ヒップホップ、ソウル、ジャズ……Ovallの音楽は、そのどれでもあって、どれともちがう。ジャンルで言い表せない、だからどこにも属せなかった、と彼ら自身も語る。そもそも、2010年のデビュー作に掲げられた〈DON’T CARE WHO KNOWS THAT(誰がそれを知っていようが構わない)〉というタイトルからして、そのアティテュードは一貫している。
けれども、もちろんOvallの音楽はけっして聴き手を突き放すようなものではない。あたたかい包容力とパワフルに惹きつけるチャームを常に携えている。だからこそ、誰にも似ないインディペンデントなバンドとして、ここまで歩んできたのだろう。
そんなOvallが4年間の活動休止を挟んで、ひさしぶりのオリジナル・アルバム『Ovall』を発表する。セルフ・タイトル作ということで、どこか決意や覚悟を感じさせるが、実はここにはよりリラックスした姿勢が表れているのだとか。シンセサイザーを大胆にフィーチャーした楽曲が多いことなど、音楽的な変化と成熟、洗練を強く印象づける新作の背景を、Shingo Suzuki(ベース)、関口シンゴ(ギター)、mabanua(ドラムス)の3人が明かす。
ローズ・ピアノ禁止令
――Ovallの前作は『In TRANSIT [Deluxe Edition]』(2017年)で、これはorigami PRODUCTIONSの会員制サイト〈Oshite〉で2012年にリリースされたものの拡大版でした。今回の『Ovall』は、フル・アルバムとしては活動休止前の『DAWN』(2013年)以来、6年ぶりですね。
Shingo Suzuki & 関口シンゴ「そうですね」
――最初のシングル“Stargazer”を聴いたとき、シンセサイザーが鳴っているので驚かされたんです。新作を聴くと“Come Together”や“Triangular Pyramid”など、シンセが使われた楽曲が多くて、新機軸だと感じました。
Suzuki「これまで鍵盤楽器はローズ(・ピアノ)がメインだったんですけど、3人のなかでは〈シンセもいいんじゃないか〉っていう空気があったんです。“Stargazer”のシンセはヤマハDX7を再現したArturiaのプラグインで、プリセットの音がいいのでそれを元に作っています。アップデートされたヴィンテージ・シンセ、みたいな印象の音で、そのエッセンスは大きく関わっていますね」
――DX7の音色って、最近よく聴くようになりましたね。
Suzuki「以前は〈ムーグ・シンセじゃなきゃダサい〉という風潮もありましたが、最近は80sや90sのリヴァイヴァルになってきている。80sといえばFM音源で、その代表格がDX7なんです。90sになるとPCM音源のチープな音色に変わってきますね※。たとえば、ブルーノ・マーズが80sや90sの音楽を大胆にかっこよく見せているとか――あれはギリギリ、パクリかそうじゃないかのラインですよね(笑)。
そういう状況もあって、なにか新しく聴かせたいなと思ったとき、グルーヴはこれまでと変わらないけど、着せるものを変えるだけでフレッシュに聴こえる、ということを意識しました」
――でも、ローズを弾いてる曲も少なくないですよね。
Suzuki「最初に“Stargazer”を作ったとき、意気込みとしては〈ローズ禁止令〉が出ていたほどで(笑)。でもローズの音もOvallらしさに含まれていると気づいたこともあって、だんだん解禁されて」
――〈フレッシュなOvall〉と〈これまでのOvall〉の両方が入っている作品だと思いました。
mabanua「“Slow Motion Town”には初期に近い感じもあるんですけど、“Stargazer”には初期になかったテイストがありますね。音楽性が180度変わっちゃうと、活動再開を待ってくれていた人たちに対してどうなんだろうって。
いままでのOvallにはカラフルなところが多かったんですけど、うちらも歳を重ねてきて、そんなにカラフルに、世に迎合しなくてもいい年齢になってきた。なので、シックにストイックにやろうって。アー写もそうだし、タイトルもメッセージを込めたものじゃなくて、シンプルに〈Ovall〉でいいんじゃないかなと。削ぎ落とされたソリッドさを提示したかったんです」
――でも、Ovallが世に迎合していたイメージはないですね。
mabanua「バリバリ迎合していた部分もありましたよ(笑)」
Suzuki & 関口「できなかったんだろうね」
mabanua「どこにも属せないのが、うちらの弱みであり強みというか。〈ROCK IN JAPAN FESTIVAL〉とかにサポートで出たりすると、超アウェイですから(笑)。かといって、怖い人たちがいっぱいいる深夜のクラブみたいな場所にも居場所がない」
Suzuki「床屋で〈音楽をやっているんです〉って話になって、〈どんな音楽ですか?〉って訊かれたんだけど、一言で言えなくて(笑)。答えに詰まっているあいだに話題が流れました。かといって、〈『Ovall』という音楽をやってます〉とは言えないよね(笑)」
mabanua「気づいてくれる人には気づいてほしいんだけどね」
どこにも属せなかったけれど、確実に足跡を残しているOvallというバンド
――これは柳樂光隆さんがOvallへのインタヴューで言っていたことの受け売りでもあるのですが、以前よりもOvallが存在しやすいシーンに変わってきたとも思うんです。
mabanua「たしかにそうなんだけど、だからといって、いま盛り上がっている輪の中に入り込めるわけでもなくて。いってみれば、完全にデビューする時期をまちがえた。就職氷河期に就活していた、みたいな(笑)」
Suzuki「周りを見ずに作ってきたから、どこにも属せていないんだよね。最近はOvallから影響を受けているのがわかる、若くて新しいバンドもいますね。彼らはそれをわかりやすく歌謡曲的に表現し直しているので、裾野が広がって、ファンがOvallを知ってくれることもあります。それなりに続けてきて、ちょっとは足跡を残せているのかなって」
mabanua「ひとから聞いた話なんですけど、〈Ovallがなかったら、いまの俺らはなかった〉って言ってくれたバンドがいたらしいんです。あと、あるバンドのヴォーカリストが〈こういうドラムにしたいんだよ〉って俺の曲をメンバーに聴かせたっていう話も聞いて。〈なんだ〜〉みたいな(笑)」
――〈言えよ〜〉って(笑)。
mabanua「〈素直になれよ〜〉ってね(笑)。ぜんぶ又聞きなんですけど」
Suzuki「一回り上の世代の人たちに気にしてもらえるのも、うれしいんですよね。真心ブラザーズのお2人が、“Take U to Somewhere”(2010年作『DON’T CARE WHO KNOWS THAT』収録曲)がどうやって組み上がっているのかを知りたいって言っていたとか。それも、伊藤大地くんから聞いたんだけど」
――もしかしたら、Ovallの3人は話しかけづらいのかも(笑)。
mabanua「感じが悪いんですかね(笑)」