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ポップのヴァリエーションの豊かさで表現の幅を広げる注目の作曲家

 クラシックを学んできた作曲家であるアンナ・メレディスのデビューEP『Black Prince Fury』は、生楽器は使わずにエレクトロニック・ミュージックのサウンド、手法でクラシックの楽曲構造を演奏してみせた。クラシックとエレクトロニック・ミュージックとの間にはこれまでも様々な試みがあったのだが、彼女のアプローチは画期的だった。そして、デビュー・アルバム『Varmints』では、そのアプローチをポップ・ミュージックとして提示することに成功して、Pitchfork誌の〈BEST NEW MUSIC〉に輝いた。確かに、このアルバムは新しいインディ・ポップと呼ぶのが相応しい内容だった。その後、スコティッシュ・アンサンブルとのアルバム『ANNO』では、ヴィヴァルディの《四季》と自作を交互に並べた構成で、クラシックとの更なるハイブリッドなアプローチを見せた。また、映画のサウンドトラック『Eighth Grade』でも、エレクトロニクスを使ったモダンな作曲家としての側面を覗かせた。

ANNA MEREDITH FIBS Moshi Moshi/P-VINE(2019)

 本作『FIBS』はセカンド・ソロ・アルバムとなる。『Varmints』以上にポップな楽曲が並んでいる。前半はビートと煌びやかなエレクトロニクスが強調され、徹底してもいる。ヴォーカルの使い方もより洗練されてきた。特に《Killjoy》という曲が、ポップなセンスとアイディアに溢れていて秀逸だ。アルバムは中盤以降、楽曲がより多彩になる。弦楽器をゆったりと聴かせるアンビエント・タッチの曲もあれば、ギター・ポップのような曲もある。いろいろなポップの意匠を纏ってはいるのだが、使われている音や曲の組み立ては単純ではない。一筋縄ではいかないものが見え隠れしてはいるのだが、それを難しく聞こえさせないのが、彼女の音楽の面白さだ。だからこそ、アカデミックとポップのフィールドを行き来するアーティストの中でも、彼女はいま興味深い位置にいる。