ブラック・ミディは役目を終えた……のかもしれない。晴天の霹靂に見えたバンドの解散、その中心にいた男は早くも新しい音、新しいリズム、新しい未来を掌中に収めている!!!
素晴らしいバンドはもういない
2017年に結成されたブラック・ミディは、2010年代後半から現在に至るまでのUKロックを象徴するバンドのひとつと言える存在だった。150人近く入れば満杯になるサウス・ロンドンのヴェニュー、ウィンドミル周辺を中心としたロック・シーンで注目を集めた彼らは、ファースト・アルバム『Schlagenheim』(2019年)、2作目の『Cavalcade』(2021年)、続く『Hellfire』(2022年)という3作のアルバムがいずれも高評価を得るなど、着実にキャリアを積み重ねているように見えた。いまから約10年後、2010年代後半~20年代のUKロックを振りかえったとき、彼らはその時代を象徴するバンドとして数えられるであろう。それほどの才気を放っていた。
だが、その素晴らしいバンドはもう存在しない。今年の8月10日、ブラック・ミディのヴォーカル/ギターを務めていたジョーディー・グリープがInstagram Liveを行い、そこで〈ブラック・ミディはもうない(No more black midi)〉〈終わった(It’s over)〉と宣言したのだ。この宣言から数日後、バンドのマネージメント・サイドからコメントが発表され、それによると、ブラック・ミディの扉は開いたままだそうだが、グリープのインスタライヴをたまたまリアルタイムで視聴していた筆者からすると、このままグリープはソロ・キャリアを追求していくという印象を受けた。少なくともいまは、ブラック・ミディとしての活動に興味を持っていないのだろう。この現実には、寂しいと感じているのが正直なところだ。変拍子を駆使したグルーヴの多彩さがもたらす知的興奮と享楽性、さらにそうした芸当を実現させるための高い演奏スキルを持っていたブラック・ミディの音楽に夢中だったのだから。
その寂しさを拭いきれずにいる筆者のもとに、ジョーディー・グリープのファースト・ソロ・アルバム『The New Sound』が届いた。画家/イラストレーターの佐伯俊男による絵を掲げたジャケットが目を引く本作は、ブラック・ミディ時代の特徴もいくつか見受けられる。変拍子の多用、さまざまなジャンルと文脈が衝突したサウンドなどだ。相変わらずグリープはギターを弾き倒しているし、気難しい印象を与える歌声も健在。人によっては、ブラック・ミディのリズム隊を担っていたキャメロン・ピクトンとモーガン・シンプソンがいなくなっただけの作品に聴こえるかもしれない。オープニングを飾る“Blues”のイントロで響きわたるギターと細かいドラミングが醸す緊張感は、ブラック・ミディ作品ではお馴染みのものだ。