ムーンチャイルドが成熟を反映した初のアコースティック作品を完成!

 3人それぞれが卓越したマルチ・プレイヤーであり、その洗練された音世界が日本でも高く支持されているムーンチャイルド。グラミー賞の〈最優秀プログレッシヴR&Bアルバム〉部門へのノミネートも記憶に新しい最新オリジナル作『Starfruit』(2022年)は多彩なゲストを招くことでトリオの音楽性を拡張した意欲的な一枚だったが、このたび届いたEP『Reflections』はその真逆を行く初のアコースティック作品となる。アンバー・ナヴラン、マックス・ブリック、アンドリス・マットソンの3人で録音された今回の6曲(日本独自の〈Expanded Edition〉には各曲のインストも加えた全12曲を収録)はいずれも彼らの過去曲を再演したものだ。

 「当然ながらこの10年間のミュージシャンとしての成長の一端が表れているよ。特にアンバーのヴォーカルは、その素晴らしい一例だ。もっともわかりやすい成長の例としては、僕たちの音楽的成熟と抑制が挙げられる。音楽が呼吸できるようにそのためのスペースを残すこと――それが、この新しいプロジェクトを作った最大の理由だと思う」(マックス)。

MOONCHILD 『Reflections (Expanded Edition)』 Tru Thoughts/BEAT(2023)

 この10年での進化を文字通り反映した作品のアイデアは、もともと彼らが2019年末に出演した米NPR(National Public Radio)主催の配信プログラム〈Tiny Desk Concert〉から生まれたのだという。同番組は小さなオフィスの一隅からさまざまなミュージシャンがライヴ・パフォーマンスを披露する人気コンテンツで、〈MTV Unplugged〉よりももっとタイニーで親密な空間から届けられた演奏の雰囲気は、確かにそのまま『Reflections』に通じているものだ。ただ、ウクレレ奏者やコーラス隊を伴っていた番組とは違い、すべての演奏をメンバーだけで担った本作の構成はより繊細に練り込まれている。

 「アコースティックというセッティングと、ライヴで演奏していたホーンのアレンジとの組み合わせが気に入った。ライヴ用に曲をリアレンジするのはとても楽しいから、この作品ではそれを表現することを楽しめた。スペースを残して削ぎ落とされたサウンドが、 私のヴォーカルの息づかいまで伝わる余白を与えてくれている」(アンバー)。

 オープニングを飾るのは、件の〈Tiny Desk Concert〉でも冒頭で披露されていた“Money (Acoustic)”だ。もともと『Little Ghost』(2019年)に収録されていたオリジナルはビートの立った作りだったが、柔らかに舞うホーンの音色を纏ったここでの演奏はまさに〈抑制〉や〈余白〉といった形容通りの穏やかな聴き心地を残してくれる。

 それに続く“Cure (Acoustic)”と“Run Away (Acoustic)”はいずれも出世作『Voyager』(2017年)収録曲の再演で、簡素なジャズ仕立ての演奏とレイドバックした歌声によって紡がれる、オリジナルとはまた違うオーガニックな味わいに満たされることだろう。さらには『Please Rewind』(2014年)収録曲がオリジナルとなる“The Truth (Acoustic)”も管楽器の効いたジャジー&メロウな仕上がりで、もともと大学でジャズ専攻の3人が集まったグループの出自も改めて思い出させるかもしれない。

 過去へ遡るという意味では、初作『Be Free』(2012年)に収められていた“Back To Me”の再演も聴きもので、自分たちの成熟/洗練/深化を具現化するという本作のもう一つの狙いも見えてくるのではないか。そうしてラストを飾るのは、〈Tiny Desk Concert〉でも最後に披露された“The List (Acoustic)”で、ここではさらに音数を抑えた作りが豊かな深みと余韻を残していく。

 ここ1年の間にはアンバーがサラ・ガザレクのリミックスを手掛けたり、アンバーとアンドリスがノウワーの『Knower Forever』で管楽器を演奏するなど、個別の活躍でも広がりを見せているムーンチャイルド。10年のキャリアを振り返りながら自分たちの本質的な魅力を探り当てた成果がこの先どのように反映されていくのか、今後の作品がまた楽しみになってきた。

原曲を収めたムーンチャイルドの作品。
左から、2012年作『Be Free』(Moonchild)、 2014年作『Please Rewind』、 2017年作『Voyager』、2019年作『Little Ghost』(すべてTru Thoughts)

左から、ムーンチャイルドの2022年作『Starfruit』(Tru Thoughts)、メンバーが参加したノウワーの2023年作『Knower Forever』(Knower/BEAT)、サラ・ガザレクの2023年作『Vanity』(Sara Gazarek/コアポート)