アンディ・シャウフ(Andy Shauf)の新作『The Neon Skyline』が話題になっていて、ちょっと意外に感じている。2019年の5月に開催された初の来日公演も大盛況だったと聞いたし、〈観ておけばよかった〉という後悔と〈そんなに注目されているんだ〉という驚きを覚える。ここ日本でそんなに人気があるなんて思わなかった。
シャウフは87年生まれ、カナダの中西部にあるサスカチュワン州レジャイナ出身のシンガー・ソングライターだ。両親は電気機器と楽器を取り扱う店を営んでおり、楽器に囲まれて育った。両親とはクリスチャン・ミュージックを演奏し、10代の頃はクリスチャン・ポップ・パンク・バンド(そんな音楽があるんだ!)でドラムを叩いていた。と、ここまではWikipediaの情報。
彼が注目を集めたのは、おそらく前作『The Party』(2016年)で、だろう。同作には、くるりの佐藤征史も賛辞を寄せていた。Monchiconのレビューに詳しく書かれているように、パーティーに集った人々を群像劇として描いた『The Party』は、その温かいサウンドと巧みなストーリーテリングで高い評価を得ている。
そんな前作の発表後、シャウフはバンドのフォックスウォーレン(Foxwarren)としてセルフ・タイトルド・アルバム(2018年)をリリース。そして『The Party』と同じく、アンタイ(ANTI-)とカナダの名門インディー・レーベルであるアーツ&クラフツ(Arts & Crafts)から届けられたのが、この『The Neon Skyline』である。
前作ではコリン・ニーリス(Colin Nealis)によるストリングス以外、すべての楽器をシャウフがみずから演奏していた。新作はといえば、ニーリスのストリングスもなく、ギターやベース、ピアノ、ドラムからクラリネットに至るまで、完全にシャウフただ一人の世界。ミュートが効いた、くぐもったドラムの響き(マ社長が前作について指摘していたように、今回もとても気持ちがいい音)や気取らない歌声、シンプルだけれど気の利いたアレンジメントが、耳にすっと馴染む。
歌詞に目を向けると、語り手である主人公とその友人のチャーリーやクレア、バーテンダーのローズ、そして元カノのジュディを中心に話が展開されていく。舞台は〈Skyline〉というバー。そこで主人公はチャーリーと語ったり、過去の苦い失恋の思い出を振り返ったり。ついに彼はジュディと再会し、復縁を目論むのだが……。今回は群像劇でなく、一遍の小説のような作品である。短編小説のファンで、レイモンド・カーヴァーが好きだというシャウフらしい、味わい深い語り口だと思う。
とてもパーソナルなムードの、地味でささやかな(もちろん、貶しているわけではない)このアルバムを聴いていると、ハリー・ニルソンやランディ・ニューマン、ジェイムズ・テイラー、ポール・サイモン、ポール・マッカトニーの初期のソロ・アルバムなんかを思い出す。70年代のロックやSSWの音楽を思わせる、とてもノスタルジックなサウンドと歌。だからこそタイムレスだ、と言うことができるかもしれない。ウィルコのジェフ・トゥイーディーが彼の才能に惚れ込んでいるというのも納得で、トゥイーディーのソロ・アルバム『WARM』(2018年)に近いフィーリングもある。
新鮮な音楽というわけではない。現代的なテーマを扱っているわけでもない。けれど、シャウフの歌や主人公のちょっと情けないセリフ、リアルなストーリーと人物描写が、聴けば聴くほどじわじわと心に染み渡り、聴き手に優しく寄り添う。生活のかたわらにそっと置いておきたい、素晴らしいレコードだ。