ジャズピアニスト西山瞳さんによるメタル連載〈西山瞳の鋼鉄のジャズ女〉。2026年最初の更新は、1月19~21日におこなわれたキコ・ルーレイロの来日ツアーの東京公演をレポート。ファン視点と音楽家目線が同居した西山さんのライブ評から唯一無二のギタリストの魅力が伝わってきます。 *Mikiki編集部
1月21日、Spotify O-EASTで開催されたキコ・ルーレイロ〈THEORY OF MIND JAPAN TOUR 2026〉の東京公演に行ってきました。
大阪、名古屋、東京と3か所で開催の今回のツアーは、アングラのメンバーであり、キコのソロプロジェクトのレコーディングメンバーでもあるフェリッペ・アンドレオーリ(ベース)、ブルーノ・ヴァウヴェルデ(ドラムス)が参加。そこに、ルイス・ロドリゲス(ギター)、アリリオ・ネット(ボーカル)が加わるという布陣です。

キコ・ルーレイロといえば、なんといってもアングラ、そしてメガデスでの活躍もあり、何度もこちらの連載で取り上げています。
並行してコンスタントにソロ活動をしており、軸足はメタルに置きながら、ジャズフュージョン、ブラジル音楽もミックスした、インストゥルメンタルのアルバムを何作もリリースしています。
卓越したテクニックとセンス、様々な音楽スタイルを包括した唯一無二のギター音楽家として、ジャンルを跨いだミュージシャンからのリスペクトを集めています。

このツアーの東京公演は、ゲストにマーティ・フリードマン(ギター)が参加ということで、満員の中、非常に濃密な2時間が繰り広げられました。
19時ぴったり、定刻に開演。
1曲目は、最新アルバム『Theory Of Mind』(2024年)から“Blindfolded”。バックドロップも『Theory Of Mind』のジャケットなので、このまま最新アルバムから演奏するのかと思いきや、2012年作『Sounds Of Innocence』から“Reflective”、2020年作『Open Source』から“Overflow”と、過去のアルバムで印象的な曲が続きます。
スニーカーで颯爽と現れたキコ。ライブで何度も見ていますが、轟音のメタルで、大抵ステージに乗っている他のメンバーは皆暑苦しいのに、いつもこの人の周りだけは常に爽やかな風が吹いているようです。にこやかな印象が強いからでしょうか。
そして、どれだけ細かいことを弾いていても、余裕に見える。なめらかなフィンガリングは美しく、演奏にもやもやした不明瞭なところが全然なくて、とっても気持ち良い。
“Reflective”は、普通なら機械的に聞こえるアルペジオも、メロディのように歌って聞こえたのが印象的でした。
“Overflow”は、生で聴くとより重心が低く、ベース、ドラムとのコンビネーションが抜群。アングラ、ソロプロジェクトで育てた、2人との結束の強さを感じます。
続いて2005年のアルバム『No Gravity』から、ブラジル色の強い“Pau-De-Arara”。踊りたくなるような明るいグルーヴに会場が包まれました。まるでエルメート・パスコアールの曲のようですね。アコースティックなブラジル音楽編成だとフルートに割り当てられるような16分音符のパッセージをギターで正確に演奏していき、その前後はロックギターのエモいソロになるのがとっても面白い。ロックとブラジル音楽が同居している、キコならではの演奏です。
次曲は最新アルバムに戻り“Mind Rise”。大きく歌うメロディが印象的で、少しエキゾチックにも聞こえます。そしてまた高速チューン“Dilemma”(2005年のアルバム『No Gravity』より)。
緩急しっかりついたプログラムで、ここまでインストゥルメンタルだけの演奏ですが、バリエーション豊かで素晴らしい。
ここまでバンドメンバーに特に照明スポットが当たるような時間がなかったのですが、職人に徹していましたね。特にドラムのブルーノ・ヴァウヴェルデは、曲のバリエーションがアングラの時よりも多い分、フュージョン系の能力をフルに出せるのではと思います。フェリッペ・アンドリオーリも、粘りとうねりが際立ち、2人ともアングラの時以上に、素晴らしいプレイヤーだなと思いました。
同時に、ここに集まった観客も素晴らしいですよね。だって、ずっとギターソロですよ。ずっとインストですよ。
今日の観客は〈なんとなく〉ではなく、ギターを聴きに来ている人ばかり。それから、アングラ、メガデスという文脈でプレイされる曲を期待して来られた方も多いでしょう。ギターソロをスキップするどころか、前のめりに浴びに来た方ばかりが集結。そんな観客も、素晴らしいなと思いました。

そして次は、メガデスタイム。
“Conquer Or Die!”、“Dystopia”、 “Killing Time”と、キコがメガデスに在籍していた時の曲が演奏されます。
なんとキコがボーカルまで担当。ここまで凄い音数を弾いてきて、ヘドバンして、ステージの下手から上手まで満遍なく移動しお客さんを盛り上げて、それだけで凄いのに、ここで歌も追加。歌手もツアーメンバーにいるのに、任せず歌うんだ!
ボーカルと、歌に被って入ってくるギターソロや合いの手も自分で弾くもんですから、忙しい忙しい。でも、できちゃうんだ!
歌にギターに忙しいなか、常に観客に向き、観客と心が離れる瞬間がありません。いや、当然なんですけど、最近個人的に〈お家で上手くなりすぎた系(InstagramやYouTubeから出てきたプレイヤー)〉と呼んでいるプレイヤーは、ステージ上でもわりと指板を見ているので、煽ってくれよ! こっち向いてくれよ!と、思っちゃう時もあるんですよね。
観客も一緒にステージを作る仲間だと、そんなアティテュードで観客に向き合い、ステージングしてくれるギターヒーローを見ると、嬉しくなります。

次は、お待ちかねのアングラタイム。
中でも驚いたのが、“Nothing To Say”でのアリリオ・ネットの歌唱。昨年末、アングラからファビオ・リオーネが脱退することが、アナウンスされました。アリリオ・ネットって、後任ですか? 私は不勉強にもこの方を知らなかったのですが、突然出てきて、あまりにも歌えていて、驚きました。
数あるメタルバンドの中でも、アングラのシンガーはハードルが高すぎる。キーも高すぎる。技術も音楽力も馬力も特上でないとアングラの曲は歌えないと思うのですが、普通に“Nothing To Say”を完璧に歌っており、びっくりしました。
続く“Late Redemption”は名作『Temple Of Shadows』収録のナンバーですが、今度は全く違うタイプの曲。キコと2人、アコースティックで語り部のように歌い上げ、艶やかで表現力も抜群。
キコの歌との掛け合いも良くて、ちゃんとアングラ独特のサウダージ感もあり、非常に素晴らしかったです。

そして、ついにマーティ・フリードマンを呼び出し、マーティタイム。
マーティのソロアルバム『Inferno』から“Hyper Doom”。そして“Tornado Of Souls”は、どうしたって盛り上がりますよね。
2023年、メガデスの武道館公演にマーティ・フリードマンがゲスト参加したという大事件がありました。おそらくその時に、キコとマーティは初めて同じステージに立ったのだと思いますが、また見られるなんて。
その後演奏されたブラジル曲でのソロの応酬もスリリングで、ジャムっぽい雰囲気もあり、ベースとドラムも自然とヒートアップ。その場で即興的にバンドが登っていく時間を体験できました。
2人が向かい合い交互に弾き、それぞれの個性が際立ちます。キコはスタイリッシュで明晰。そして、常にどこか穏やかな部分があり、サウダージな情感。マーティはやんちゃで遊び心たっぷり。そして、演歌や歌謡曲を踏まえたダイナミックな叙情。
共通するのは、演奏の根底にどうしようもなく〈歌〉があること。聴く我々も、大量の音数ではなく、この〈歌〉を感じたいから聴きに来ているのかもしれないなどと考え、この貴重な邂逅の時間を楽しみました。
この後、マーティ曲の“Tearful Confession”が、素晴らしかった。演奏前にマーティが「和風のイメージだと思っていたのに、メンバーに〈ブラジルの魂を持っている〉と言われた」と言って演奏し始めたのですが、とても官能的なメロディで、サウダージと演歌、共通の情念のこもった、素晴らしい演奏でした。
最終曲は、キコのアコギで始まり、シンガーも合流して、アングラ“Rebirth”。アングラ曲でソロをとるマーティの存在感、凄かったです。華、重さ、存在感、エネルギーの塊でした。それに加え、バンドとキコの演奏のしっくり感。これですよ、これ。〈帰ってくる場所〉って、こういうことじゃないかなと思います。
少しクラシカルで重く、歌は羽ばたき、壮大な曲で本編終了。ハイタッチし、硬く握手するキコとマーティ、会場も多幸感に包まれます。
アンコールは、アングラの名曲中の名曲“Carry On”で、大団円。シンガーはこの曲も見事に歌いこなし、あっぱれでした。
最後のファンサービスも長めの時間をとり、キコは最前列の観客にギターを触らせる大サービス。
濃密でとても幸せな、2時間のステージ。その場にいた観客全員が大満足した、スペシャルな夜でした。
RELEASE INFORMATION
西山瞳率いるメタルカバープロジェクトNHORHMの1stと2ndアルバムがリマスタリング&紙ジャケ仕様にてリリース!!

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1510R
価格:2,750円(税込)
TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. In the Dead of Night / U.K.
2. Walk / Pantera
3. Man On the Silver Mountain / Rainbow
4. Skin Oʼ My Teeth / Megadeth
5. Fear of the Dark / Iron Maden
6. Upper Levels / ANGRA
7. 悪夢の輪舞曲 / BABYMETAL
8. Demonʼs Eye / Deep Purple
9. The Halfway to Babylon / 西山瞳
10. Green-Tinted Sixties Mind / Mr. Big
■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums
■ゲストミュージシャン
小田朋美 vocal track 4
馬場孝喜 a. guitar track 5
市原ひかり trumpet track 8
橋爪亮督 sax track 10

リリース日:2024年12月4日(水)
品番:APLS1612R
価格:2,750円(税込)
TRACKLIST(曲名 / オリジナルアーティスト)
1. Kings Of Metal / Manowar
2. Speed / Loudness
3. All Over The Nations / Helloween
4. Decadence Dance / Extreme
5. Beyond The Realms Of Death / Judas Priest
6. Iron Man / Black Sabbath
7. Mystery Of Babylon / 西山瞳
8. Over The Hills And Far Away / Gary Moore
9. The Gift Of Music / Dream Theater
10. THE ONE -Live Version- / BABYMETAL (Bonus Track)
■メンバー
西山瞳 piano
織原良次 fretless bass
橋本学 drums
■ゲストミュージシャン
田中充 trumpet track 4
宮崎隆睦 a. sax track 4
橋爪亮督 t. sax track 4
池田雅明 trombone track 4
冠徹弥(from THE 冠)vocal track 4

リリース日:2024年10月2日(水)
品番:MT-13
価格:3,190円(税込)
TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Echo エコー
2. West World ウエスト・ワールド
3. Ants アンツ
4. Arrakis アラキス
5. Raindrops レインドロップス
6. Cobalt Blue コバルト・ブルー
7. River リバー
■メンバー
西山瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
西嶋徹 ベース Toru Nishijima bass
則武諒 ドラムス Ryo Noritake drums
鈴木孝紀 クラリネット Takanori Suzuki clarinet (except 5)
橋爪亮督 テナーサクソフォン、フルート Ryosuke Hashizume tenor saxophone, flute (except 5)
maiko バイオリン maiko violin (except 5)
2023年7月12-14日 群馬県高崎市TAGO STUDIO TAKASAKIにて録音
録音・ミックス・マスタリング:松下真也(Piccolo Audio Works)
FAZIOLI F278使用 ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
写真:和田高広(ライトアンドプレイス湿板写真館)

リリース日:2025年10月1日(水)
品番:MT-15
価格:3,520円(税込)
TRACKLIST(全曲 西山瞳作曲)
1. Bye For Now バイ・フォー・ナウ
2. Blue Nowhere ブルー・ノーウェア
3. Pescadores ペスカドーレ
4. Changing チェンジング
5. Standing There スタンディング・ゼア
6. SAKIRA サキラ
7. Just By Thinking Of You ジャスト・バイ・シンキング・オブ・ユー
8. Wright Flyer ライト・フライヤー
9. Bye Bye Blue Fish バイ・バイ・ブルー・フィッシュ
10. You Are Not Alone ユー・アー・ノット・アローン
11. Aprilis アプリリス
12. Fall フォール
13. Keys キーズ
14. This I Promise You ディス・アイ・プロミス・ユー
15. Blue And Blue ブルー・アンド・ブルー
16. Remains To Be Seen リメインズ・トゥ・ビー・シーン
西山 瞳 ピアノ、作曲 Hitomi Nishiyama piano, compose
2025年4月28日 東京都豊島区MERCY MERCYにて録音
録音、ミックス、マスタリング:春日洋
FAZIOLI F156使用
ピアノ技術:越智晃(Fazioli Japan Co., Ltd.)
デザイン:吉岡渉
PROFILE: 西山 瞳

1979年11月17日生まれ。6歳よりクラシックピアノを学び、18歳でジャズに転向。大阪音楽大学短期大学部音楽科音楽専攻ピアノコース・ジャズクラス在学中より、演奏活動を開始する。卒業後、エンリコ・ピエラヌンツィに傾倒。2004年、自主制作アルバム『I’m Missing You』を発表。ヨーロッパジャズファンを中心に話題を呼び、5か月後には全国発売となる。2005年、〈横濱JAZZ PROMENADE ジャズ・コンペティション〉において、自身のトリオでグランプリを受賞。2006年、スウェーデンにて現地ミュージシャンとのトリオでレコーディング、『Cubium』をSpice of Life(アミューズ)よりリリースし、デビューする。2007年には、日本人リーダーとして初めて〈ストックホルム・ジャズ・フェスティバル〉に招聘され、そのパフォーマンスが翌日現地メディアに取り上げられるなど大好評を得る。以降2枚のスウェーデン録音作品をリリース。2008年に自己のバンドで録音したアルバム『Parallax』では、スイングジャーナル誌日本ジャズ賞にノミネートされる。2010年、〈インターナショナル・ソングライティング・コンペティション〉(アメリカ)で、全世界約15,000のエントリーのなかから自作曲“Unfolding Universe”がジャズ部門で3位を受賞。コンポーザーとして世界的な評価を得た。2011年発表『Music In You』では、タワーレコードのジャズ総合チャートで1位、HMVの総合2位にランクイン。CDジャーナル誌2011年のベストディスクに選出されるなど、芸術作品として重厚な力作であると高い評価を得る。2014年には自身のレギュラートリオ、西山瞳トリオ・パララックス名義での2作目『Shift』を発表。好評を受け、アナログでもリリースする。2015年には、ヘヴィメタルの名曲をカバーしたアルバム『New Heritage Of Real Heavy Metal』をリリース。マーティ・フリードマン(ギター)、キコ・ルーレイロ(ギター)、ヤング・ギター誌などから絶賛コメントを得て、発売前よりメタル・ジャズの両面から話題になり、すべての主要CDショップでランキング1位を獲得。ジャンルを超えたベストセラーとなっている。同作は『II』(2016年)、『III』(2019年)と3部作としてシリーズ化。2019年4月には『extra edition』(2019年)もリリース。自身のプロジェクトの他に、東かおる(ボーカル)とのボーカルプロジェクト、安ヵ川大樹(ベース)とのユニット、ビッグバンドへの作品提供など、幅広く活動。〈横濱JAZZ PROMENADE〉をはじめ、全国のジャズフェスティバルやイベント、ライブハウスなどで演奏。オリジナル曲は、高い作曲能力による緻密な構成とポップさが共存した、ジャンルを超えた独自の音楽を形成し、幅広い音楽ファンから支持されている。