〈エモ〉から〈普遍〉へと歩む

どうも昨今では〈エモい〉という言葉が、いわゆる音楽ジャンルの〈エモ〉とは無関係で使われているらしい。

ジミー・イート・ワールドといえば、〈エモ・シーンの最高峰!〉みたいな形容が手っ取り早かったけれど、実はそう呼ばれることを当人達があまり快く思っていないという複雑な事情を考えたら、いっそ〈エモ〉というジャンルを知らない人が増えていったほうがいいような気がしたりもする。彼らの鳴らす音は、押し付けられたレッテルを超えて普遍的に輝く価値を持っているからだ。

そんなことも踏まえて、このバンドのことを、あらためて丁寧に説明し直すとすれば〈ハードコア・パンク〜ポスト・ハードコアの流れから登場してきた、熱いばかりでなく、美しいメロディーを奏で、“いい歌”を聴かせてくれるパンク・バンド〉といったところだろうか。フォール・アウト・ボーイやパニック・アット・ザ・ディスコといったフォロワーが、〈エモ〉を巨大化させていった状況にも我関せずといった風情で、ジミー・イート・ワールドは己の道を堅実に歩み続けてきた。新作『Surviving』を機に、その歴史を振り返ってみよう。

JIMMY EAT WORLD Surviving RCA/ソニー(2019)

 

作品ごとに挑戦し続けるディスコグラフィー

ジム・アドキンス、ザック・リンド、トム・リントンによって、米アリゾナ州メサで93年に結成された彼らは、2年後にキャピトル・レコーズとサインし、ベーシストにリック・バーチを迎えて『Static Prevails』(96年)でメジャー・デビューを果たす。当初はトムがリード・シンガーで、よりストレートなパンクをやっていたのだが、ほどなくしてジムがメインのヴォーカリストを担う体制となり、それと同時に音楽性を大きく広げて完成させたのが、いまだに最高傑作に推すファンも多い『Clarity』(99年)だった。しかし、“Lucky Denver Mint”を筆頭に、聴けばすぐ頭に残る/大好きになってしまう佳曲がたくさん詰め込まれた、素晴らしいアルバムだったにもかかわらず、なぜかキャピトルはバンドとの契約を打ち切ってしまう。

『Clarity』収録曲“Lucky Denver Mint”
 

一般のバンドなら解散したっておかしくないような事態にも、彼らはさして動じることなく、新たなレーベルも定まらないまま、黙々と次のアルバムのレコーディングに入った。そうして、逆境をものともせず作り上げたのが『Bleed American』(2001年)だ。冒頭のタイトル曲を筆頭に、後半の展開が素晴らしい“A Praise Chorus”、テイラー・スウィフトも青春の1曲として挙げた“The Middle”、ビールのCMで使われたことから日本でも代表曲として広く知られている“Sweetness”などと、まさに必殺のナンバーを揃えた同作品は、最終的にドリームワークスから発売されて大ヒット。それ以降もジミー・イート・ワールドは、活動停止どころか1度のメンバー・チェンジもないまま、きっちり3年おきにアルバムを制作し、そのポップ・センスの真髄に磨きをかけ続けている。

『Bleed American』収録曲“The Middle”
 

2004年発表の『Futures』では、ピクシーズやフー・ファイターズを手がけたギル・ノートン、続く2007年の『Chase This Light』は、90年代オルタナティヴの影の功労者であるブッチ・ヴィグ(ガービッジ)と、作品ごとに偉大なプロデューサーの師事を受けながら、バンド自身も、サウンド・プロダクションに関する知識や技術を身につけていく。2010年にリリースした『Invented』になると、初期作品に貢献したマーク・トロンビーノの助力を得て、セルフ・プロデュース体制を実現。さらに、2013年の『Damage』では、アラン・ヨハネス(クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジ、PJハーヴェイほか)のもと、アナログ録音に挑戦した。

『Futures』収録曲“Work”