インタビュー

イーサン・アイヴァーソン・トリオ 『Common Practice』 レジェンドたちがジャズをどのように考えて演奏しているか、その理解の深さが音楽を進化させる

写真提供/COTTON CLUB 撮影/山路ゆか

バッドマイナス?! ジャズの掟

 イーサン・アイヴァーソンは、バッド・プラスのピアニストだった。バッド・プラスは2003年にメジャーデビューを果たし、2016年にリリースした『It’s Hard』で彼ら三人が考えるもっとも理想的な音楽を作り上げた。翌年、イーサンはバンドを抜けている。今回、ドラマーのビリー・ハートと来日したイーサンに、トム・ハレルと録音した新譜『Common Practice』のことなどを中心に聞いた。「トムはほんとうに素晴らしいプレイヤーだ。この録音ではこれまでの中でもベストと言える彼の演奏が聴ける」。

ETHAN IVERSON QUARTET Common Practice ECM(2019)

 イーサンにしては珍しくジャズのスタンダードが並び、彼の演奏スタイルも随分とトムの演奏によりそってオーソドックスになったのは、タイトルにあるような最初に方向性を決めたライヴ・レコーディングだったからだろう。「そうだね。このタイトルはクラシックの16~19世紀、バッハより少し前からワーグナーくらいまでの音楽様式のことを意味する用語なんだ。今のジャズはとても多様で折衷的な音楽になったから、それに対して伝統的なジャズの様式を示すことばとしても使えるんじゃないかと思ったんだ。僕の音楽、ジャズもバッド・プラス、マーク・ターナーとのデュオ、さらにビリー・ハートとのカルテットでは随分と違って聴こえるでしょ」。

 マーク・ターナーとのデュオはまるでヒンデミットを聴いているみたいだし、バッド・プラスのピアノはまるで、チャールズ・アイヴスのようだ。「なかなかいい線ついてるよ(笑)。バッド・プラスではいわゆる三和音で音楽を組み立てようとした。ジャズでは随分稀な響きだよね」。

 だからバッド・プラスのレパートリーの大半はロックだったのだ。「だけど僕が言いたいのはトムの音楽が僕たちの今のジャズと比べて古いということじゃない。今の世代のジャズは、その前の世代の音楽、ジャズの歴史の中で起きている出来事なんだということ。ビリーやトムのような音楽家の演奏や音楽の理解の仕方、そのすべてが僕らの“Common Practice”を支えているんだ」。

 以前フレッド・ハーシュに取材した時、「今の子供たちはジャズは、パット・メセニーやキース・ジャレットが作ったと思っている」と嘆いていた。「レジェンドといわれた音楽家がジャズをどのように考えて演奏しているのか、それについて理解を深めることが大切。その理解の深さが音楽を進化させるんだと思うよ」。 DO THE M@TH、という彼のオフィシャル・サイトがある。彼自身が行ったジャズ・ミュージシャンのインタヴューがアップされている。ぜひ、チェック。

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