天野龍太郎「Mikiki編集部の田中と天野が海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週も新型コロナウイルス感染症に関連した訃報が届きました。アルト・サックス奏者のリー・コニッツが、COVID-19による合併症により、92歳で亡くなりました。独創的なインプロヴァイザー、そしてビバップ時代からのジャズ史の偉大な生き証人にRIP」

田中亮太「アウトロー・カントリーのシンガー・ソングライター、スタージル・シンプソンが新型コロナの検査を受けて陽性反応だったというニュースもありました。ここ日本では、緊急事態宣言の対象地域が全国に拡大。これまで以上に多くのライブハウスやクラブが、経営面などでダメージを受けることになると思います」

天野「なにより、国や自治体がしっかりとした補償をしてほしいです。一方、多くの店舗やコミュニティーが、クラウド・ファンディングなどを行っています。僕は映画館が好きなので、ミニシアター・エイド基金に寄付しました。あと、東京・大久保のオルタナティヴ・スペース〈ひかりのうま〉の〈銀行券〉を買ったり。あなたのお気に入りの場所、行きつけのお店も、なにか取り組みをしているかも。ぜひチェックしてみてください」

田中「渋谷のクラブ、Contactは、前回大好評だったというDJの配信〈GH STREAMING〉を今週末と来週末に行うんだとか。オンライン音楽配信サーヴィスの大手、Beatportによる36時間の配信イベント〈ReConnect〉も、日本時間4月18日(土)の午前5時から開催されますね。まずは自宅で踊りましょう。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から」

 

1. Kid Cudi “Leader Of The Delinquents”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉はキッド・カディの新曲“Leader Of The Delinquents”! ソロの新曲としては、なんと4年ぶり。前作『Passion, Pain & Demon Slayin’』(2016年)から、もうそんなに経ったのか~」

田中「2018年にカニエ・ウェストとキッズ・シー・ゴースツ(KIDS SEE GHOSTS)としてアルバムを出しているので、そんなにひさしぶりって感じはしないですね。改めてキッド・カディについて紹介すると、米オハイオ州クリーブランド出身、84年生まれのラッパーです。彼はカニエにフックアップされた才能で、対立した時期もあったようですが、師弟関係にあると言っていいと思います」

天野「カニエはカディをかなり信頼していて、頼りにしていると思いますよ。カディといえば、デビュー・アルバムの『Man On The Moon: The End Of Day』(2009年)。クラウド・ラップに先駆けた浮遊感があるサイケデリックなビート、チルウェイヴ的な感覚、ダラダラとしたラップ、そして独特のコンセプト性には衝撃を受けました。彼はメランコリーや不安といった、ネガティヴな感情をラップした先駆者でもあって、カディってけっこう重要なアーティストだなと、ここ数年は感じますね」

田中「話題の映画『WAVES/ウェイブス』でも楽曲が使われていますし、影響力ありますよね。個人的には、フィジェット・ハウス全盛の時代にフロア・アンセムになった“Day ‘N’ Nite”のクルッカーズによるリミックス(2008年)も忘れがたいです。我が道を行くオルタナティヴ・ヒップホップをやってきた彼ですが、この新曲はかなりストレートに90年代っぽいビート。プロデューサーはウードロ・スキルソン(Woodro Skillson)とドット・ダ・ジーニアス(Dot Da Genius)の2人です」

天野「前者は〈Arkateqq〉名義でも活動しているようですね。後者のドット・ダ・ジーニアスは、カディやキッズ・シー・ゴースツのビートを作っていた人です。本当にウータン・クランやノトーリアス・B.I.G.の曲なんかを思い出すブーンバップ・ビートで、ピアノやホーンのサンプリングが印象的。サビのフレーズは、ビギーの“Gimme The Loot”(94年)にちょっと似てるし……。リリックの内容は、やっぱりメンタル・ヘルスの問題やドラッグ中毒の苦しみが主題で、〈俺は自分の精神のなかに閉じ込められていた そこから逃げ出そうとしていたんだ/名声と孤独、惨事のレシピさ/このクソを制御できない そして俺は酔いつぶれた〉というラインが悲痛です。このリリックの〈閉じ込められていた〉というところには、パンデミックの状況下で家に閉じ込められている人々のことも含意されているのでは、とGeniusでは分析されています。この曲は、カディのニュー・アルバム『Entergalactic』からのシングルなんだとか。Netflixのアニメ・シリーズと連動した作品らしいのですが、どんなものになっているのか、楽しみですね」

 

2. Jamie xx “Idontknow”

田中「ジェイミーxxの“Idontknow”が2位。彼はThe xxの音楽的な頭脳であるプロデューサー/DJですね。今年の3月には突然来日し、渋谷のContactでDJを行って、ファンを驚かせました。もはや遥か昔の出来事のようですが……」

天野「日々刻々と、社会や音楽を取り巻く様相が変わっていっていますからね。亮太さんが遠い目をしているうちに曲の説明をすると、この“Idontknow”は、ソロとして約5年ぶりの新曲。2019年の秋頃から彼と仲間たちのDJセットでスピンされていたそうです。カリブーも今年の2月に出演したBBC Radio 1の〈Essential Mix〉で使っていたんだとか」

田中「そうなんです。KW・グリフ(KW Griff)“Be Ya Girl”から、この曲へとシャープに繋がるところがかっこいので、カリブーのミックスはぜひ聴いてみてください! ただ、この“Idontknow”はちょっとDJ泣かせというか、曲の途中からBPMがガラッと変わるという、ダンス・トラックとしてはやや珍しい構成ですよね」

天野「まるで〈Ultimate Breaks & Beats〉からネタを引っ張ってきたかのような、古典的なブレイクビーツでスタート。かと思いきや、1分すぎにBPM 160のジャングル調になるっていう。冷んやりとしたテクスチャー、艶やかなベースラインはいかにもジェイミーらしいんですけど、彼の曲としてはかなりアグレッシヴな曲。新作をリリースするとか、この曲が今後どんなプロジェクトに繋がっていくかは発表されていませんが、次の動きも楽しみですね」

 

3. Deante’ Hitchcock feat. JID “I Got Money Now”

田中「3位はディアンテ・ヒッチコックの“I Got Money Now”。この曲、めっちゃ良いですよね。なにが最高かってミニー・リパートン“Les Fleurs”(70年)の使い方ですよ! イントロのギターのループから感動的なコーラスまでを大胆に取り込み、聴いていて高揚せずにはいられませんでした」

天野「そこですか(笑)。興奮中の亮太さんを横目に説明すると、ディアンテ・ヒッチコックは、アトランタ出身のラッパーです。2012年頃から活動を開始し、2016年に発表したミックステープ『Good』で注目を集めました。J・コール率いるドリームヴィル(Dreamvill)のヒット・コンピレーション『Revenge Of The Dreamers III』(2019年)にも参加していますね。この“I Got Money Now”で亮太さんが爆上がりしていたように、サンプリングを効果的に使ったソウルフルなトラックと、硬派でスキルフルなラップが彼の魅力なのかなと」

田中「なるほど。ちょっと初期のカニエっぽい印象も受けました。カニエには一家言ある天野くんの前では軽率なコメントかもしれませんが……」

天野「やめてください(笑)。リリックでは、少年時代の貧しい暮らしを描写したうえで、タイトルどおり〈いまはいっぱい金持ってるぜ〉と息巻いています。ミニー・リパートンの清らかさとは正反対ですね。ちなみに、今回フィーチャーされているJIDもドリームヴィル一派の一人。いまいち日本では注目度が上がっていかないJ・コール界隈ですが、実力派のラッパーばかりなので、もっと多くのリスナーに届いてほしいですね!」

 

4. RMR “DEALER”

天野「4位はRMR(ルーマー)の“DEALER”です。彼のことはそのうち紹介したいと思っていたんですけど、いいタイミングで新曲を出してくれました」

田中「RMRは、2月末に発表した“Rascal”のビデオがいきなりヴァイラル・ヒットしたシンガーですね。“Rascal”のビデオは、銃を構えた危なすぎる男たちに囲まれたRMRが、アカペラで歌うところから始まります。で、映像はとにかくいまのラップ・ビデオを踏襲したヴァイオレントでストリートな感じなんですけど、RMRの美声がピアノの伴奏をバックに響き渡る……という画と音のギャップがすごすぎるもので、めちゃくちゃ話題になったと」

天野「しかも曲が、カントリー・グループのラスカル・フラッツのバラード“Bless The Broken Road”(2004年)なんですよ! マジで意味がわかんない……(笑)。さらに、ビデオを観てもらえばわかるとおり、RMRはスキー・マスクを被った覆面シンガーなので、正体不明なんです。それもひとつの要因となって、めちゃくちゃバズっています」

田中「そんな彼は早くもワーナーとメジャー契約を結んで、デビュー・アルバムを制作中なんだとか。このシングルはその第1弾で、“Rascal”に続く2曲目。シタールみたいな、なにやらオリエンタルな旋律のサンプリングがおもしろいですね。普通にビートがあって、“Rascal”とは対照的にイマっぽいR&Bソング。でも、あいかわらず素晴らしい歌声です」

天野「声がひっくり返ったりするところも見事にコントロールしていて、技巧派なシンガーですよね。歌い手としては、ウィークエンドに続く才能なんじゃないかと思います。〈俺はディーラーなんだ 中毒者じゃない 俺がボスだ〉とセルフ・ボーストしているのですが、コデインやザナックスといった現代のドラッグがバンバン出てくるあたり、刹那的な破滅願望も感じますよね。そこも、ちょっとウィークエンドっぽい。2019年のリル・ナズ・Xのように、バズをきっかけに注目されたRMR。今後の活動が気になります。Rolling Stoneのインタビューも必読!」

 

5. Diet Cig “Who Are You?”

天野「今週最後の一曲は、ダイエット・シグのニュー・シングル“Who Are You?”。彼女たちのことはStereogumを読んでいて知りました。曲を聴いて、一発で〈いい!〉って夢中になっちゃったんですよね」

田中「ダイエット・シグはNYのバンドなんだそうですね。アレックス・ルチアーノ(Alex Luciano)とノア・バウマン(Noah Bowman)の2人組で、5月1日(金)に新作『Do You Wonder About Me?』をリリースする予定。この曲は、アルバムからのシングルです」

天野「それにしてもいい曲! 歪んだギターをガシャガシャとかき鳴らしている感じはグランジやギター・ポップっぽくて、おもちゃっぽいシンセサイザーの音はインディー・ポップ的。でも、メロディーラインがとにかく切なくて、ポップ・パンクそのものなんですよ! グリーン・デイやオフスプリングの後に出てきたブリンク182とか、90年代末から2000年代前半のバンドたちのあの感じ……。あっ、思い出したら泣けてきた……。Homecomingsのファンにもぜひ聴いてもらいたいな~。アレックスの歌声もキュートで最高ですし、ダイエット・シグ、激推しです!!」