〈エモ〉から〈普遍〉へと歩む
どうも昨今では〈エモい〉という言葉が、いわゆる音楽ジャンルの〈エモ〉とは無関係で使われているらしい。
ジミー・イート・ワールドといえば、〈エモ・シーンの最高峰!〉みたいな形容が手っ取り早かったけれど、実はそう呼ばれることを当人達があまり快く思っていないという複雑な事情を考えたら、いっそ〈エモ〉というジャンルを知らない人が増えていったほうがいいような気がしたりもする。彼らの鳴らす音は、押し付けられたレッテルを超えて普遍的に輝く価値を持っているからだ。
そんなことも踏まえて、このバンドのことを、あらためて丁寧に説明し直すとすれば〈ハードコア・パンク〜ポスト・ハードコアの流れから登場してきた、熱いばかりでなく、美しいメロディーを奏で、“いい歌”を聴かせてくれるパンク・バンド〉といったところだろうか。フォール・アウト・ボーイやパニック・アット・ザ・ディスコといったフォロワーが、〈エモ〉を巨大化させていった状況にも我関せずといった風情で、ジミー・イート・ワールドは己の道を堅実に歩み続けてきた。新作『Surviving』を機に、その歴史を振り返ってみよう。

作品ごとに挑戦し続けるディスコグラフィー
ジム・アドキンス、ザック・リンド、トム・リントンによって、米アリゾナ州メサで93年に結成された彼らは、2年後にキャピトル・レコーズとサインし、ベーシストにリック・バーチを迎えて『Static Prevails』(96年)でメジャー・デビューを果たす。当初はトムがリード・シンガーで、よりストレートなパンクをやっていたのだが、ほどなくしてジムがメインのヴォーカリストを担う体制となり、それと同時に音楽性を大きく広げて完成させたのが、いまだに最高傑作に推すファンも多い『Clarity』(99年)だった。しかし、“Lucky Denver Mint”を筆頭に、聴けばすぐ頭に残る/大好きになってしまう佳曲がたくさん詰め込まれた、素晴らしいアルバムだったにもかかわらず、なぜかキャピトルはバンドとの契約を打ち切ってしまう。
一般のバンドなら解散したっておかしくないような事態にも、彼らはさして動じることなく、新たなレーベルも定まらないまま、黙々と次のアルバムのレコーディングに入った。そうして、逆境をものともせず作り上げたのが『Bleed American』(2001年)だ。冒頭のタイトル曲を筆頭に、後半の展開が素晴らしい“A Praise Chorus”、テイラー・スウィフトも青春の1曲として挙げた“The Middle”、ビールのCMで使われたことから日本でも代表曲として広く知られている“Sweetness”などと、まさに必殺のナンバーを揃えた同作品は、最終的にドリームワークスから発売されて大ヒット。それ以降もジミー・イート・ワールドは、活動停止どころか1度のメンバー・チェンジもないまま、きっちり3年おきにアルバムを制作し、そのポップ・センスの真髄に磨きをかけ続けている。
2004年発表の『Futures』では、ピクシーズやフー・ファイターズを手がけたギル・ノートン、続く2007年の『Chase This Light』は、90年代オルタナティヴの影の功労者であるブッチ・ヴィグ(ガービッジ)と、作品ごとに偉大なプロデューサーの師事を受けながら、バンド自身も、サウンド・プロダクションに関する知識や技術を身につけていく。2010年にリリースした『Invented』になると、初期作品に貢献したマーク・トロンビーノの助力を得て、セルフ・プロデュース体制を実現。さらに、2013年の『Damage』では、アラン・ヨハネス(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、PJハーヴェイほか)のもと、アナログ録音に挑戦した。
終わりのない旅を続けることを宣言した新作『Surviving』
先頃リリースされた最新アルバム『Surviving』は、前作『Integrity Blues』(2016年)に引き続きジャスティン・メルダル・ジョンセン(元ベックのバック・バンドのベーシストで、近年ではパラモアやウルフ・アリスのプロデュースもしている)を共同プロデューサー、ケン・アンドリュース(フェイリュアー)をミキシングに起用するという、ジミー・イート・ワールドにしては珍しく同じチームで作られた。この結果、守りに入ったどころか、すでに気心の知れた顔ぶれという環境となって、いっそう音楽的なチャレンジを推し進めることができたそうだ。
先行シングル“All The Way”は初めてサックス・ソロをフィーチャーし、異様なメイクを施したジムが登場するビデオがインパクト満点の“555”ではシンセ・ベースを押し出すなど、実際にさまざまなことが試みられている。それらは決して小細工のレヴェルでは終わらず、ここ数作品のなかでもとりわけ明瞭な成果として結実したように思う。アルバム・タイトルには〈終わりのない旅を続けていこう〉という力強い決心が反映されており、その意志はきっとリスナーの人生にも優しく寄り添ってくれるはずだ。
変化を恐れないからこそ、真のエモーションを宿す
これまで、ジム・アドキンスには何度もインタヴューしているが、彼はいつも「同じところにとどまっているわけにはいかない。常に前進していきたいんだ」といった趣旨の心情を力強く語る。かといって、レディオヘッドのように根本からサウンドを変化させてしまうようなことはせず、彼らにしか生み出せない最上級のメロディーとフックを持つ極上のポップソングを大事に大事にしながら、そのなかで着実な変革を慎重に続けているのだ。だからこそ、ジミー・イート・ワールドの音楽に宿る真のエモーションは、永遠に色褪せない力を持っているのだろう。
では、最後に2010年に筆者が行ったインタヴュー※より、ジムの言葉を引用して、この稿を締めよう。
「僕は、このバンドに限界を感じたことがないんだ。僕たちはこれまでのアルバムでもすごくいい仕事をしてきたと思う。つまり、メロウなアコースティック・ナンバーでも、ヘヴィーなギター・ロックでも、気が滅入る不吉なサウンドの曲でも、どんな曲だろうと関係なく、自分たちが興味を持てて、好きになれる曲を追い求めてきた。そうすることで、このバンドは、常にやりたいことが何でもできる無限の可能性を持ち続けてきたし、同時にどんなことをやってもジミー・イート・ワールドになるってところまで辿り着くことができたと思う。今後も僕たちはずっと僕たちであり続けるだろうし、その意味では変わらない。だからバンドとして、僕たちにできることはまだまだたくさんあるんだ」
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