Mikiki編集部のスタッフ4名が〈トキめいた邦楽ソング〉をレコメンドする週刊連載、〈Mikikiの歌謡日!〉。更新は毎週火曜(歌謡)日、新着楽曲を軸にマイブームな音楽を紹介していきますので、毎週チェックしてもらえると思いがけない出会いがあるかもしれません。紹介した楽曲はSpotifyとYouTubeのプレイリストにまとめているので、併せてお楽しみください~。 *Mikiki編集部
【酒井優考】
ヘンショクリュウ “HEARTS”“MYLORD”
〈何も良いと思えない〉。良い音楽を紹介するのが仕事なのに、そんな歌詞を思い浮かべる時があります。例えば編集部の記事やプレイリストを見て、自分の趣味と違い過ぎて愕然としたり。いや、人と趣味が違うのはいいことなハズ。みんなちがって、みんないい。でも、そこに良いと思えるものがない(時がある)のです。それって本当に良いの? センス悪くない? でも、何も良いと思えなくっても〈今週は良いのが何もなかったよ〉なんて、編集者たるものそれではいけないんです。寿司屋の大将が〈何か今日のオススメある?〉って訊かれて〈何も良いと思えない〉なんて言わないのと一緒。とにかく日々、自分のアンテナを伸ばして伸ばして磨いて磨いておくことが大事なんだと思います(毎週似たアーティストばかりになっていたらお察しください)。……でも、だからこそ、そういう時に〈うおっ!〉ってアンテナに引っかかるものがあると本当嬉しいです。もっともっと、既成の音楽なんかぶっ壊すような音楽が聴きたいし、探します。
【天野龍太郎】
FINAL SPANK HAPPY “エイリアンセックスフレンド”
Boss the NK & ODのFINAL SPANK HAPPYってどうなの? やっぱり第2期スパンクスが神でしょ。なーんて思ってたんですが、この曲を聴いて考えを改めました。すみません! めちゃくちゃいい曲です。〈赤坂に 明洞に この星に 落ちてきたなら/水着を買いに行こう お酒を飲みに行こう〉。千葉雅也が浅田彰を評した言葉を引くなら〈加速する資本主義に対する、鮮やかな褒め殺し〉(「動きすぎてはいけない:ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学」)な第2期のコンセプトはFINAL SPANK HAPPYにも引き継がれている、というわけですね。歌詞を書き起こしたいくらい好き。正式なリリースを待っています。
Kan Sano “My Girl”
傑作『Ghost Notes』をリリースしたばかりのKan Sanoさんから“My Girl”のビデオが届けられました。従来どおりのメロウでジャジーなサウンドが心地いい前半から一転、音像がダブワイズされ、ハウス・ミュージック風に展開していく後半に興奮。たしかに、Kan Sanoさんが作るダンス・ミュージックって聴きたかったかも。トム・ミッシュと日韓公演で共演したことや、YouTubeに英語のコメントが多いことなど、そのグローバルな活躍にはなんだか勇気づけられます。
Gatti “Love Form”
曽我部恵一さんが、仙人掌のインタヴューを読んで〈ラッパー/シンガー〉という線引きに飽きた、といったようなことを語っていましたが、あらゆる境界線や区分けがいやおうなしに、どろどろに融解していっているにもかかわらず、とかく私たちは線引きにこだわりがち。そんな状況のなかで〈J-Pop〉とはなんなのか、そもそも〈邦楽/洋楽〉ってなんなの、という問題に向き合ったり、それについて考えるきっかけになっているのがこの連載です。この曲も、現在の音楽を取り巻く状況を象徴するようなものかも。
Spotifyの影響力があるプレイリスト〈New Music Friday〉と日本向けに組まれている〈New Music Wednesday〉はなるべくチェックするようにしていて、後者で見つけたのがこのGatti。彼女は、韓国系の人気YouTuberグループ〈NOBLEMAN(ノーブルマン)〉のりーくんの妹・サラさんで、YouTuberとしては〈今日もGatti〉、DJとしては〈DJ Gatti〉の名で活動しているとのこと。で、この曲ではラップしています。……ええっと、なんだかよくわからないのですが、曲がいいと思いました。彼女の母語は当然、韓国語であるわけで、それゆえにちょっと不思議でどこかユーモラスな日本語感覚が実にユニークです。〈ロッポン〉と聴こえるフレーズは〈Love Form〉と歌っているそう。
Boris “LOVE”
上で書いたようなことと関係して、〈邦ロック〉や〈J-Rock〉といったフィールド(≒マーケット)に閉じこもりがち(もちろん、それがすばらしい結果をもたらすこともありますが)な日本のアーティストと好対照をなしているのがMONOや、おとぼけビ~バ~、CHAI、そしてこのBorisといったバンドたち。彼/彼女らは海外のオーディエンスだけでなく、クリティックやメディアをも、作品やライヴを通じて本気にさせているのだからすごいと思います。
この曲は、10月4日(金)にリリースするニュー・アルバム『LφVE & EVφL』からのシングル。重たく黒いギター・ノイズが渦巻く、7分間の圧倒的なドゥーム/ドローン・メタル。アルバムはジャック・ホワイトのレーベル、サード・マンから発表されます。
CoCo “はんぶん不思議”
この1、2年、lightmellowbuの連中や〈後追いGiRLPOP〉の佐藤あんこさん、〈トレンディ歌謡に抱かれて〉他のanoutaさんといったキレッキレのディガーたちを知ったことによって、この国には私がまったく知らない膨大な音楽遺産が埋もれていることに気づかされました。私が以前、友人たちと趣味でやっていた〈BOOKOFF Zombies〉というブログが旧態依然とした言葉による批評であるならば、彼らの場合はディグ行為そのものが批評となっているわけです。どちらがラディカルかといったら、後者なのは一目瞭然。
それはさておき、こちらはシティ・ポップやLight Mellowにも、ガール・ポップにもまたがる、CoCoのすばらしい一曲(90年)。トリプルファイヤー・鳥居真道さんが山口美央子の仕事に捧げたテキストで知りました。ハコイリムスメもカヴァーしています。
山口美央子 “白昼夢”
山口美央子さんの記事をつくってからというもの、すっかり彼女の音楽に夢中になっています。ジャポニスムを確信的に用いたという、その一点だけでも音楽家として実にパワフル。なかでも柴崎祐二さんが〈80sジャパニーズ・アンビエント・ポップの至高曲〉と書いた83年作『月姫』収録の“白昼夢”、最高です。溶けます。某プロデューサーにfuture funk化された80年作『夢飛行』収録の“いつかゆられて遠い国”もあまりにもすばらしいシティ・ポップで、とろけます。新作『トキサカシマ』と最新作であるセルフ・カヴァー・アルバム『FLOMA』もぜひ併せてお聴きください。
斉藤由貴 “終りの気配”
そんな山口美央子さんの『FLOMA』にボーナス・トラックとして収められているのが、斉藤由貴“終りの気配”(88年)のセルフ・カヴァー。このオリジナル・ヴァージョンもシンセやパッド音を中心とした静謐なプロダクションで、山口美央子という作家の世界観にかなり近い作品なのでは、と感じます。山口さんが再演したものはCDにしか収録されていないので、ぜひ『FLOMA』のCDを手に入れて聴いてください。
SUPER VHS “魚の恋”
最近、SUPER VHSにtamao ninomiyaがヴォーカリストとして参加しているらしい、という噂を聞きました。mei ehara歌唱の“魚の恋”や新曲をライヴで歌っているとか……。王舟『Big fish』への参加といい、ひっぱりだこ。
“魚の恋”、たしかにすごくいい曲です。あまり起伏のない、平坦なメロディーに、ギターやシンセサイザーの音がパズルのピースのように組み合わさった見事なアレンジメント。カヴァー・アートはわたせせいぞうなのに音はニューウェイヴ、というあたりに2010年代ならではのねじれた80年代解釈を感じます。7インチ・シングル、まだ売ってるかな。
【田中亮太】
Eupholks “Flamboyant”
7月2日の当連載で採り上げたサイケデリック・ロック・バンド、Eupholksが先月リリースしたEP『Intra』から“Flamboyant”のミュージック・ビデオを公開。ってMVの公開も1か月前ですね……。チェック漏れてました。テーム・インパラ以前、というとネガティヴに捉えられるかもしれませんが、ちょっと懐かしめなバレアリック感が心地いい。この曲、アンドリュー・ウェザオールがリミックスしたら最高なんじゃないでしょうか。タイム&スペース・マシーンによる“After The Gold Rush”の傑作カヴァーっぽさも少しありますね。MVを手掛けたイラストレーター、Megumi Yamazakiさんのカラフルでファニーな作風もサウンドにマッチしています。
【高見香那】
Sable Hills “Juggernaut”
Sable Hillsは、Takuya(ヴォーカル)とRick(ギター)の兄弟を軸に2015年に結成されたメタルコア・バンド。先日リリースされたファースト・アルバム『EMBERS』からのこの曲、ギターの響きも美しいラストの重た~いブレイクダウンがめちゃくちゃかっこいいです。アルバムについては増田勇一さんによるご兄弟へのインタヴューを収録済みなので、ぜひそちらをお待ちください。
coldrain “JANUARY 1ST”
8月28日(水)にリリースを控えるニュー・アルバム『THE SIDE EFFECTS』より。前作リリース時のAdam(Joy Opposites)との対談で、〈coldrainの核となるのはタイムレスな歌だ〉と熱弁していたMasato氏。この“JANUARY 1ST”はその言葉どおりのグッド・メロディーをスケール感たっぷりな演奏の上で、ときに優しくときに力強く歌い上げた名バラードです。先のインタヴューでは〈シーンが速い曲やへヴィーな曲を求めていても、僕らはミドルテンポの曲をあきらめない〉というシビれる発言もありまして(この対談大好きなんだよな……)、国外での活動で世界基準のサウンドを吸収しながら、ポリシーをもって独自のスタイルを追求している彼らの最新形すなわちラウド・ロックの最新形、その全貌がすごく楽しみです。