メタル愛と日本の音楽への愛を融合したカヴァー集の第3弾が見参! 世界トップクラスの超絶ギターは最強の楽曲たちをどう解釈した?

 数々のバンド活動歴に加えて伝説的なTV番組「ヘビメタさん」を筆頭にメディア露出も多く、日本でもっとも愛されているメタル・ギタリストといえばマーティ・フリードマンだろう。彼がオリジナル作と並んで続けているJ-Popのカヴァー・インスト・シリーズの第3弾『TOKYO JUKEBOX 3』を、前作から約9年ぶりに完成させた。

MARTY FRIEDMAN 『TOKYO JUKEBOX3』 avex trax(2020)

「この9年間で世界ツアーを何度もやって、海外で日本の曲を一杯やったんですよ。最初は僕のオリジナルだと勘違いされるんだけど、後でまた同じ国に行くと、そのときは日本のオリジナル曲を調べたり、日本語を勉強してくれる人までいる。だから、自分は文化の架け橋みたいな存在だと思ってますね」。

 今回も最新ヒットから懐かしい90年代の曲、あるふぁきゅんを迎えたセルフ・カヴァーの“The Perfect World”まで幅広い楽曲がピックアップされている。

 「ひとつのカヴァーに対して10個ぐらいデモを作るんですよ。弾いている時間より、聴いて反省する時間のほうが多いですね。インストだけど、カヴァーを通して何か意味を伝えたいんですよ。鳥肌を立たせたい、元気になってほしいとか。例えばZARDの“負けないで”あるじゃん。曲の中で具体的に何を乗り越えるのかを表現したくて。だから、いきなり地獄に落ちるようなパートを設けて、その後がさらにハッピーな世界になるように考えました」。

 原曲にさらなるダイナミクスを加えるんですね?と問うと、マーティはこう返した。

 「日本で言うと〈メリハリ〉。アメリカ人は知らない言葉(笑)」。

 収録曲は確かにマーティ流のメリハリを施したオリジナルな解釈ばかり。LiSA“紅蓮華”やOfficial髭男dism“宿命”など近年のヒットも多く取り上げられている。

 「“紅蓮華”はいちばん難しかった。メインストリームど真ん中のアニソンで、ヘンな言い方だけど、持ち出すところがあまりないんですよ。LiSAのヴォーカルが素晴らしいから、彼女の歌のニュアンスをギターで真似してます。間奏はギター・ソロ多めでギター・ファンが喜ぶようにしました。“宿命”に関しては、僕は基本的にシャッフルが嫌いなんですけど、Aメロはシャッフルじゃないのにわざわざそのフレーズを入れたんですよ。マーティ初のシャッフルです。エディが亡くなって悲しいんですけど、ヴァン・ヘイレンの“Hot For Teacher”のシャッフルもたまらないですね。エディは神様、ギターの世界の美空ひばりさんですから」。

 まさかヒゲダンからエディの話に移るとは思わなかった。他にもDA PUMP“U.S.A.”という倒錯的な選曲が痛快だ。

 「アメリカに憧れた内容の日本の曲をやるアメリカ人は僕だけだよね(笑)。イントロはすごく東洋的で僕には中国っぽく聴こえる。文化の混ぜ方がメチャクチャだから笑ってもらえると嬉しいですね」。

 一方、マーティとの共演歴もあるももいろクローバーZの“行くぜっ!怪盗少女”ではメタル魂を注入した超絶ヘヴィーな解釈にニヤリとさせられる。

 「心はヘヴィー命ですよ。レディー・ガガの前座にBABYMETALが出たじゃん。メタルを聴かないような人たちにゴリゴリのギターを無理やり聴かせることがメタルの魂だと思ってます」。

 そんなメタル愛と日本の音楽への愛をまた違う形で昇華した曲こそ、文化庁公認の日本遺産大使を務める彼が書き下ろした日本遺産テーマ曲の“JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG”だ。東京フィルハーモニー交響楽団とコラボし、和とメタルを融合させた感動の一曲に仕上がっている。

 「話が来たときは信じられないくらい光栄でした。日本人が反応するエモーションは、切なさ、メリハリ、メジャーなのに哀しい。これは大事ですね。アメリカの70年代のポップスにはそういうのがあって、例えばトニー・オーランド&ドーンとか、メジャーだけど涙が出るんですよ。カーペンターズのバラードもそうですね。この曲は繊細なメロディーと深いメリハリを付けて作りました」。

 目から鱗が落ちるマーティの軽妙なトークに圧倒されたが、今作は高次のテクニックとセンスを凝縮した名インスト・カヴァー作と言いたい。

 

関連盤を紹介。

 

原曲を収めた作品。