ゲルニカばりの空想レトロ歌謡に悶絶必至な志磨遼平提供のリード曲“ネオ東京唱歌”からただならぬヤバさが伝わる4作目。図らずもヴェイパーウェイヴと接続したようなgroup_inou製のナンセンス・ポップ“MESSAGE”、噂のザ・リーサルウェポンズを招聘したLAメタル作法の“快走!ラスプーチン”、大槻ケンヂ × NARASAKIによる悲恋のスパイ・ロック“SPY”など、本人のサブカル趣味を清々しいまでに貫いた異色作だ。
トップクラスの人気を誇る声優〈すみぺ〉こと上坂すみれの4作目となるフル・アルバム『NEO PROPAGANDA』。……というプラスティックな説明はさておいて、今回もゴージャスで個性豊かな作家陣が、優れた楽曲の数々を提供している。
「三国志」の呂布への愛を歌った“すーぱー呂布呂布ぱらだいす!”は、MOSAIC.WAV作のアッパーなパラパラ・サウンド。上坂の代名詞と言っていいソ連ネタ全開のメタル“快走!ラスプーチン”は、ザ・リーサルウェポンズのアイキッドが提供。“SPY“はNARASAKIが作編曲を手掛けており、ささくれだったギター・サウンドが彼らしいロック・ナンバーだ。
“SPY“について見逃せないのは、大槻ケンヂが作詞をしているという点(作詞作曲者は2014年のシングル“パララックス・ビュー”と同じ布陣)。大槻は上坂に〈ソ連の科学者にチップを埋め込まれて、強制的にソ連好きになったソ連のスパイなんだよ、君は〉と語ったそうで、その仮説がそのままこの曲の歌詞へと反映されている。
他にも清 竜人(シングルでリリースされた“ボン♡キュッ♡ボンは彼のモノ♡”)、渡部チェル(レイト80s感漂うグルーヴィーな“女神と死神”)、COOL&CREATEのビートまりお(ゲーム音楽へのオマージュが効いた“ウエサカダイナミック”)、松浦勇気(Jユーロビート歌謡“夜勤の戦士のテーマ”)、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND(正統派テクノポップ“アウターモスト -超自然恋愛-)、ドレスコーズの志磨遼平(唱歌+ロシア民謡?“ネオ東京唱歌”)と、作曲者が多彩なら曲調も多彩。上坂は一曲ごとにまったく異なる歌い回しや声のキャラクターを使い分けており、いつもながらうならされる。
注目したいのは“MESSAGE”。この曲を手掛けたのは、あのgroup_inou。昨年活動を再開し、カタログのサブスク解禁も話題となった(上坂への楽曲提供は、ファンの間でかなり話題になっていた)。
imaiによると〈曲を作る前、上坂すみれさんに入れたい言葉ありますか?って聞いたら「西高島平、味噌田楽、謎の短波放送」って返って来て、マジかよって思ったら文君(cp)が「全部入れちゃったよー」って言っててぶっ飛んだ〉とのことで、アブストラクト極まりない、サイケデリックですらあるリリックが強烈。上坂の甘い声のラップとimaiのキュートなヒップホップ・ビートが絡まり合った、実にユニークな曲だ。中毒性が高く、思わず何度も聴いてしまう。それにしても、〈味噌田楽〉という言葉をこんなに繰り返す曲は聴いたことがない(食べ物の名前を連呼する、という点でラブリーサマーちゃんの“私の好きなもの”を思い出した)。
これまたソ連趣味が打ち出されたアルバム・タイトルには、〈“ちょっとリニューアルしたよ”みたいな意味合いが込められ〉ているんだとか。〈2020年のすみぺも快調!〉という主張を年明けから喧伝(プロパガンダ)する、見事な一作。