またひとつ、ハープの〈貴公子〉が新しい世界の扉を開く

 ハープという楽器の可能性に革新をもたらし、演奏家としても幅広い芸術性を感じさせる“貴公子”。最新作は待望の“フルートとハープのための協奏曲”を含むモーツァルト作品集ということで話題を集めた。

 「実は子どもの頃はモーツァルトって苦手だった(笑)。彼の音楽を真に理解できるようになったと感じたのはオペラ作品と出会ってから。それでも演奏するとなるとアーティキュレーションやフレージングにとても気を遣う手強い作曲家ではある。特に“フルートと~”はハープにとって特別な曲なのでパートナー選びには慎重を期した。過度にロマンティックなものや古典主義的な演奏はいただけないからね。今回、新鮮かつダイナミックにモーツァルトを奏でられる理想の指揮者とオーケストラ、ビブラートを多用しないピュアで繊細なフルートを得てやっと録音が叶った。恐らく僕が18世紀末に生きていたら当時のハープを好きにはならなかったと思う、音が小さ過ぎるし和音を弾くのも難しく転調もほぼ不可能だし。それでもこれだけの作品を書けるモーツァルトってやはり天才だと思う」

XAVIER DE MAISTRE 『モーツァルト:協奏曲集』 Sony Classical(2013)

 “ピアノ協奏曲19番”の演奏も現代ハープあってこそ。もちろん選曲には彼の鋭い審美眼が光る。

 「ピアノの高音域が多用されていて、ハープの音色が持つ透明感を存分にいかすことができるし、美しい旋律に溢れている。アルペジオの部分などはまるでハープのために書かれたみたいに感じるよ。この曲なら大きな会場で演奏してもよく響くだろうしね」

 よく知られた“ピアノ・ソナタ第16番”も必聴。

 「ピアノの定番曲だけに、敢えてハープで演奏することの魅力が当然求められる。しかもデリケートであらゆる音が露出していて完璧も求められるんだ。レパートリー選びと編曲にはいつも神経を使うよ、アイデアがいつも実現するとは限らない。中には途中で断念したプロジェクトも少なからずあるし、自分ではうまくいったと思っても先ずレコード会社やコンサートの招聘元を説得する必要がある、常にチャレンジの連続さ」

 4月には注目のソプラノ、モイツァ・エルトマンとドイツ・リートからオペラ・アリアまでとりあげた魅惑のデュオ・リサイタルを成功させたばかり。

 「かなり熱心なオペラ・ファンで特にR.シュトラウスが大好きだけど、例えば『サロメ』や『エレクトラ』をハープの伴奏でやろうとは思わない。でも歌曲は皆さんが驚かれるほどハープとの相性が抜群で、特に今回のエルトマンやディアナ・ダムラウのような優れたソプラノとは最高の共演者になれる。これからもハープという楽器のために新しい扉を開ける努力を続けていくつもりなので、どうかご期待下さい!」