〈TOWER ACADEMY〉の人気講義〈音楽・映画連動講座「ボヘミアン・ラプソディ」〉。マーティ・フリードマンと石井一孝が講師として登壇する9月7日(土)の最終回〈Part 3 & Part 4〉開催を前に、〈Part 2〉の講師を務めたROLLYへのインタヴューをお届けしよう。セルフ・カヴァー・アルバム『ROLLYS ROCK WORKS』を発表したばかりのROLLYに、講義後直撃した。


 

音楽映画として永遠に人々に愛される「ボヘミアン・ラプソディ」

――TOWER ACADEMYの講義の内容を踏まえて、〈ROLLYさんとクイーン〉についてお伺いさせてください。

「わかりました! ただね……去年『ボヘミアン・ラプソディ』がヒットして以来、ものすご~くいろんなところでクイーンについてお話しする機会があるんです」

――もう語り尽くされた感じですか?

「いや! いまもっとも燃え上がっているのは映画を観て好きになったファンの方々だろうね。その人たちがうらやましい! その情熱!! 昔からの耳年増なファンの人や年長者は若い人たちに批判的になるものだけど、いまいちばんアツいクイーン・ファンは映画を観て好きになった人たちだね」

「ボヘミアン・ラプソディ」予告編

――そうですよね。今日の講義でROLLYさんは「ボヘミアン・ラプソディ」のご感想をおっしゃっていなかったので、映画の感想をお聞きしたいです。

「映画の感想ね……(考え込む)。映画としてまとめなければいけないので、古株のファンとしては〈あそこがちがう!〉っていうのはあるんです。けど、そういうのを抜きにして、映画がこんなにヒットするクイーンの底力に本当に驚きましたね! そして、ビートルズ、ローリング・ストーンズ、マイケル・ジャクソン――この映画でクイーンがそれ以上の存在になったと思います。

実はね、僕はこの映画が公開されるときに、出演者の方と一緒にレッド・カーペットを歩かせてもらったんですよ。出てもいないし、映画とはなんにも関係ない、〈ただクイーンが好き!〉っていうだけで。もう、申し訳ない気持ちでいっぱいでしたけどね」

――いやいや(笑)。クイーン・ファンの代表としてですよ。

「ファンの代表としてだったら、申し訳ないよね。なんでかって言うと、僕はブライアン・メイがものすっごく好きで、ブライアン・メイのように、ブライアン・メイ・テイストでギターを弾きたいとず~っとやってきたんです。でも、一曲もコピーしたことなかったの」

――そうなんですか!?

「うん。だから、ブライアン・メイっぽく弾けるんだけど、まったく同じに弾こうと思ったことは一回もなくて。普通はコピーするじゃない。でもね、僕は子どもの頃からそっくりそのままコピーすることに意義を感じなかったの」

――どうしてでしょう?

「ブライアン・メイ本人のほうがきっと上手いだろうから。中学生の頃にアマチュアのコンサートに行くと、みんなレッド・ツェッペリンやディープ・パープルの曲をやっていたんです。大概ギタリストはギター・ソロになるとレコードに録音されたものと同じように弾こうと思って、一生懸命ここ(手元)を見て弾こうとするんだけど、できてない。できてない上に、(手元を)見てる」

――(笑)。

「だからそれより、〈レコードどおりじゃなくても、目をつぶっても豪快に弾きまくれるような自分のフレーズで弾けばいいじゃないか!〉って、中学生くらいの頃に気がついちゃったの。なので、ブライアン・メイの持っているトーンの感じとか、フィーリングを真似していただけなんです」

――講義ではブライアン・メイのタイム感について語っていらっしゃいましたね。

「ブライアン・メイ以外にもジミー・ペイジだ、アンガス・ヤングだ、リッチー・ブラックモアだって、いろんな人のテイストを併せたのが自分だっていうのが中学生の頃にわかって、それを目指していました」

――まさにROLLYさんの音楽そのものですね。〈いいとこどり〉という。

「そうなんですよ。で、なんの質問だったかな?」

――映画の感想についてです(笑)。

「映画が公開されるときに、僕は予言しましたよ。〈この映画はモーツァルトを描いた『アマデウス』(84年)のように、音楽映画として永遠に人々に愛されるヒット作になるだろう〉と」

――そのとおりになりましたね。

「なったと思います。こんなにヒットした音楽映画って見たことがないよね。普通、映画って1週目がいちばんよくて、(興行収入や動員数が)だんだん下がっていくけど、『ボヘミアン・ラプソディ』は口コミでどんどんどんどん上がっていったじゃないですか。

普通の音楽映画の枠を超えて、『ロッキー・ホラー・ショー』(75年)みたいなある種のカルト・ムービーとして、これからもずっと上映されつづけて、そのたびに〈ドンドンパッ!〉ってみんなやりにくるんですよ、永遠に。すごいね」

 

ロック・ドリームがあった時代

――では、ROLLYさんがクイーンと出会った中学時代のことをもう少しお伺いしたいです。クラスメイトのイトウくんが〈オペラ座の夜(A Night At The Opera)〉(75年)のレコードを持ってきて、それを授業のなかで聴いたというお話でした。全部聴いたわけじゃないですよね?

「全部聴きましたよ!」

――そうなんですか!?

「アルバム一枚聴きました。2曲目の〈うつろな日曜日(“Lazing On A Sunday Afternoon”)〉でびっくりして、7曲目の“Seaside Rendezvous”でまたたまげまして。で、“Bohemian Rhapsody”……。もうたまげっぱなしで、アルバムが一枚終わったときには完全に腑抜けになってました」

クイーンの75年作『A Night At The Opera』収録曲“Lazing On A Sunday Afternoon”

――そのとき、古城の情景が思い浮かんだとお話しされていました。ROLLYさんは音楽を情景的に捉えるんですね。

「あなたはそんなふうに思わないですか?」

――そういう音楽もあります。でも、セックス・ピストルズを聴いたらジョニー・ロットンの顔しか浮かばないな、とも思います(笑)。

「確かにそうかもね。でもね、あなたの世代はセックス・ピストルズが動いている姿を簡単に観られたかもしれないけど……」

――YouTubeがありましたし。

「気がついたときにはYouTubeがあったと。(小声で)すごい……。僕がクイーンを聴いた当時はね、まだホームビデオもなかったの」

――画があったとしても、雑誌の写真?

「だから、外国のロック・バンドは全部止まっている画しか知らないわけ!」

――白黒だったり。

「そう! クイーンもね、それはそれはミステリアスな存在だったね。ジェスロ・タルっていうグループ、知ってます?」

――あの、フルートを片足立ちで吹くことで有名な。

「そうそう! (立ち上がってポーズを取って)ジェスロ・タルのヴォーカリストのイアン・アンダーソンは必ず、必ずこの写真だったの!! だから、イアン・アンダーソンはずっとあのポーズで歌っているものだと思っていたんです。でも実際は、ライヴで片足立ちにもなるんだけど、1分ももたないの(笑)。あと、ザ・フーのギタリストのピート・タウンゼントは必ずこうやって……(右腕を回す)」

ジェスロ・タルの70年のライヴ映像。フルート・ソロは2分50秒から

――ウインドミル奏法ですね。

「しかもこう、空中でジャンプして止まっている写真が多かった! 〈ピートはどうしてあんなに長~くジャンプできるんだろう?〉って思っていましたよ」

――(笑)。

「だから当時、ロックはものすっごくミステリアスなものでした――いまより、果てしなく。

ジミー・ペイジがお城を持っているっていう逸話があったので、イギリスのアーティストはみんなすっごいお金持ちで、お城に住んでいるとも思っていました。僕、アホだから。当時はアメリカン・ロックよりもブリティッシュ・ロックのほうが神秘的で、しびれていましたね」

――グラム・ロックの時代ですしね。クイーンに対してはどんな幻想があったんですか?

「もちろん大スターだから、とんでもない古城に住んでいるんだと思っていました。ブライアン・メイのギター、レッド・スペシャルのネックは100年以上前の暖炉の木から削り出したって逸話があったから、ものすごいものを想像していましたね。実際はそうでもなかったわけだけど」

――(笑)。

「あと、映画の冒頭で描かれていた、フレディ・マーキュリーがヒースロー空港で荷物の仕分けのバイトをしているなんて夢にも思わなかったね。貴族だって勝手に思っていたから。そういう幻想を持てたっていうのはすばらしいことですよ。

とにかく〈ロック・ドリーム〉っていうものがまだあって、ロック・スターは宇宙船のような車に乗って、毎日パーティーをやっている――そんなことを想像していました」

 

ROLLYが選ぶブライアン・メイのベスト・ギター・ソロ

――なるほど。今日の講義でROLLYさんは一貫してギタリストとしてお話しされていたことが印象的でした。そんなROLLYさんがブライアン・メイのベスト・ギター・ソロを選ぶとしたら?

「いきますよ。“The Millionaire Waltz”。〈リロイ・ブラウン(Bring Back That Leroy Brown)〉。“Keep Yourself Alive”。そのあたりかな。他にはない魅力がありますよね。

“Keep Yourself Alive”を初めて聴いたときに、西部劇の音楽だと思いました。パッパカパッパカって馬が走っていくような。“Keep Yourself Alive”は映画がヒットしてから有名になった気がするけど、あんまり有名な曲じゃなかったと思うんです。初期の曲はあんまり知られていなかった。特に『Queen II』(74年)とか」 

クイーンの73年作『Queen』収録曲“Keep Yourself Alive”

――ROLLYさんはやっぱり『Queen II』がいちばんお好きなんですか?

「(小声で)そうですね……。『Queen II』がいちばんすごいね。でも、一般的なヒット曲が入ってないから、あんまり知られていないね。だから、余計にみんな好きなんじゃない? 濃厚です。『Sheer Heart Attack』以降は、僕にしてみるとあっさり目っていうか。『Queen II』はねえ……なんだかもう、ねっちょねちょの感じなんですよね」

――(笑)。

「真っ暗闇の中をジェットコースターに乗せられて走っているようなね、そういうすごさがありますね」

――最後に一つだけお伺いさせてください。ROLLYさんの新作『ROLLYS ROCK WORKS』のクイーンっぽさとはどんなところにあるのでしょう?

「クイーンっぽいところは……全部かなあ。最近だと、ビッケブランカくんのクイーンっぽさはすごいね。あんなに上手くできてる人、聴いたことないね。でも、ビッケブランカくんとはちがった意味でやっています。聴いてもらったらわかると思うけどね。聴いたらわかるし、聴かないとわからない……。存分にやりまくっていますので」

ROLLYの2019年作『ROLLY'S ROCK WORKS』収録曲“天地創造~Eejanaika”

 


INFORMATION
音楽・映画連動講座〈ボヘミアン・ラプソディ〉
2019年9月7日(土)東京・神楽坂 音楽の友ホール

​■Part.3
時間:13:00~15:00/17:00~19:00
講師:マーティ・フリードマン

■Part.4
時間:17:00~19:00
講師:石井一孝

MC:矢口清治 
ゲストMC:萩原健太(Part.3、Part.4共に解説)
チケット代:各3,000円(税込)