「忠次旅日記」日活

 先にふれた赤穂浪士、忠臣蔵のネタにしろ、〈仇討ち〉的な封建制の残滓として危険視されたのがその一面としてあるにせよ、この物語からは多彩なテーマが引き出されてきたし、〈時代劇〉とは、過去の時代に材を取ったものである以上に、語られてきた物語を、語りなおす時代=現代に合わせて作り直すという意味でも〈時代劇〉であるという二重性を持つ。見ること、聞く・聴くこともしかり。

 今や、当代の、当の浪曲師たちによって、浪曲の謎は新たな曲面に入りつつある。先に述べた何重もの謎のなかにありながらも、また蘇るものとしての謎である。

 私は地方暮らしの身だが、それでも、この映画祭にも関わっておられる玉川奈々福さんの公演などは、友人が企画しているものを、住んでいる街で見ることができたりもしている。その企画の一つは、狂言師とのコラボレーションで、さらに夏目漱石「吾輩は猫である」を取り上げるものだったが、非常に刺激的でおもしろかった。

 そうした日本の他にして多なる芸能ジャンルへとも広がるだろうし、たとえば、今後は、中国・華人系文化の武侠ものなどとも交錯していくかもしれない。現在の動きは、さまざまな成果と可能性を感じさせるが、まずは実演と上映によって浪曲に浸ることが可能になったことを喜びたい。自分たちが、アジアの端っこのシモジモであることを思いだそう。忘れられた情を、情念を、現在形で全開にしていこう。新たな〈情〉のかたちが見えてくる、聞こえてくるはずだ。

 


EVENT NFORMATION
特集上映〈浪曲映画祭―情念の美学2020〉

2020年6月26日(金)~2020年6月30日(火)東京・渋谷 ユーロライブ/ユーロスペース

出演
浪曲師:五代目天中軒雲月/浜乃一舟/大利根勝子/玉川奈々福/玉川太福/真山隼人/京山幸太
曲師:沢村豊子/玉川みね子/沢村さくら/一風亭初月
活弁士:坂本頼光
伴奏:沢村美舟(三味線)
トーク・ゲスト:入江悠(映画監督)/山根貞男(映画評論家)

 溝口健二「元禄忠臣蔵」前・後編 松竹

上映作品
■6月26日(金)浪曲演目録─「義士銘々伝」四十七の別れ
12:15 開映「元禄忠臣蔵」前編+後編(計223分)監督=溝口健二/主演=河原崎長十郎
16:40 開映「韋駄天数右衛門」弁士=坂本頼光+〽玉川太福「不破数右衛門の芝居見物」
19:00 開映 〽玉川奈々福「義士銘々伝ー俵星玄蕃」+「忠臣蔵 暁の陣太鼓」出演=近衛十四郎

■6月27日(土)浪曲師伝説─二代目天中軒雲月(伊丹秀子)
12:15 開映「母の瞳」出演=三益愛子/松島トモ子/伊丹秀子+〽天中軒雲月「義士銘々伝―安兵衛婿入り」
15:30 開演 〽浜乃一舟「悲恋静」+「母の湖」出演=三益愛子/口演=伊丹秀子
17:50 開映「呼子星」 出演=三益愛子/広沢虎造/寿々木米若/伊丹秀子
19:40 開映「母なき家の母」「祖国の花嫁」監督=伊賀山正徳/口演=二代目天中軒雲月

■6月28日(日)浪曲の未来─上方の若き俊才たち
11:30 開映「赤穂義士」出演=寿々木米若/梅中軒鶯童/冨士月子/玉川勝太郎
13:15 開映「国定忠治」出演=阪東妻三郎+〽京山幸太「国定忠治と火の車お萬」
16:15 開演  〽真山隼人「越の海物語」+「雷電」監督=中川信夫/出演=宇津井健
18:30 開映「続雷電」監督=中川信夫/出演=宇津井健

■6月29日(月)浪曲と活弁と活動写真と
11:50 開映「招集令」監督=渡辺邦男/口演=東家楽燕
13:30 開映 「忠次旅日記」監督=伊藤大輔/出演=大河内傳次郎/声帯模写活弁「国士無双」監督=伊丹万作/出演=片岡千恵蔵 ⦿両映画ともに、弁士=坂本頼光/三味線伴奏=沢村美舟
16:50 開映「新佐渡情話」監督=清瀬英次郎/口演=寿々木米若
18:30 開演 〽玉川奈々福「鹿島の棒祭り」+トーク=山根貞男+「春秋一刀流」出演=片岡千恵蔵

■6月30日(火)浅草木馬亭・根岸京子席亭追悼
12:10 開映「世紀は笑ふ」監督=マキノ正博/主演=広沢虎造
14:10 開映「岸壁の母」監督=大森健次郎/出演=中村玉緒/二葉百合子
16:10 開映「母の瞳」出演=三益愛子/松島トモ子/伊丹秀子
18:00 開映「浪曲師になってしまった!」監督=伊勢哲+鼎談+〽玉川太福「男はつらいよ」+〽大利根勝子「梅山家の縁談」

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