名曲の中でジョン・ブライオン作曲《Little Person》がアクセントとなる待望のニュー・アルバム

 現代ジャズ・ピアニストの最高峰、ブラッド・メルドーによる、レギュラー・トリオとしては2012年リリースの『Where Do You Start』以来約3年半ぶりとなる待望のニュー・アルバム。近年ではドラムのマーク・ジュリアナと組んでシンセを弾きまくる先鋭デュオ〈Mehliana〉でもシーンに衝撃を与えた彼だが、今作『Blues And Ballads』は、貫禄すら感じるタイトル通り、バディ・ジョンソンコール・ポーターレノンマッカートニーチャーリー・パーカーらの名曲を取り上げた、悠然と王道を往くブルース&バラッド集だ。

BRAD MEHLDAU TRIO BLUES AND BALLADS Nonesuch/ワーナー(2016)

 代名詞的奏法となった両手を用いる対位法的アプローチ、一音一音の確かなピアノのタッチの連なりや、瞬間瞬間のハッとするハーモニー、原曲の美しいメロディの断片が途切れ途切れに変奏されるなかで新たな煌きをまとい立ち上ってくるさま……。オーソドックスなフォーマットとスタイル、長尺の演奏でのゆったりとした流れのなかにあるからこそ、メルドーならではの凄味がここぞという場面で際立ち、フレージングや3者のインタープレイがグッと物語性を帯びて響く。

 例外的に短めのトラックながらアルバムの顔となりそうなのが、YouTube上でも先行公開された3曲目《Little Person》。ロックやエレクトロニカなどからの要素を採り入れ本格的に独自路線を切り拓いた記念碑的傑作である2002年の『Largo』、そしてジョシュア・レッドマンや管弦楽団をフィーチャーした大作『Highway Rider』でもメルドーとタッグを組んだ名プロデューサー、ジョン・ブライオンの手による楽曲だ。明確なソロのない構成が見事に功を奏していて、儚げで優美な旋律がストレートに胸に迫ってくる。

 じっくり耳を傾ければそれだけ、心動かされるポイントが無数に増えてゆく。メルドー・トリオの実力と懐の深さに改めて感銘を受ける、さすがの一枚。