Page 2 / 5 1ページ目から読む

 

和モノとデジタル・シンセへの偏愛が詰め込まれた新作『Theoria』

――その前作『CLASSICS』(2015年)ですが、今改めて振り返って聴くと、今回の新作を予見させるテイストもかなり感じます。和モノ的な要素も確実に入っていて。

「そうだと思います。ただ、当時はあんまりその辺りを上手く伝える音楽的手法や言葉を持っていなかったというか……。もちろん気に入っている作品ではあるんですけど」

2015年作『CLASSICS』収録曲“Remember The Night”

――その点今作は、そういった和モノ的な要素がバンドの音楽としてバッチリ消化されていて、トータルで磨き上げられたように感じました。それこそ、80年代当時の和モノ作品をバレアリック的観点で聴く、最近のムードとも呼応していると感じます。

「創作的な面では、やっぱり日本語で曲を作るようになったというのが一番大きいですかね。英語詞だとどうしても自分の思うような譜割にならなかったりしたんですけど、日本語詞になってから、本当に自分が好きで聴いているものと同じような感覚で作れるようになった気がします。

以前は、いい意味でも悪い意味でも、いい加減な感じで言葉を入れ込んでいたんですが、今は一字一句パズルのように、〈ここに入るべき正解は一つしかない〉というような考え方でやっています。その作業はすごく時間がかかったりもするけど、自分の中での納得感はすごく大きい」

――サウンド面の変化ということでは、シンセサイザーの音がより支配的に全体のテクスチャを決定づけているように感じます。80年代のデジタル・シンセのFM音源とかPCM音源とか、いわゆる〈プリセット音〉の質感。

「うん、そうですね」

――もちろん前作でも電子楽器は使っていたと思うんですけど、今作では堂々と主メロを単音で弾いたり、音数もかなり増しているように思います。そういうのって、2015年だとまだギリギリNGでしたよね。

「そうかも(笑)。当時の機材を新しく買っていじりながら勉強していくうちに、自分が好きな音色っていうのが改めて分かってきた感覚というか。

最初のうちは〈MIDI〉という概念にも恐れを覚えていたくらいで(笑)。その頃はelectribeでビートを作っていたんですけど、それもMIDIでPCに取り込むんじゃなくて、実機で鳴らした音をエアーで録音するという方法で……」

――めちゃくちゃプリミティヴ(笑)。そういう、いかにも〈あの当時のデジタル〉的なプリセット音に、どんな魅力を感じているんでしょう?

「なんだろう……涼しさ、軽やかさ、リゾート感みたいなものかな……」

 

Super VHSの〈軽音楽〉と、80年代の〈軽さ〉

――リスナーとして、80年代の和モノやいわゆる環境音楽〜ニュー・エイジ的なものをよりディープに聴くようになったというのも、音楽性の変化には影響を与えているんでしょうか?

「それは大きいと思います。元々そういう音楽はずっと好きだったんですけど、すごく好きになったのはここ最近。単純に自分が日本語の曲を描き始めたというのもあると思いますが、自分がやりたいと思う音楽を、過去にまったく同じようにやっている人達っているのかな?という興味が湧いてきて。よりディープに自主盤とかも買ったりしていますね。

軽い質感の音楽を探しているけど、〈軽い〉というワードで探すのって困難なので、色々掘ってみるしかない(笑)」

――たしかに、これまでの常識としては〈軽い〉ってそこまでポジティヴなワードじゃないですしね。ご自身の音楽も〈軽音楽〉と呼んでいるようですが、その〈軽さ〉というのは、あの時代の日本の音楽にあった要素とも重なり合う気がします。

「あの頃の音楽って、いい意味での軽さがありますよね。YENレーベルのINTERIORSとかTESTPATTERNとか……。ポータブル・ロックとかにもそういう軽やかさを感じる」

――ニューアカ、スキゾ・キッズ、セゾン・カルチャー、ビックリハウス……。

「そういう雰囲気ですね(笑)」