〈人と人の距離〉を綴った昨年のアルバムの物語は、また別の舞台へ――変化のときを迎えたバンドと美しくシンクロする映画主題歌が完成!

これまでとは異なる風景

 映画と音楽はパンとバター。相性が合えば最高のハーモニーが生まれる。京都を拠点に活動する4人組、Homecomingsは、映画上映とコンサートをドッキングしたイヴェントを開催するなど映画をこよなく愛するバンド。そんな彼らが、映画に接近するのは自然の成り行きだろう。昨年公開された劇場公開アニメ「リズと青い鳥」で初めて主題歌“Songbirds”を手掛けて話題を呼んだが、最新シングル曲“Cakes”は、4月公開の映画「愛がなんだ」の主題歌だ。監督は恋愛映画で知られる鬼才、今泉力哉。以前からHomecomingsのファンだった彼から直接オファーされたそうだが、そのあたりの経緯をギターの福富優樹はこんなふうに振り返る。

Homecomings Cakes felicity(2019)

 「決定したのは去年の12月くらいだったので、もう映画は完成していて、劇伴も乗っていてエンドロールだけが空いてる状態でした。『リズと青い鳥』の時は画が全然出来てなくて、自分たちで想像を膨らませながら曲を書いたんですけど、今回はどんな作品なのかしっかりわかったうえで曲を書くことができたんです」(福富)。

 Homecomingsの4人も今泉監督の作品が大好きで、両者は相思相愛の仲。しかし、曲作りからレコーディングまで1か月くらいしかない厳しいスケジュールのなかで、バンドは監督とのやり取りや完成した映画/原作小説を通じて曲のイメージを固めていった。

 「今泉さんは僕たちのこれまでの作品を聴いてくださっていて、〈あの曲のテンポ感で、あの曲みたいな雰囲気で〉っていうふうに具体的なキーワードを出してくれたんです。まったくそのとおりにしたわけじゃないですけど、Homecomingsの音楽性を理解したうえで主題歌に選んでくださったことがわかって嬉しかったですね」(福富)。

 作詞は福富が手掛け、作曲はヴォーカル/ギターの畳野彩加が担当。曲作りのうえで、インスパイアされたアルバムがあったという。

 「サニーデイ・サービスの『MUGEN』がパッと頭に浮かんだんです。リズムは打ち込みだけど温かくて、ドリーミーだけど現実感もある。そういう感覚は大切にしました」(福富)。

 映画に登場するのは、東京で一人暮らしをしている若者たち。一人暮らしのアパートや居酒屋といった若者には馴染みの生活空間や、高井戸や中目黒など具体的な地名が登場し、映画から東京の街の空気が伝わってくるところがサニーデイの歌を連想させたのかもしれない。

 「確かにそれは大きいですね。これまでの僕らの曲は、なんとなくアメリカの風景をイメージして歌詞や曲を書くことが多かったんですけど、今回は映画に出てくる街の風景がサニーデイを呼び寄せたんだと思います」(福富)。

 そんな縁で、曽我部恵一にリミックスを依頼した“Cakes”の〈立春 MIX〉もシングルに収録。曽我部はマッドチェスター風のサウンドに仕上げてバンドの期待に応えている。また、Homecomingsは去年リリースした最新アルバム『WHALE LIVING』で “Songbirds”以外の全曲で日本語詞に挑戦したが、“Cakes”もやはり日本語詞。なかでも、〈甘いクリーム ちゃんと好きだよ〉という一節は、今泉監督作品「サッドティー」(2014年)のキャッチコピー、〈ちゃんと好きって、どういうこと?〉を思い出さずにはいられない。

 「今泉監督の作品が好きで追いかけている人たちに〈おっ!〉って思ってほしかったんです。あと今回の歌詞については、映画に生々しい恋愛のシーンがあるので、肌と肌が重なる感じみたいなものを自分なりに表現してみました。そういうのって、これまで書いたことがなかったので挑戦してみようと思って。ケーキのスポンジって肌色っぽいじゃないですか。そこに甘い感情が生クリームみたいに乗っているっていうイメージで“Cakes”っていうタイトルにしたんです」(福富)。

 

映画と共振したバンドの変化

 一方、作曲面でも新たな挑戦が行われた。ジャズで使うような洗練されたコードを挿み込むことで、曲に大人っぽい雰囲気が生まれている。

 「これまでのHomecomingsはシンプルなコード進行でいくっていうイメージがあったんですけど、日本語詞になってからいろいろと日本人のアーティストも聴くようになって、KIRINJIとか小沢健二さんとか過去の作品も遡って聴いてみたんです。それでコード進行を意識するようになりました。今回は、〈ここにこういうコードを持ってきたらグッとくるんじゃないかな〉とか考えながら曲を書いたんです」(畳野)。

 シングルにはもう1曲、新曲“Moving Day Part1”が収録されているが、この曲は畳野によるピアノの弾き語りナンバー。ここでも作曲を手掛けた畳野のソングライターとしてのこだわりが窺える。

 「子供の頃からピアノは習っていたんですけど、ピアノで曲を作るのも、弾き語りで歌うのも初めてでした。ギターだったら自分が弾きたい音をパッと弾けるんですけど、ピアノは難しくて。ランディ・ニューマンとかマックス・ジュリーとか、ピアノの弾き語りのアーティストを聴きながら弾きたい音を探っていったんです。あと、レックス・オレンジ・カウンティとかソウルっぽい人も最近聴くようになったので、そういう要素も入れたいと思っていました」(畳野)。

 そして、曲作りの方向性が変われば歌い方にも影響する。なかでも、注目したいのが“Cakes”のヴォーカルだ。

 「『WHALE LIVING』の時は優しさと温もりを歌ってたんですけど、今回に関しては、優しさはあるにしても、もうちょっと感情をクッキリとさせるイメージで歌いました。そして、〈1曲のなかでどういう表情を見せていくのか〉っていうのも考えました。強く歌ったり、裏声を使ってふわっと広がるように歌ったり、いろんなやり方を試したんです」(畳野)。

 そうした抑揚の付け方も、ピアノの弾き語りやソウル・ミュージックからの影響があったに違いない。これまでのギター・ポップ・サウンドにジャズやソウルの要素も採り入れて、大人の階段を昇ったHomecomings。「映画を観た時、いつもより大人な曲を求められている気がして」

 と畳野は言うが、バンドもまた変化の時を迎えていたのだろう。“Moving Day Part1”が旅立ちの歌だというのも象徴的。今回のシングル“Cakes”は、彼らのキャリアのなかで重要な作品になりそうだ。

 「映画に曲を書き下ろす行為って、すごく重要な役割だと思うんです。僕は曲によって映画の良さが何段階か変わってくると思ってて。特に『愛がなんだ』は、ひとつひとつの表現が繊細に積み重ねられていく映画なので、そういう作品の最後にかかる主題歌をやらせてもらえることはすごく光栄だし、自分たちがそこでちゃんと意味のある表現ができるバンドになれて良かったなって思います」(福富)。

 そして、いつかサントラも手掛けてみたい、と夢を語る二人。「みんないろんな楽器を弾けるし、ギター・バンドだけじゃない部分がいっぱいあるんで」と福富は期待に胸を膨らませる。マイペースに成長を続けるHomecomings。そのなかで、映画との関係はこれからも深まりそうだ。

関連盤を紹介。

 

Homecomingsの作品。