20世紀最大のピアニストが遺した“遺産”~名演誕生の過程が刻まれたセット
20世紀最大のピアニストの一人であるウラディミール・ホロヴィッツ。彼の“伝説”をゆるぎないものにした活動休止明けのリサイタル、「ヒストリック・リターン」の全貌が明らかとなるディスク・セットが登場。
このリサイタルのチケット発売日には1500人ものファンがチケットを求めて並び、バーンスタインをはじめとした多くの巨匠らが顔を揃えた満場の聴衆はスタンディング・オべーションでホロヴィッツを迎えた。そしてホロヴィッツは“復活”どころか“深化”を見せつける演奏を繰り広げたのである。
コンサートのライヴ盤はコロンビア・レコードから1か月後に発売されて空前のベストセラーとなり、グラミー賞を受賞。本ディスクは、その1965年5月9日と1966年4月17日のカーネギー・ホールでの2回のリサイタルを中心に、その二つの大きな公演に至るまでにホロヴィッツがカーネギー・ホールで行ったリハーサルとスタジオでのセッションレコーディング模様を収めたものだ。
リハーサルやセッションのパートではホロヴィッツとプロデューサーとの間における肉声まで収録されているほか、CD2枚分にわたるインタヴューも収録されており、まさにファンにとってはたまらない内容である。同時に、神格化された存在となっているホロヴィッツが一人の人間であり、どれだけ神経を使ってテイクを重ねているかも克明にわかるために、ホロヴィッツやピアノファンのみならず、多くの演奏家や演奏家を目指す人たちにもぜひ聴いて頂きたい。
実は「ヒストリック・リターン」のリサイタルは最初にLPえ発売されるにあたって修正が施されている。修正前・後の演奏の両テイクは2015年に発売した『ホロヴィッツ・ヒストリック・リターン1965~アルティメイト・エディション』に収められている。修正前はホロヴィッツ“十八番”のバッハ=ブゾーニ《トッカータ、アダージョとフーガハ長調 BWV564》やスクリャービンの《詩曲 Op.32》でかなり目立つミスをしていた。活動休止前のホロヴィッツからすればこうしたミスは想像もつかないようなことであり、だからこそ修正が行われているわけだが、修正前後どちらの演奏も、ホロヴィッツの演奏は作品から完全に“音楽”を紡ぎだしており、多くの感動を与えてくれる。外面的なテクニックのほころびやミスタッチなどを差し引いても、最上級の音楽を作り出そうと真摯に作品に向き合ったホロヴィッツの音楽家としての魅力が存分に発揮されているのだ。そして彼はここからさらに新たな歴史を刻んでいったのである。
この15枚のディスクにもおよぶ貴重な歴史の記録は、後世にまで語り継がれるべき、そして残していかなくてはならない遺産となることであろう。ホロヴィッツの演奏、そしてプロデューサーとのやりとりが貴重なのは当然だが、ブックレットの資料的価値も目を見張るものがある。212ページにわたるオールカラー、ハードカバーのブックレットには、コロンビア・レコードの専属カメラマン、ドン・ハンスタインによる「ヒストリック・リターン」のコンサートの模様が克明に収められている。カーネギー・ホールとの演奏契約書や録音に関する資料の画像も多数掲載されているため、まるでドキュメント映像を見ているかのように、ホロヴィッツの演奏が作り出されていく過程を追体験することができるだろう。
文章も書きおろしのライナーノーツのほか、「ヒストリック・リターン」の初出LPに掲載されていたライナーノーツも掲載され、20世紀最大の名ピアニストが我々に残した伝説的な演奏への過程とそこからの進化を存分に味わいつくすことができる。これぞ“永久保存盤”といえる内容であろう。聴衆を感動の嵐に巻きこみ、いつまでも“伝説”として語り継がれるホロヴィッツの芸術がたゆまない努力と音楽への真摯な姿勢から生み出されていたものだということも実感できるはずだ。
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