2020.06.12

2016年の前作『Day Breaks』以降、アルバム制作を意識した音楽創作をほとんど行っていなかったというノラ・ジョーンズ。そんな中、作った音源を繰り返し聴いているうちに創作意欲が芽生え、本年になりストリングスやハーモニーを入れ最終仕上げにかかり出来上がった、本人が「これまでで一番クリエイティヴ」と語る最新作。総勢20名以上の実力派ミュージシャンが参加し、11曲中、9曲のプロデュースをノラ本人が、2曲はウィルコのフロントマン、ジェフ・トゥイーディーが担当。深みのある楽曲の中から聴こえるノラの存在感ある歌声、ピアノの響きなど、じわっと心の中に沁みわたる。

 


I’M ALIVE
音楽の作り方に対する考え方を根底から変えることで、新たなインスピレーションの源を見つけ、クリエイティヴな精神を取り戻したノラ・ジョーンズ。早くも届いたニュー・アルバムは改めて真摯に音楽と向き合った彼女の現在が表現されている!

真摯に歌を紡ぐ姿

 呆気にとられるほど早く到着したノラの新作。〈ソング・オブ・ザ・モーメント〉 というコンセプトを用意して方向性を決めずに即興的セッションを重ねながら曲作りを実行した2019年作『Begin Again』とは異なるプロセスで作られたという情報をもとに、ふたたびジェフ・トゥイーディーと組んだ先行発表曲“I'm Alive”を聴きながらその内容を占っていたのだが、雑多なジャンルを自由に横断していくこのところの彼女は見当たらず、ここにはピアノ・トリオの演奏を核として真摯に歌を紡ぐ姿があった。その点ではルーツ回帰志向が打ち出された前々作『Day Breaks』に通じるフィーリングが流れているといえるものの、エモーショナルで内省的な感触がこれまでになく濃厚なのが印象的だ。

 ブライアン・ブレイドやネイト・スミスなどレコーディングに経験豊富なプレイヤーをふんだんに配しながら、全体のトーンを統一することに細かく神経を使うここでのノラ。穏やかな表情ながらもほどよく引き締まったパフォーマンスが並んでいるのは、そういった意識によってもたらされた集中力が影響しているのかもしれない。それにしても、香ばしい木の匂いがするサウンドやふくよかにして清廉なコーラスに彩られた“To Live”や“Were You Watching?”などソウルフル極まりない歌世界のなんと美しいこと。もうひとつのジェフ・トゥイーディー共作曲“Heaven Above”のスピリチュアルな歌声の響きもいつも以上に彼女の横顔を魅力的に際立たせていてウットリしてしまう。

桑原シロー

 

〈アルバム〉として作られたアルバム

 〈私はこのような時だからこそ、音楽は大切だと信じています。音楽は確かに私の気分を良くしてくれて、必要な時には、すっきりするほどひどい泣き顔にもしてくれるし、ダンス・パーティーにも連れて行ってくれます。やっぱり私のしていることは音楽で、このどうすることもできないと感じる時間の中で、皆さんに届けなければいけないものの一つだと思っています〉――このたびのニュー・アルバム『Pick Me Up Off The Floor』が諸々の社会情勢を受けて当初の予定から1か月リリース延期となったことに際し、このようなコメントを届けているノラ・ジョーンズ。昨年の『Begin Again』が前年の先行配信曲をコンパイルしたものと考えれば、今作は2016年の『Begin Again』以来のオリジナル・アルバムと捉えることもできる。昨年にはメイヴィス・ステイプルズとの“I’ll Be Gone”、タリオナ“タンク”ボールとの“Take It Away”や“Playing Along”なども単曲でリリースされていたが、今回それらが未収録となっているのは、久しぶりにノラ自身が〈アルバムを作る〉という行為に向き合って作った楽曲集だからなのだろう。息の合ったジェフ・トウィーディーとの共作/プロデュースによる先行曲“I’m Alive”と“Heaven Above”を除けば、プロデュースはノラ自身が担当。20名以上のミュージシャンを迎えたセッション的な側面は大事にしつつ、曲と詞の本質的な手綱を彼女自身が握ることでアルバムには穏やかな統一感がもたらされている。シンプルで素朴な歌心が味わえるこれらの楽曲が、彼女自身が言うところの音楽の効能に溢れているのは間違いない。

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