バンドマンの魂がここにある!
マーティ・フリードマンに映画『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』のみどころを聞く

――マーティさんが『ヘヴィ・トリップ』をご覧になった率直な感想を聞かせてください。

 期待以上に楽しかったよ! 実は僕、フィンランドの映画は初めて観たんだけど、インペイルド・レクタムの4人には、すごく共感できる。バンドマンの魂は全世界共通なんだと思ったよ。北欧諸国はむかしからメタル人気が高くて、僕たちが演奏しに行くといつもすごく盛りあがってくれるんだ。特にフィンランドはすごくて、まだ無名だったころからスターのように扱ってくれた。だからこういう映画が出てきてうれしいな。

――彼らのどんなところに共感を持ちましたか?

 まず、日本と欧米のバンドマン事情から説明したほうがいいと思うんだけど、日本のバンドマンって、意外と真面目じゃない? 勉強ができたり、女の子にもモテるのにバンドをやる。でも向こうでは違うんだ。勉強もできないし、スポーツもできなくて、仕方がないから音楽でもやんないとモテない、そんな連中が集まってバンドをやるっていうのが普通なんだよね。

――マーティさんはそう見えないですけれど……そうだったんですか?

 僕はスポーツをやりたかったんだけど、体格もセンスも全然向いてなかった。だから、彼らの気持ちもよくわかるし、すぐに友達になれると思う。メンバーたちはそれぞれキャラクターがハッキリしてて、わかりやすいよね。特にベースのパシ/クシュトラックスが最高! メタルにめちゃくちゃ詳しくて、バンドのジャンル名もすごく長くしちゃう。本当にいるんだよね、こういうヤツ(笑)。観ていて思わず笑っちゃうんだけど、そういうツボを突いてくるポイントがいたるところに散りばめられているから飽きなかったよ。

©Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018

――“終末シンフォニック・トナカイ粉砕・反キリスト・戦争推進メタル”ですね(笑)。

  “トナカイ粉砕”が効いてるね! さすがフィンランドだなぁ(笑)。この映画で面白いな、と思ったのは、アメリカやイギリスとかのフィルターを通していなくて、純フィンランドのストーリーになっているところだと思う。例えばこの手のアメリカ映画だったら、観ていて「次はこういう展開になるな」ってだいたい想像がつくんだけど、本作は本当にサプライズの連続で、次に何が出てくるかわからない。笑いのツボもアメリカや日本とも違って独特だよね。最初は「え!? このシーンってそんなに面白いの?」って思うんだけど、慣れてくると病みつきになっちゃう感じ。

――音楽はストラトヴァリウスのラウリ・ポラーが担当していますが、どんな印象を持ちましたか?

 とてもバランスが取れていると思う。インペイルド・レクタムがやってるのはジャンルでいえばデスメタルになると思うんだけど、ガチにやるとすごくハードでダークだし、もう耐えられないほどのノイズ感もある。だけど本作では本格的なんだけどキャッチーにまとめられていて、メインストリームでも勝負できるデスメタルという感じに仕上がってる。あと、ポップメタルとかパワーメタルとか、それぞれのシーンにふさわしい音楽が使われていて、すべてのヘヴィ・メタルを祝福しているような感じがしたよ。監督は2人いるの? 彼らは本当に音楽が好きなんだと思う。そして、インペイルド・レクタムって実は2人そのものなんじゃないかっていうぐらいに愛情が伝わってきたよ!

――2人の監督(ユッカ・ヴィドゥグレン&ユーソ・ラーティオ)は、こんなことを言っています。「金持ちや有名人になる見込みも薄くモテないバンドマンたちの映画を作りたかった。現代の音楽業界で彼らのようなブレないバンドこそが芸術で最後の砦と呼べる」。これについてはどう思いますか?

 それ、チョーわかる!! だって、さっきも言ったけど、ルックスも悪いし学校の成績も悪いなんてヤツが、かわいい女の子と付き合えるわけないじゃん(笑)! でも、最後の望みをバンドに託すんだよね。そんな中、メタリカを筆頭に成功するバンドも出てくるでしょ? 彼らみたいになるぞ! と思ってみんな頑張るんだ。インペイルド・レクタムはライヴの予定はないけれど、いつでもライヴできるように車の中で練習してる。ライヴやりたい! という純粋な気持ち、それこそバンドマンの魂だよね。そうして努力し続けたバンドが結果的に成功するんだ。

――劇中にはヴォーカルのトゥロをバカにする村のヤンキーなども登場しますが、彼らについてはいかがですか?

 僕はアメリカの田舎で育ったから、よくわかる。本当にいるんだよ、ああいうヤンキー。普段はバカにしてくるくせに、ちょっとでも成功するとすぐに手のひらを返したようにゴマをすってくる(笑)。基本的に、最初はバンドをやるなんていっても応援してくれる人はいないよね。ちゃんとした仕事じゃないし、儲からないし。だから、そういう反対する人たちを乗り越えるのも成功するには必要かな。そんな細かいところまでリアルだから、やっぱり監督もバンドマンなんじゃないかな(笑)。

――最後に、改めてマーティさんからのおすすめコメントをお願いします。

 メタル・ファンはもちろん、そうでなくても楽しめる映画だよ! ストーリーも登場人物の設定もシンプルだから純粋に楽しめるし、笑えるし、何よりバンドマンの魂がストレートに伝わってくるのがいいね。インペイルド・レクタムの4人が好きな音楽にかける情熱は、バンドをやっている人が観たら、ジャンルに関係なく共感できるはず。最近はミュージシャンの映画が本当に多いけど、その中でも僕的には本作がいちばんヒットしたよ! ぜひ一人でも多くの音楽ファン、そしてバンドマンに観てもらいたいな。

 


CINEMA INFORMATION

映画「へヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!」
プロデューサー:カイ・ヌールドベリ/カーレル・アホ
監督:ユッカ・ヴィドゥグレン/ユーソ・ラーティオ
原作:クリスティン・ルーネンズ 『Caging Skies』
音楽:マイケル・ジアッチーノ
出演:ヨハンネス・ホロパイネン/ミンカ・クーストネン/ヴィッレ・ティーホネン/マックス・オヴァスカ/マッティ・シュルヤ/ルーン・タムディ/他
配給:SPACE SHOWER FILMS(2018年 フィンランド=ノルウェー 92分)
©Making Movies, Filmcamp, Umedia, Mutant Koala Pictures 2018
heavy-trip-movie.com
◎12月27日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほかにてロードショー!