インタビュー

天満敦子『ノスタルジー<郷愁>』 小津安二郎映画の主題曲や愛唱歌などを収録した新作を語る

©KING RECORDS

小津安二郎映画『東京物語』『秋刀魚の味』の主題曲や、愛唱歌などを収録した新作

 熱心なファンの多い大御所、天満敦子による3年振りの新譜。最も信頼を寄せるピアニスト岡田博美とはリハーサルでの会話が必要ないほど息もぴったり。濃厚でありながらも、くどさは無く、達観した雰囲気はこのふたりならではのもの。晩年のシューベルトのような寂寞感に溢れた深遠な音楽を、お馴染みの小品や唱歌から引き出してしまうのだから驚くほかない。

天満敦子 ノスタルジー<郷愁> SEVEN SEAS/キング(2019)

 「自分がどういう風に弾きたいかでは無いんです。音を出すと“こういう風になるんだ!”と思わされるんですよ。自分でも不思議なのですけど」と、天満にとっては自身が「旦那さん」と呼ぶ名器ストラディバリウスが求めるように弾いているだけなのだという。楽譜についても、彼女の理解の仕方は実にシンプル。

 「ダーッと弾いていて、どうするのかなあ? と思っていると、そろそろ休もうよって音楽が落ち着いてくるんです。しばらく休むと、今度は盛り上がっていって……。楽譜の通り、そう捉えれば良いことに気付いた時はハッとしましたね」。楽器と楽譜が求めることに忠実に向き合って、天満の音楽は生まれゆくのだ。

 郷愁を主題とした選曲も非常に興味深い。エックレス作曲のソナタはヴァイオリンのお稽古経験のある人にとっては懐かしい曲目だが、天満が向き合うとこれほどまでに情感に深く訴えかける名曲であることが明らかとなる。他にも、天満ファンの世代にとってノスタルジーを感じる小津安二郎の名作映画『東京物語』『秋刀魚の味』の音楽が選ばれているのが印象的。映画では東京交響楽団のコンサートマスターを務めた鳩山寛が弾いていた「夜想曲」などを天満の演奏で聴くことで、作曲の斎藤高順を日本のニーノ・ロータとして再評価するきっかけにもなりそうだ。

 定番のヴァイオリン小品も味わい深いが、本盤の白眉となるのは「仰げば尊し」「夏の思い出」「故郷」「霧と話した」といった愛唱歌の数々だろう。歌う際よりもゆったりとしたテンポで紡がれ、よくよく知っているはずのメロディにもかかわらず、良い意味で別の曲であるかのように感じられるほど新鮮に、深く心に染み込んでくる。もちろん締めは天満の代名詞「望郷のバラード」。既に5回以上も録音しているが……

 「血と肉になっている曲なので、練習して磨き直してというのではなくて。岡田さんとは録音でも演奏会でもリハーサルしないんですよ。最初の録音と随分変わってきましたね? と言われたこともあるんですが、私からすると変わって当たり前(笑)。録音には、今その時の私がいるんじゃないかと思います」。力まずに自然体で音楽とヴァイオリンに向き合い続ける天満の音楽は唯一無二。是非ご堪能いただきたい。

 


LIVE INFORMATION

天満敦子 コンサート
○2020/1/19(日)14:00開演
【会場】 茅野市民館コンサートホール(小)
○2020/1/25(土)13:30開演
【会場】 東京文化会館(小)
○2020/2/9(日)14:00開演
【会場】 カトリック町田教会
www.officetemma.co.jp/main/live/

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