K-Pop勢は別にして、英米発のボーイズ・グループ・ブームは一段落したと言っても、きっと反論は聞こえてこないだろう。この手のグループを多数生んだオーディション番組もいまや影響力を失った。だからこそ、独自の道を切り拓いて、バンド名を冠するファースト・アルバムを完成させたニュー・ホープ・クラブ(以下NHC)は、注目に値するユニークな存在じゃないかと思う。ジョージ・スミス、ブレイク・リチャードソン、リース・ビビィの3人(平均年齢21歳)は約4年前にバンドを結成。みんな地元・英国産のギター・ロックを愛して育ち、それまでは個々にバスキングしたりYouTubeに楽曲をアップしたり、ソロで活動していたが、「もともと全員がバンド志望だったんだ」と、3人を代表してブレイクは話す。

 「まずソロでの体験がアーティストとしての僕らを形作ったわけだけど、そうやって得た知識をいまの音楽作りに活かしている。だから、ソロ活動は僕らにとってプラスに働いたし、とにかくこの3人が巡り会えたこと、こんなにも仲良くなって、一緒に音楽を作れていること自体が素晴らしいと思うんだ」。

 つまりNHCはシンガー・ソングライターの集団であり、ステージでは全員ギターかベースを演奏し、交互にリード・ヴォーカルを担当。揃ってルックスと歌唱力に恵まれ、ロック・バンドとポップ・ヴォーカル・グループのイイトコ取りをした感じだろうか? アルバム発表を急がずツアーに勤しんだ彼らは、その合間に国内外の若手プロデューサーと共作してマメにシングルを発表し、世界中にファンを増やしていった。

 「間違いなく、先に地盤を固めたい気持ちがあったし、まずはソングライターとしてのスキルを磨きたかった。時間をかけてどんなアーティストになりたいのか見極める必要もあった。だからアルバムには幅広く曲を収めているんだ。17歳の頃に書いた曲も、つい半年前に書いた曲も含まれていて、僕らの足跡をなぞるような作品をめざした。つまり、現時点までのNHCのストーリーを伝えているのさ」。

NEW HOPE CLUB New Hope Club Virgin EMI/ユニバーサル(2020)

 ブレイクが言う通り、本作は彼らの進化の過程を雄弁に物語っている。2017年春に発表した“Fixed”がギター・ロックに近かったのに対し、1月にお披露目したばかりの“Let Me Down Slow”はリハブをフィーチャーしたEDM。“Medicine”はディスコのグルーヴに乗っていて、メキシコ人シンガーのダナ・パオラをゲストに迎えた“Know Me Too Well”ではラテン音楽にウィンクするなど、オープンマインドに表現の幅を広げてきた。ただ、どの曲も根本的にはトラディショナルな作りで、エレクトロニックなサウンドにもギターの音がさりげなく織り込まれ、どこか素朴で古風な趣がある。オアシスあたりの影響が窺える“Give Me Time”は、3人だけで完成させたとあって、そういうバンドのエッセンスに迫る曲だ。

 「ここには僕らのいろんなインスピレーション源が反映されている。例えば僕とリースはマンチェスター育ちで、この曲からはマンチェスターらしいサウンドが聴こえるし、3人で書いて演奏して、僕がプロデュースして、最高にピュアな形で僕らを表現した曲なんだ。才能豊かな外部のソングライターともコラボできる僕らは本当に恵まれているんだけど、3人だけでも素晴らしい曲を作れることを証明したかったんだよね」。

 そんな彼らにはもしかしたら、〈ボーイズ・グループ〉という甘口の呼称は不似合いなのかもしれない。どちらかと言えば失恋を歌うのが好きらしく、リリースしたのは2月14日だけど、『New Hope Club』はロマンティックという言葉では形容しきれないさまざまな感情的色合いを含んだアルバムとなっている。

 「そうなんだよね。偶然タイミングが合っただけで、ヴァレンタイン・デーを狙ったわけじゃない。ただ、ファンへのラヴを表すには相応しい日だと思ったし、みんながいま恋をしていてもしていなくても、きっと共感できる曲があるはずだよ!」。

 


ニュー・ホープ・クラブ
リース・ビビィ(ベース/ギター/ドラムス/ヴォーカル)、ブレイク・リチャードソン(ギター/ヴォーカル)、ジョージ・スミス(ギター/ヴォーカル)から成るUK出身のバンド。2015年夏にブレイクとジョージが出会い、その後リースが加入して現編成に。ヴァンプスのツアーに参加して脚光を浴び、2017年にデビューEP『Welcome To The Club』、翌年にセカンドEP『Welcome To The Club Pt. 2』をリリースする。2019年11月に初の単独来日公演を行い、日本編集盤『Welcome To The Club EP』を発表。今年1月に発表したリハブとのコラボ曲“Let Me Down Slow”も注目を集めるなか、このたびファースト・フル・アルバム『New Hope Club』(Virgin EMI/ユニバーサル)をリリースしたばかり。