、ヒップホップ ×レゲエ勢の絡みは、より幅広いテイストでFUKUの発想と組み合わせの妙が生かされている。DABOとTAK-Zを陰のあるビートに迎えた“Yes or No”や、ダンスホールの定番リディム〈Sick〉をFUKU流に料理したトラックの上で、互いが発するレゲエ、ヒップホップへの素朴な疑問にJ-REXXXとR-指定が笑えるパンチライン込みで答える“この道の先”といった楽曲は、その最たるものともなった。
「DABOとTAK-Zは恋愛のスペシャリストやと思ってるんで、DABO君で言ったら“恋はオートマ”を今の時代にしたらどうなんのかなっていうのも引っ括めて、失恋する人の気持ちとか、そっから先に進むっていうとこを書いてもらいたかったし、ヒップホップの観点で見てクリス・ブラウンみたいな歌い方もTAKちゃんならできるんちゃう?と思った。“この道の先”にしても、ようやくこの数年じゃないですか、ヒップホップを世間が理解したのって。それでも知らない人がまだ大半だと思った時に、お互いレゲエとヒップホップで〈?〉なこととか〈変わってんな〉ってこととか諸々含めた質問を20個挙げてって言って2人に書いてもらった中から8個選んで曲にしました。餓鬼レンジャーとCHOPSTICKの“いぐいぐアイランド”にしてもそうですけど、結局全部の曲の中に喜怒哀楽の上の〈驚〉があるかもわかんないですね」。
完成した『スタメン』を前に「贅沢な音楽遊びをさしていただいた」とも語ってくれたDJ FUKU。アルバムについての話はさらにこう続く。
「〈この人のアルバムってこうなんや〉っていう答えが大体あるじゃないですか。でもその答えが出なかったのがおもしろいなと思って。おもちゃ箱じゃないけど、あんな部分もこんな部分もあるっていうのが結局人間の根本って思ってるんで、それが自然なんかなって(このアルバムで)感じてもらえたらいいかな」。
関連盤を紹介。
〈スタメン〉たちの作品を一部紹介。