昨年、日本音楽史上初の〈弾き語りドームツアー〉という偉業を成し遂げたゆずが、休む間もなく新たな作品をリリースする。15作目のオリジナルアルバムとなる『YUZUTOWN』と名付けられた同作には、ゆずとしての〈大衆性〉を背負いながらも、純粋ないち音楽家として生み出した全14曲を収録。二人が見据えるものとは。

ゆず YUZUTOWN SENHA&Co.(2020)

――アルバム『YUZUTOWN』はどのようにコンセプトが生まれて、各曲とリンクしていったんでしょうか?

北川悠仁「シングル曲を制作しながらもアルバムに向けての曲作りを同時に進めていく中で、出来上がっていく曲が、前作の『BIG YELL』でやった応援歌とか、20周年からあった〈国民的アーティスト・ゆず〉みたいなものではない、より身近な曲が出来始めていったんですよね。そういう曲ってシングルとアルバム収録曲で分けていたようなイメージだったんですよ。つまり、アルバムの中では個人的なものや身近な曲っていうのもあるんですけど、シングルは割と背負うものが大きいという感じだった。

でもだんだんその隔たりがなくなっていって、ナチュラルな曲というのかな――もちろん簡単に作っているという意味ではなく――より自然に出てくる言葉みたいなものがあったので、そういった感覚からコンセプトを探し始めました。で、そのときに『YUZUTOWN』というものが出てきたんです。大きな〈国〉や〈世界〉ではなくて、街の中で暮らす人たちの息遣いとか葛藤とか、出会い別れ、そういうものを表現している曲が多かったということが〈TOWN〉というコンセプトに結びついていったんです」

――制作作業はドームツアーと平行して行われたんですか?

岩沢厚治「そうですね。弾き語りドームツアーはやっぱりやって良かったというか、なんだろうな、自分たちから発する音楽がちょっと自分たちに引き寄せられたというか、取り戻すような感じがすごくあって。ああ、そういえばこんな感じでやってたなっていう、これしかなかったなっていうのを再確認できましたね。だから結果論ですけど、今から振り返ると弾き語りドームツアーが良いきっかけになったと思いますね」

――アルバム『YUZUTOWN』。1曲目は“SEIMEI”で始まります。この曲から始めようと思ったのは?

北川「当初はアルバムをこの曲で締めくくろうと思ってたんです。そもそもドームツアーに向けて書いた曲で、大きなテーマを扱ってはいるんですけど、でもここで歌われているのはすごく身近なものだったりもするんですよね。そう考えたら、アルバムがこの曲から始まるのも面白いんじゃないかなって思ったんです」

岩沢「弾き語りとして作って演奏もした曲を、さらにリアレンジして曲をグレードアップさせるっていうその過程に、ゆずが歩んできた道のりを感じてもらえると思うし、僕らとしても、曲がどうなっても根っこは変わらないなっていう強さの部分を再認識しましたね」

――音楽的にもいろんな要素が入っているのが、まさに『YUZUTOWN』というコンセプトを表現しています。例えば、和音階を駆使した“花咲ク街”では、“雨のち晴レルヤ”などで追及してきた楽曲の世界観をさらに推し進めています。

北川「“花咲ク街”に関しては、和音階って特別に意識しているわけではないんですけど、やっぱりDNAの中にあるんでしょうね。ただ今回はそこの部分をより意識して作ったんですけど、それはより和モノポップスにしようということではなくて、そこにオルタナティブな要素をハイブリッドした形で新しいものにチャレンジしたかったからなんです。歌詞の内容も、エールではないんですよね。もうちょっとそっと見守る感じで、そこがこのアルバムでの存在証明というか、今僕らがやりたいことが詰まってる曲になったと思います」

岩沢「僕らが若かったらできてない曲だと思いますね。ポップだけどどっしりしてるんですよね。その微妙な加減はやっぱり自分たちの音楽を追求してきたからこそ出せるものなのかなという気がしています」

――アートワークでは、ピクセルアートで懐かしさと今っぽさが共存するワクワクするようなものが出来上がりましたね。

北川「今回はピクセルアートのeBoyと全面的にコラボレーションしたのですが、彼らから上がってくるラフが、もうブッチギリで良くて(笑)、安心して作品作りができましたね。楽曲制作のペースに合わせてアートワークの進行も早くできたので、すごくリンクしながら作れていった感じがありました。だから例えば収録曲の“チャイナタウン”で描いた中華街だったり、“イマサラ”のカレー屋さんだったり、それから“SEIMEI”の木もあるんですけど、曲の世界観とアートワークががっちりリンクしてできましたね」