マック・ミラー(Mac Miller)『Circles』没後にジョン・ブライオンが完成させた、〈不在〉を痛感する最期のアルバム

2020.01.20

一昨年の9月に亡くなったラッパーの遺作。もともとは2018年のアルバム『Swimming』と対になる作品としてレコーディングが進められていたものだ。簡素なサウンドに、マック・ミラーのラップと歌を乗せたプロダクションはとてもシンプル。〈まるで空から落ちてゆくその寸前みたいだ〉と歌われる“Circles”には、みずからの運命を悟っていたかのような侘しさがあり、涙なしでは聴けなかった。

 


2018年9月に急逝したマック・ミラー。彼が亡くなるまで取り組んでいたのが、この『Circles』だ。内容的には、生前最後のアルバムとなった『Swimming』(2018年)と対になるような、対比的な作品を目指して作られていたようである。〈2つの異なるスタイルは互いに補完し合うもの〉で、そのコンセプトは〈Swimming in Circles(円の中を泳ぐ)〉というものだった。

そんなマックの最期の録音を彼の意志が宿ったものとして見事な形に仕上げたのは、ジョン・ブライオン。フィオナ・アップルからカニエ・ウェストまで、幅広いジャンルのミュージシャンとの仕事で知られ、「レディ・バード」(2017年)など、映画音楽の世界でも確かな足跡を残しているプロデューサー/作曲家である。ブライオンが作り上げる音は、インディー・ロックやアメリカーナ、オルタナティヴ・カントリーの温かく生々しい質感を基調にしながら、そこにエレクトロニックなサウンドを馴染ませたもの、と言っていいだろう。その手腕は、本作でも確実に発揮されている。

ブライオン曰く〈マックと過ごした時間や交わした会話〉を基にした『Circles』は、一聴して穏やかで、とてもパーソナルなムードだ。ブライオンらしい、ドラムやギターの生音とアナログな電子音が溶け合った滑らかな質感が心地よく、呟くようなマックの歌やラップのスタイルと見事に合致し、彼の歌に寄り添いながらもそれを引き立たせている(ピアノの音が印象的な“Everybody”なんて、まるで後期ビートルズの曲のようだ)。

リリックに目を向けると、マックの迷いや苦しみが吐露されており、痛切である。〈後悔ばかりだ、でも俺には「忘れる」って言うことしかできない/どうしてそんな簡単にいかないんだ?/どうしてみんな俺に「残ってくれ」って思うんだ?/ムカつくよ〉〈休むことはできる?/俺のこのくそったれな生き方から抜け出したいんだ〉〈いいニュース、いいニュース、いいニュース/みんなが聞きたいのは、ただそれだけ/俺が落ち込んでるとき、みんなはそれを好まない/俺が高く飛ぶと/みんなは不快らしい/何がちがうっていうんだ?〉(“Good News“)。〈みんな生きている/そして、みんな死んでいく〉(“Everybody”)。正直に言って、最後まで聴き通すのが辛い……。

サウンドの温かさと歌の親密さゆえに、マックの死を一層痛感し、悲しい気持ちにもなってしまう。このアルバムを聴いていると、彼がもうこの世にいないこと、その不在ばかりに思いを馳せてしまうのだ。〈どうしていなくなってしまったんだろう〉という無念を覚えながら、それをぐっと飲み込んで、彼の魂が安らかに眠ることを改めて祈るばかり。RIPマック・ミラー。さようなら、マルコム。

 
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