THRILLER 40
[ 緊急ワイド ]マイケル・ジャクソン『Thriller』40周年!

人類史上最高のセールスを上げた記録ずくめのモンスター・アルバムは、40年の時を経て不動のスタンダードになった――だからこそ、この作品には記録以上の意味がある!

 とはいえ、やはり数字の話はしておいたほうがいいのだろう。85年の時点でギネスブック認定を受けたセールスは、現在の資料によると全世界で累計1億枚超(現在の基準でストリーム数なども換算すればそこにどれぐらいプラスされるのだろうか?)。さらには全米アルバム・チャートで通算37週No.1を獲得(TOP10内には80週エントリー)。そこからシングル・カットされた7曲すべてが全米TOP10入り(うち2曲がNo.1を記録)。そして、84年のグラミー賞では12部門にノミネートされ、〈年間最優秀アルバム〉〈年間最優秀ソング〉を含む最多8部門を受賞している。マイケル・ジャクソンが82年11月30日にリリースした『Thriller』とはそんな記録ずくめのアルバムである。

 もちろん、そのレコードを基盤にして始まった社会現象やトレンドの転換、マナーの革新、クロスオーヴァーした音楽性、MTV時代の到来に対応した画期的なショートフィルム制作、シグネチャーなアクション、後世のさまざまなステージ表現に与えた影響などは量り知れない。物凄く単純な言い方をすれば、歌って踊って群舞するパフォーマンスや映像の多くは、マイケル・ジャクソンが新しい型を広く提示したことによって普遍的になったものに違いない。そして多くの人にとってそれらのイメージの起点は、『Off The Wall』(78年)でも『Bad』(87年)でもなく、やはり『Thriller』にあるはずだ。『Thriller』であり、そこに含まれた“Billie Jean”であり、“Beat It”であり、“Thriller”である。そうした破格の3曲のみならず、“Wanna Be Startin’ Somethin’”を筆頭に個性豊かすぎる楽曲があと6曲も用意されているのだ。ここでマイケルが世に振り撒いたそれらのイメージは、多くの後進たちを経由して現代のリスナーたちにも絶えず影響を及ぼしているに違いない。

 もちろん、時代によってマイケルに対する評価はさまざまに変化してきたし、これからも評価軸が同じようであり続けるとは限らない。しかしながら、定期的にマイケルの強い影響力を感じる機会がなくならないのも事実だ。例えば80年代スターが失速していった時期に台頭してきたボビー・ブラウンやMCハマーも比較対象はやはりマイケルだった。ヒップホップの台頭した90年代に入るとサンプリングを通じて別角度からの評価も確立した。それと並行して欧米の青少年ポップ・グループたちがマイケルを最高峰に戴く格好で多く表れはじめた。その流れで2001年のトリビュートにおいてはアッシャーやインシンクらが先人を称えていたものだし、その道筋に沿ってクリス・ブラウンやジャスティン・ビーバーが登場してきたのも言うまでもない。

 さらに『Thriller 25』(2008年)にはカニエ・ウェストやウィル・アイ・アム、エイコンといった同時代のトップ・アーティストが参加していたのも思い出されるし、以降はニーヨやビヨンセ、ブルーノ・マーズ、ウィークエンドのようにソングライト面でもパフォーマンスの面でも先人の芸能/芸術的なレガシーに刺激を受けた顔ぶれが音楽シーンを大きく動かしている。日本や韓国の音楽エンターテイメントを見てもその影響は一目瞭然だ。

 そんな感じで〈マイケルの影響下にある人たち〉を集めると本当にキリがないので、ここでは40周年を迎えた『Thriller』にあえてポイントを絞ってみたうえで、同時代や後年に見えてきたさまざまな繋がりを紹介してみたいと思う。もしまだこの歴史的なアルバムを聴いたことがないという人がいたら耳にしてブッ飛ばされてほしい。仮にブッ飛ばされなかったとしても、たぶんあなたの好きなアーティストはマイケルと『Thriller』に繋がっている。

マイケル・ジャクソンの82年作の40周年記念盤『Thriller 40』(Epic/Legacy/ソニー)

左から、マイルス・デイヴィスの86年作『You're Under Arrest』(Columbia)、SWVの93年作『It's About Time』(RCA)、ナズの94年作『Illmatic』(Columbia)、LLクールJの95年作『Mr. Smith』(Def Jam)

左から、カニエ・ウェストの2007年作『Graduation』(Roc-A-Fella/Def Jam)、リアーナの2007年作『Good Girl Gone Bad』(SRP/Def Jam)、ブラック・アイド・ピーズの2009年作『The E.N.D.』(Interscope)、ニーヨの2010年作『Libra Scale』(Def Jam)、クインシー・ジョーンズの2010年作『Soul Bossa Nostra』(Qwest/Interscope)