ロックがジャンルとして確立し、さらにハード・ロックやプログレッシヴ・ロックなどへと多様にクリエイティヴな発展を遂げた60年代後半から70年代前半。ユニバーサルミュージックによる再発企画〈ロック黄金時代の隠れた名盤「1965-1975編」〉は、この時代にアメリカ、イギリス、ヨーロッパ各地で生まれた名盤/裏名盤の数々に光を当てたものだ。
税込1,100円(2枚組は1,650円)という破格の値段でリイシューされたのは、プレミア化した廃盤や入手困難盤、国内初CD化作、サブスク未解禁作などなど80タイトル。そのマニアックかつ広範なラインナップに、多くのロック・ファンが驚いている。タワーレコードの新たなYouTube番組〈タワレコマース〉の第1回目も、同企画を大々的に取り上げたものだった。
Mikikiはこの〈ロック黄金時代の隠れた名盤〉について、タワーレコード新宿店のスタッフによる座談会をお届けする。音楽ライターの松永良平を聞き手に、熊谷祥(9F洋楽フロア・チーフ)、中本颯一郎(9F洋楽フロア担当)、村越辰哉(副店長)の3名が選盤、それぞれレコメンドするポイントを語ってもらった。
あの時代のロックについてアツく語った〈レコ屋トーク〉。この記事が購入の一助になれば幸いだ。 *Mikiki編集部
プログレだけどプログレじゃない? 『Gracious』
──ユニバーサルミュージックのカタログからセレクトされた再発企画〈ロック黄金時代の隠れた名盤「1965-1975編」〉が始まりました。ラインナップ発表の時点からSNSを中心に洋楽ファンがざわついてましたね。いわゆるロックの大定番とは一線を画したその顔ぶれから、タワーレコード新宿店スタッフのみなさんに、おすすめポイントを話していただきます。まずは洋楽フロア・チーフの熊谷さんのチョイスです。これは、ブリティッシュ・ロックの名門、ヴァーティゴの一枚。
熊谷祥(新宿店9F洋楽フロア・チーフ)「ヴァーティゴの9作目になりますね。ちょうど60年代後半から70年代前半のプログレッシヴ・ロックが隆盛してゆく時期に、ヴァーティゴも有望なバンドとどんどん契約していきました。
ただ、グレイシャスはよく聴くとプログレっぽい変拍子はそんなにないんです。バックで鳴っているハープシコードやオルガン、メロトロンを効果音的に乗せているから、プログレのバンドと呼ばれているんですね。メロトロンという楽器の個性を知りたかったら、キング・クリムゾンよりはグレイシャスのほうがわかりやすいかもしれません。彼らの本質には、サイケデリック・ロックや後期ビートルズの影響があるんです。そういうバンドがプログレのサウンドになっていった」
──つまり、まだプログレッシヴ・ロックという呼称が定着する前のバンドということですね。
熊谷「そうなんです。プログレがどう発展していったかを知りたかったら、これを聴くといいと思います」
──ヴァーティゴというレーベル自体にも、英国的な〈くすみ〉というか暗さがカラーとしてありますよね。プログレのキラキラした部分とはむしろ対照的なテイストの作品が多いし、サイケ感、ブルース感も強い。
熊谷「有名どころだとブラック・サバスがヴァーティゴですからね。今回のラインナップには、ベガーズ・オペラ、メイ・ブリッツ、クリアー・ブルー・スカイ、マグナ・カルタが入ってます」