時代の流れにメッセージを発しながらもポジティヴなエンターテイメントとして響く最高のロックンロール——すべてのクソどもに捧ぐ、全世界待望のニュー・アルバム!
人々が直面している葛藤
時代がグリーン・デイを求めている。2017年11月に新曲も含むベスト盤『Greatest Hits: God's Favorite Band』をリリースしてからもビリー・ジョー・アームストロング(ヴォーカル/ギター)とマイク・ダーント(ベース)によるカヴァー・バンド=カヴァーアップスのライヴにトレ・クール(ドラムス)がゲスト参加したり、ビリーがLAのパンク・バンドであるプリマ・ドンナのメンバーたちとロングショットを組んだり、『21st Century Breakdown』(2009年)収録の同名曲を元にした「Last Of The American Girls」というコミックを出版したり、ビリーがモリッシーのアルバム『California Son』に客演したり——と、そこは人気バンド。数々のニュースがメディアを賑わせてきたが、言ってみれば、それは息抜きみたいなものだった。グリーン・デイがいよいよ『Revolution Radio』以来、3年4か月ぶりとなるオリジナル・アルバム『Father Of All...』と共に本格的にシーンに復帰する。
アルバムのトップを飾る“Father Of All...”を昨年9月に発表してから、約4か月もファンを待たせたのは、アメリカで大統領選挙が行われる今年2020年の頭にアルバムを投下し、再選を目論むドナルド・トランプに対して、また〈No!〉を突きつけたかったからなんじゃないか。早速ビリーは海外のメディアで〈彼は何のインスピレーションにもならない〉と新作がトランプに言及したものであることを否定しているが、トランプ(当時は次期大統領)に対して、演奏中に〈No Trump! No KKK! No Fascist USA!〉と訴えた2016年のアメリカン・ミュージック・アワードのステージを考えれば、そう関連づけられたとしても仕方ない。良いか悪いかは別として、トランプ大統領が初訪英した時、〈グリーン・デイの『American Idiot』をチャートの1位にしよう!〉とSNS上で署名運動が起きたように、メンバーたちが望むと望まざるにかかわらず、このタイミングでの新作は大いに注目を集めるに違いないが、グリーン・デイは目の前の危機が大きければ大きいほど燃える生粋のパンク・バンドだ。たとえロックの殿堂入りを果たしても、その反骨精神がなくなることはない。理由はどうあれ、訴えかけたいことがあるから作ったアルバムが注目されれば万々歳だろう。
じゃあ今回ビリーが訴えかけたかったのは何かと言えば、それは現代アメリカのブルーカラーの人たちが直面している葛藤だったという。〈ブルーカラー〉という言葉が使われているが、トランプ政権下で分断と格差が広がった現代のアメリカにおいては(日本の状況を振り返ってみればわかりやすいと思うが)、それが意味するものは幅広い。
ポジティヴなロックンロール
ジャケットを見ればわかるように、『Father Of All...』というタイトルには〈Motherfuckers〉という言葉が続いているのだが、あらゆる〈ロクデナシたち〉の父というのは、トラック運転手として働きながら6人の子どもを育てたビリーの父親のようなブルーカラーにとどまらない、さまざまな賃金労働者のことをさしているのだと思う。
今回のアルバムがフォックスボロ・ホットタブス名義でグリーン・デイがリリースした『Stop Drop And Roll!!!』(2008年)、あるいは3部作の第2弾だった『¡Dos!』(2012年)のように50年代のロックンロールや60年代のガレージ・ロックの影響が色濃いものになっているのも大いに頷ける。なぜなら、かつてロックンロールはブルーカラーの人たちの娯楽だったからだ。〈キング・オブ・ロックンロール〉ことエルヴィス・プレスリーにオマージュを捧げたMVがゴキゲンな1曲目の“Father Of All...”以下、苛立ちも交えて不穏な空気に満ち満ちた歌詞とは裏腹に、バンドの演奏には不満や不安を吹き飛ばすようにエネルギッシュでポジティヴなヴァイブが感じられるから、重いテーマにもかかわらず痛快な気持ちを味わえる作品になっているが、それは前述したようにビリーが自身の父親の面影を重ね、現代の賃金労働者の葛藤を描きながら、〈俺たちはみんなを暗い気持ちにしたいわけじゃない〉と考えたからだろう。
ある意味、コンセプト・アルバムと言ってもいいかもしれない。打ち鳴らすビートがゲイリー・グリッター“Rock And Roll”を思わせる“Oh Yeah!”、まるでリトル・リチャードの曲をビートルズがカヴァーしているように聴こえる“Stab You In The Heart”、キンクス風のリフがイントロのウェスタン調をガラッと変える“Take The Money And Crawl”、どこかバディ・ホリーを思い出させる“Graffitia”——メンバーたちのマニアックな遊び心も窺える楽曲の数々は、ロックンロール・ファンならより楽しめるはずだ。
つまり、メッセージは2020年に相応しいシリアスなものだが、ロックンロールの何たるかを忘れないところが『Father Of All...』のいちばんの聴きどころということ。プロデューサーは今回初めて組んだブッチ・ウォーカー。根っこにロックンロールを持ちながら、モダンなサウンド作りにも長けている彼はまさに適役だ。
跳ねるリズムがポップかつダンサブルな“Meet Me On The Roof”は全10曲(+日本盤にはボーナス・トラックとして“Bang Bang”のライヴ音源を追加)の中でひときわライヴ映えしそうだが、ライヴと言えば、8年ぶりとなる来日公演が3月に実現する。25日のインテックス大阪公演と27日の幕張メッセ公演は即日ソールドアウト。追加された28日の幕張メッセ公演はバンドの希望により、日本から多数のゲストを迎えるという。新たに生まれるグリーン・デイの伝説に、いまから多くの人がわくわくしている。
関連盤を紹介。