セルが選んだ1732年製のグァルネリでDGに唯一残した録音を世界初SA-CD化!
2019年9月、往年のドイツの名ヴァイオリニスト、エディト・パイネマン(1937年3月3日生まれ)全盛期の録音が2点同時に発売され話題を集めている。第2次大戦後のドイツ・ヴァイオリン界は深刻な人材払底に悩んでいた。ナチス政権によるユダヤ人追放と戦火による犠牲により、国際的なヴァイオリニストが1人もいなくなってしまったからである。1956年、パイネマンが19歳で難関として知られるARDミュンヘン国際音楽コンクールに優勝すると、セル、スタインバーグ、カイルベルト、ヴァントといった大指揮者たちがこぞって彼女に惚れ込み、世界各地で起用するようになった。とくにセルは彼女の後見役のようになり、1964年には名器1732年製のグァルネリ・デル・ジェスを貸与する手助けをしたほどだった。1966年にDGからデビューLPが出て順風満帆と思われたが、その後は商業録音が僅かしか出なかった。背景にはセルがレコード会社との契約を保留させていたことがあったが、1970年にセルが急逝してしまったため、パイネマンは契約の時機を逸してしまったのである。その代わり、フリーの彼女にはドイツ各地の放送局から放送用録音の依頼が集り、1990年代まで夥しい数の音源が残されることとなった。現在、これらが彼女自身の監修の下、続々とCD化されているのである。
今回発売の1点もベルリンのSFB放送局への放送録音を3枚組にまとめたもの。シューベルトといい、シューマンといい、ブラームスといい、戦前のドイツの巨匠たちのような深く柔らかな音色を用いた陰影深い表現、優美な音楽性、楽曲の行間に漂う情趣を良い音で味わうことができる。もう1点は前述のDGからのデビュー盤を世界初SACDハイブリッド化したもの。ドヴォルザークの音楽の爽やかさ、朗らかさ、人懐っこさ、物悲しさなどの諸要素を、瑞々しい音色と滑らかなテクニックで見事に表現した名演。バックのチェコ・フィルの奏者たちとの掛け合いも実に愉悦的だ。