メランコリックかつエモーショナルな独自の音楽性で2010年代をリードしてきたウィークエンド。そんな狂騒のアフター・アワーズにはどんな音が渦巻いている?
時代を作ってきた男の顔
昨年11月にリリースした“Heartless”が自身4曲目の全米No.1に輝き、同じ月に届いた“Blinding Lights”が自身にとって初めての全英1位ヒットとなったウィークエンド。それらの点と点を繋いだ先に現れるのは、もちろん通算4枚目となるフル・アルバム『After Hours』だ。ただ、気になるのはもちろんそのアートワークだろう。シングルやそのMVの時点で大きなアフロヘアとゴージャスなジャケットを纏ったヴィジュアルで従来のイメージを覆してはいたが、アルバムのジャケは自身の血まみれになった顔面を大写しするという衝撃的なもの。こうしたヴィジュアル・ショックは単なる冗談ではないはずで、作品の中身も気になってくるところだ。
THE WEEKND 『After Hours』 XO/Republic/ユニバーサル(2020)
今回の新作は彼にとって2016年の『Starboy』以来となるオリジナル・アルバムであり、2020年代に入って最初のアルバムということになる。思い返せばドレイク“Crew Love”への参加に前後して『House Of Balloons』『Thursday』『Echoes Of Silence』というミックステープのトリロジーで話題を撒いたのが2011年のことだから、2010年代はまさしくエイベル・テスファイが自由自在に表現を繰り広げていった時代だったわけだ。そしてそれは、彼やドレイクの別格的な飛躍に伴ってカナダ~トロントのシーンが注目を集めた時代でもあるし、アンビエントでアトモスフェリックなベッドルーム系の空間様式がR&B~アーバン・ミュージックのモダンを塗り替えてきた時代と言うこともできるだろう。特に後者に関しては、メインストリームにおける〈ポップ〉の在り方そのものを変えてしまった感もある。控えめに言ったとしても、そんな時代の空気感が醸成されるにあたって、ウィークエンドやそのサウンド面のブレーンたるジェイソン“ダヒーラ”クエネヴィル、ドク・マッキニー、イランジェロ、ダニーボーイスタイルズらが大いに寄与したのは間違いない。
ただ、当のウィークエンドが同じ場所に佇んでいたわけじゃないのは言わずもがな。2作目『Beauty Behind The Madness』(2015年)からはマックス・マーティンと組んだディスコ・ファンク“Can’t Feel My Face”が時流を捉えてキャリア最高のヒットとなったし、先述の『Starboy』からはダフト・パンクと組んだエレクトロ・ポップの表題曲、ディスコ調の“I Feel It Coming”が成果を上げるなど、さまざまに行きつ戻りつしながらも彼の音楽性は極めてカラフルなものとして捉えられてきたはずだ。一方、2018年の3月にサプライズ・リリースされて全米1位を獲得したEP『My Dear Melancholy,』には、スクリレックスやゲサフェルスタインとのコラボもありつつ、鬱蒼とした闇に沈み込んだような作風が揺り戻したようなヒット・チューン“Call Out My Name”も収められ、メランコリックかつ官能的な表情で初期の姿を連想させたのも記憶に新しい。なお、その2018年の暮れには幕張メッセにて初来日公演が実現。もともと2013年の〈サマーソニック〉で初来日が予定されていたことを思えば待望の一夜だったが、その間に彼がポップスターとしての貫禄を増したことを思えば好機だったのかもしれない。当日は米津玄師がスペシャル・ゲストとして登場したことも話題になった。