*2020年3月24日追記
〈ブレードランナーLIVE ファイナル・カット版〉中止のおしらせ
2020年4月3日(金)、4日(土)に東京・渋谷Bunkamuraオーチャードホールにて開催を予定されておりました〈ブレードランナーLIVE ファイナル・カット版〉は、新型コロナウイルスの影響により中止となりました。詳細はこちらをご確認ください。
https://avex.jp/classics/braderunner-live2020/


 

〈電気楽器の神〉ヴァンゲリスの御業が〈ブレードランナーLIVE〉で顕現する

 1982年の初公開時より、あらゆるアーティスト、ミュージシャン、クリエイターに絶大な影響を与え続けてきたリドリー・スコット監督の名作「ブレードランナー」。そのファイナル・カット版をシネマ・コンサート形式で全編生演奏するという計画を最初に知った時、いくら何でもムチャすぎると思った。巨匠ヴァンゲリスが手掛けたサントラは、映画音楽という枠を越え、シンセサイザー音楽という枠すら越え、すでにそれ自体がひとつの〈アート〉として完成している。仮に本人が当時の演奏機材を引っ張り出してサントラを再演したとしても、あの荘厳な響きと神々しいまでのきらびやかさ、絶望的な闇とポップスぎりぎりの感傷をないまぜにしたサウンドを再現するのは容易ではない。ましてや、生楽器のオーケストラ演奏など、もってのほかだ。公開当時リリースされたニュー・アメリカン・オーケストラの安っぽいカヴァー録音の悪夢から目覚めるまで――つまりヴァンゲリスが公式サントラをリリースするまで――筆者を含む当時からの熱心なファンが何年も要した、忌々しい記憶が甦ってくる。

 しかしながら2019年11月、つまり本編の時代設定に追いついた現在、レプリカントこそ実用化されていないが、音楽関係のテクノロジーに関しては、少なくとも初公開当時よりは格段に進歩している。レプリカントと人間の区別がつかなく程度にはヴォーカロイドの精度も上がっているし、生音とサンプル音源の隔たりは、1980年代とは比べ物にならないほど小さくなっている。だとしたら、ヴァンゲリスのサウンドの完全再現も決して〈夢物語〉ではないはずだ。

 もしも「ブレードランナー」の生演奏が本当に可能だというのなら、ぜひともその現場をこの目と耳で確かめてみたい――。そこで2019年10月24日、すなわち〈ブレードランナーLIVE〉世界初演の前日、ロンドン某所のスタジオで行われたリハーサルを、特別に見学させていただくことにした。

 冷たい土砂降りの中、タクシーでスタジオに向かうと、黒縁の眼鏡をかけた長身の若者が「いやあ、まさにブレードランナー日和ですね!」と出迎えてくれた。今回のプロジェクトのプロデューサーのひとりで、〈アマデウスLIVE〉なども手掛けてきたジャック・ステュークスだ。「約1年前から準備を始めた〈ブレードランナーLIVE〉は、これまでにないほど挑戦的な試み。2007年、リドリー・スコット監督とミュージック・スーパーヴァイザーが効果音と音楽に微調整を加えてファイナル・カット版を作り上げましたが、我々はそのファイナル・カット版の微調整を、限りなくオリジナルに忠実に、しかも生で再現していきます。映画会社から正式に許諾を得てオリジナルの音素材を借り、まずハリウッドのオーケストレーターに〈耳起こし〉をしてもらい、1音符たりとも漏らさずにすべて楽譜化しました。ヴァンゲリス自身が何台ものシンセを駆使して弾いていたパートはもちろんのこと、スコアの中で重要な位置を役割を果たしているヴォーカル・パートや生楽器のパートも含めてね」。