自分のことしか書けない!!
――収録曲についてもちょっとずつ気になる点があるので聞かせてください。1曲目の“夢見るドブネズミ”は、なぜドブネズミが主人公なんでしょう?
朝日「まあそれは、美しい生き物だからですね」
タケイ「写真には写らない美しさがね(笑)」
一同「(笑)」
朝日「ネズミが好きなんですよね。よく物語の主人公にもなるし、漫画とかに出てくるネズミって勇敢なキャラが多いんですよ。身体が小さいからこそ大見得を切るというか、〈弱い犬ほどよく吠える〉なんて言葉もありますけど、ネズミも吠えてる自分自身を信じている感じがして。だからこの曲の歌詞の〈偽が偽じゃなくなる〉っていう一文はすごい気に入っているんです。自分も弱くて、あらん限りにわめきながら何とかうまくやってきて、その結果いろんな人に作品を聴いてもらえるようになってきて、最初はニセの蛮勇だったのがニセじゃなくなる瞬間が音楽にはあると思っていて。だからネズミっていうモチーフがしっくりきたんです」
――なるほど。例えば3曲目の“北上のススメ”には、打席に立ったバッターが空振り三振した途端に手のひらを返される歌詞が出てきますよね。こういう歌詞もやっぱり自分と重ねて書かれてるんでしょうか?
朝日「そうですね、もう自分のことしか書けないので。僕自身、10年以上音楽をやっていて、〈チョイハネ〉する瞬間もあったんです」
藤田「(苦笑)」
朝日「でも、いい感じになった後に〈次のターン行くぞ!〉ってちょっと違う雰囲気の曲を作っても、みんなそのハネた曲を期待して待ってるから、すぐに〈何か違うわ〉って言われたり、冷められたりもしてきて。こっちは頑張ってバットを振りにいってるのに、そんなにすぐにガッカリしないでほしいっていう思いはあります。まあ気にしなきゃいい話なんですけど、〈路線変わったね〉とか言われると気にもなるじゃないですか(笑)。ちょっと前にヨルシカのn-bunaくんがキレキレのツイートをしてたよね」
藤田「見た!」
朝日「〈昔の方が好きだったって言われるのが一番気持ち良い。俺が君たちのために音楽してないことの証明になる〉ってね。あそこまで言えたらいいですよね。n-bunaくんとちゃんと話したことないんですけど」
――また朝日さんの歌詞は強烈なものも多くて。“虫がいる”という曲は、なんで虫がいるんですか?
朝日「それはたまたまそこに虫がいたからです(笑)」
一同「(笑)」
朝日「レコーディング・スタジオのソファで仮眠をとってて、目を開けたら虫がつぶれて死んでて。〈誰かが踏んだんだろうな〉って思って、その出来事を30分くらいで曲にしました(笑)」
――これは実体験だったんですね。最終的にはカフカの「変身」みたいになりますが。
藤田「本当カフカですよね(笑)」
朝日「カフカの『変身』は姿が虫になって、そのせいで家族にも見放されて」
藤田「林檎をぶつけられてその傷が元で死ぬんだよね」
朝日「そうそう。でも、誰でもそういうことが起こる可能性はあるよなって思っていて。特に音楽をやってると、自分の知らない自分像みたいなものが一人歩きして、時には虫みたいに扱われて、物を投げられてる瞬間が絶対にあるんです。だから気付いたら自分も虫になってたっていう曲になったんですよね。……実は今作にはけっこうエグいテーマの曲が多いんです。もっさが歌ってるとそうは聴こえないんですけど」
――もっささんの声には、そういうエグさを和らげる役割もあるわけですね。
朝日「そうなんです。暗い歌詞もあるけど、暗くなりすぎないんです」

クイーンはいいぞ!!
――個人的には2曲目の“放課後の記憶”という曲にヤラレました。ネクライトーキーはいつも2曲目がいいなと思っていて。
朝日「ああー! 最近はストリーミングで聴かれることも多くて、アルバムの2、3曲目って特に大事だと思っているんですよね」
藤田「最初はリード曲にしようかっていう話もあったよね。結局はならなかったんですけど、でもこの曲も早めに聴いてほしいっていう気持ちがあって2曲目になりました」
中村「うん。個人的にはいちばんキャッチーな曲だと思います」
朝日「唯一まともな曲かな(笑)」
中村「普通にいい曲。ちょっと哀愁も漂っていて」
朝日「リード曲やMVにならなかった理由もそこなんですよね。普通にいい曲だから、わざわざ特別扱いしなくてもいいんじゃないかっていう」
中村「他の曲に比べて歌詞にトゲもないしね」
もっさ「(小声で)めっちゃツバ吐いとるけどな」
一同「(笑)」
中村「ツバは吐いてるけど(笑)、他の曲よりトゲがマイルドなんですよ」
朝日「そうだね。“ぽんぽこ節”なんて一番トゲあるもんな」
――その“ぽんぽこ節”は、朝日さんの好きな音楽の要素を詰め込んだ曲なんですよね。個人的にはクイーンとかキング・クリムゾンの要素は入ってるかなって思ったんですけど。
朝日「まずイントロのベースにファンクっぽいものが欲しかったんです。休符を大事にするベース。それとコーラス・ワークはクイーンを聴きながら作ったし、急に激しくなったり、急に美しくなったりっていうギャップが欲しくてEL&P(エマーソン・レイク・アンド・パーマー)をめっちゃ聴いてましたね。あと歌詞は『平成狸合戦ぽんぽこ』の主題歌だった、上々颱風の“いつでも誰かが”を意識しています。〈ぽんぽこ〉の映画のテーマとも相まって、すごく寂しく感じるんですよね。この曲は〈変わっていくいろんなものに対しての後悔とか、懐かしむ気持ち〉を表現したかったので、音楽や映画も含めていろんな要素が詰まった曲になりました」
藤田「ちょうどクイーンの映画(『ボヘミアン・ラプソディ』)をやってる時にコーラス・ワークのフレーズが出来ててね」
――“渋谷ハチ公口前もふもふ動物大行進”のコーラスにもクイーンぽさがありますよね。
朝日「あのコーラスはすごい気に入ってて。いいですよねクイーンは(笑)」

バンドを作る3要素!!
――先ほど〈ジェットコースターに乗ってる〉なんて話も出ましたけど、ここまでバンドが急成長した理由を自分たちで分析したりはしますか?
タケイ「イメージしてた上り方ってこう(手で緩やかな登り坂を作りながら)だったんですけど、そうじゃなかったですからね。ある一点から急に角度がガンって変わった」
朝日「そこからこう(手で急激な下り坂を作りながら)もあり得るからね」
中村「もう山を越えちゃったの(笑)!?」
――その〈ある一点〉っていうのは何がきっかけだったんでしょうか?
中村「“オシャレ大作戦”のMVがYouTubeのオススメとして出るようになってから観てくれる人が増えて、そこから変わったような気がしますね」
朝日「そういったインターネットのいろいろは大きなきっかけですね。でも、それ以外はちゃんと自分たちの足で歩いてきてる感覚です。さっきはジェットコースターって言ってたけど、底に穴が開いてて、結局は自分たちの足で走ってたんだよ(笑)」
一同「(笑)」
朝日「ちゃんと自分たちの足で走ってるんだけど、いろんなことが噛み合っていてジェットコースター並みのスピードが出てたっていう。想像したらめっちゃキモいけど(笑)。でも、いちばんは声でしょうね。いろんなアーティストがいますけど、武道館に行くようなアーティストは絶対声が良くないとダメだって言うし。声の重要性は大きいと思います」
もっさ「……(モジモジしている)」
タケイ「あとは朝日の作る曲!」
朝日「あとは演奏だね。バンドって3つ要素があって、声と曲と演奏から出来ていると思うんです。で、声も良いし、曲も良いものを作ろうと思っているし、ライブもいいなって思うことが増えたんです。去年9月にBLITZ(マイナビBLITZ赤坂)でワンマンがあって、その映像が収録されたDVDも今作に付くので、ライブ映像を見返してたんです。そしたら〈けっこうライブいいな〉って思って。良かったよね、映像」
藤田「うん!」
朝日「音源を聴くだけじゃ味わえない良さみたいなものも出てきたし。声と曲と演奏っていう大事な3つの要素をちゃんと頑張ってきたから、ここまで来れたのかなって思います」
――その通りだと思います。
朝日「時にはイロモノ扱いされることもあるんですけど、やってること自体は普通にちゃんとやってるんです。実はすごい王道のバンドなんです」
――そうですよね。いま朝日さんはいちばんに〈声〉という要素を挙げましたけど、それはもともともっささんの声にユニークなものがあったからバンドに誘ったわけですよね。それは当初のねらい通りになったってことですか?
朝日「ねらい以上ですね。声って、その声を誰が発するかというのも大事で、それをさっき〈主人公感がある〉って言ってくれましたけど、ネクライトーキーの音楽を聴いてくれた人のなかにもそう思ってくれた人たちがたくさんいるから、ネクライトーキーの音楽自体を良いなって思ってくれたんだと思うんです。ただ良い声を出すだけじゃない。もっさのもともとやってたバンドのライブを初めて観た時から、〈主人公になる〉と思ってたんです。それがちゃんとみんなにも伝わってよかったなと思います。これからバンドをやる女の子たちにとってのギターヒーローにもなると思ってるし、だから日々もっさには厳しくしてるんだよ」
もっさ「はい! 頑張ります(笑)」
朝日「そう。もっさは歌うだけじゃなくってギターもすごく良くって、そう言ってくれる人も増えて。〈やっと気付いたか〉って(笑)」
タケイ「荒い時は荒いんだけどね(笑)」
藤田「だんだんと弾くフレーズも難しくなっていってるし」
朝日「だって自分で難しくしてるんだもん」
もっさ「……教えられてます」
――今日はずっとモジモジでしたね。
もっさ「すみません(笑)」
藤田「謝んなー!」
一同「(爆笑)」