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インタビュー

Chip Tanaka『Domingo』ゲーム・ミュージック大家のどこまでもピュアで飽くなき音楽愛

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ゲーム音楽の大家がダンス・ミュージックをはじめた理由

――サウンドについてもお話を伺いたいんですけれども、第一印象として、メロディーやリフが雄弁で、物語というか世界観、風景をすごく感じました。前作ではいわゆるチップ・サウンドがにぎやかに飛び交っていたのに対して、今回はメロディー・メイカーとしての側面が出ていると思います。特に意識されたポイントはありますか?

「若いときからダンス音楽がずっと好きなんです。二十歳前、日本にレゲエ人口が少ないころからずっとレゲエにハマって、90年代になるとテクノ・ミュージックにハマった。ミニマル・テクノ、特にベーシック・チャンネルの出していたものやキット・クレイトン、ポールみたいなミニマル・ダブ。クールじゃないですか? 音も削ぎ落とされていて。

ただ、聴く側としてはそうであっても、パソコンを使ってクラブみたいな場所でやりはじめたのは50歳を過ぎてからで。そういう音楽って、当然20歳前後〜30台前半が主流のものではあるし、意識的に距離を置いています。そのバランスを作っていくのがいまの自分のひとつのやり方かなと思っていて。

今回は前よりもわかりやすいメロディーにしたし、コード進行もあんまり斜に構えなかった。つまり〈かっこいいだろう!〉みたいなことではなくて伝わりやすさを大事にしました」

――メロディアスな楽曲がある一方で、ビート・ミュージックっぽいグリッチがふんだんにはいった“Tubeworm Dub”や、曲によってはBPMが緩めのミニマルな四つ打ちが入っているものもあるし、ハードな面もありますね。

「やっぱりこれまで聴いてきた音楽が反映されてるんだと思います。でも、本当はカントリー・ミュージックも大好きだし、世代的には、どう考えても50年代から60年代のアメリカのブルースの影響も大きいと思うんですよ。ただ、Chip Tanakaという名前では、自分がゲームに関わって以降、つまり1980年以降の音楽をベースにしています」

――ちなみに、Chip Tanakaという名義自体はゼロ年代の後半からお使いになってるんですよね。

「50歳から(2007年)ですね。海外だと僕の名前はHip Tanakaというのが有名で。チップチューンという音楽のジャンルがあるんだ、と耳にしたときに、アメリカの友人から〈田中さん、Cをつけたらおもしろいんじゃない?〉って言われて。HipにCつけてChip Tanakaです、ということかな。

ただ、じゃあ田中さんはどんな音楽をやりたいんですか、と言われたら、本当はよくわかってないんですよ。50歳のときに、自分は一貫してラテンやクラブ的なものを含めてダンス音楽が好きだったし、そっち側の流れに乗ってみようと思った。自分としては本当に、そこで舵を切った感じがありましたね。

一般的には〈田中さんってゲームの人だよね〉っていう印象がまず強い。世代によっては〈ポケモンの音楽〉という方もいますけど。自分で自分を演出するような感じで、ゲームの創世記を起点に音楽を作っていこうと思ったんです。必ず楽曲のなかのどこかには実際のファミコンやゲームボーイの音をサンプリングして使っている。それを自分のなかの決まりにして作り続けてるって感じです」

※田中はアニメ版「ポケットモンスター」の主題歌を手掛けている
 

――今回のアルバムでも、ぱっと聴きではわからなくても、よく聴いてみるとベースにゲームボーイやファミコン的な三角波が使われていたりしますね。

「ファミコンの三角波ってほんとにおもしろい個性を持った音なんですよ。狙って作られたわけではないんだけれど。それをサンプリングしたものを曲によって使ってます。特に、“Tubeworm Dub”のベースはもろにファミコンの三角波だし、散りばめてある音も、僕の手掛けたポケットカメラという製品には簡単なシーケンサーや好きに波形が作れるシンセサイザーが機能としてあるのですが、そこで作った音をサンプリングしています」

『Domingo』収録曲“Tubeworm Dub”

 

レゲエやインディー・ロック……翻弄されるかのように聴いてきたリスナー遍歴

――“Hammerhead Shark Song”はクラシックなハウスっぽいピアノが印象的な曲です。こちらはミュージック・ビデオも制作されているリード曲ですが、その理由はなんでしょう?

『Domingo』収録曲“Hammerhead Shark Song”
 

「曲の展開や音の使い方も含めて、1枚目にはあまりなかった感じの曲だったからです。僕の音楽のなかではわりと音数が少なめで、けれどしっかり矩形波を中心にしている。さらにアコースティック・ピアノの音を混ぜたっていうのも初めてだった。自分の特徴をわりとよく表してるんじゃないかと思ったんです」

――“Moonchild”という曲はシンプルなEDM的なリフが中心で、ビルドアップもわかりやすい。ただ、リズムがシャッフル寄りの3連のフィールなんだけれども、途中でスクエアな3拍子に割り直されるみたいなギミックがおもしろかったです。

『Domingo』収録曲“Moonchild”
 

「いろんな曲を作っていくとコード進行やリズムの面で〈かっこよく、かっこよくしよう〉って意識が働くと思うんですよ。あの曲はそれを抑えめにしてみようと思ってトライしました。それでも、イントロや途中のリズムの細かさとかは、ここ数年の音のトレンド、トラップなどを意識して、特にハイハットなんかを作りこみました。トラップっぽいリズムが好きなんですよね。

レゲエから来ているわけじゃないけどそれに近いし、シンプルにベースだけで引っ張っていくというのが好きで。自分がそのままトラップをやるわけにはいかへんし、というときに、要所要所で(リズムを)そういう構成にしていった」

――特にメロディーで印象深かった曲が“A Song For Stars”です。さきほどこの曲に関するエピソードを聞いてちょっとびっくりしましたが、この曲についてはいかがですか?

「ああいうかんたんなメロディーを決めていくのは実は難しい。出来てしまうと単純だし、時間かけたようには思えないんですけど、相当やり直ししてます。リズムや構成は早くから出来てたんですけど。自分の場合あまり考えずパッとやるときにいちばんいいものが出てくる。打ち込むときも最初、まず適当に手弾きして、それをエディットしていく。ダメだと思ったらその部分は曲の後方へ退避させる。でも、“A Song For Stars”のメロディーに関してはわりと時間かけて決めていきました」

――エピソードに感じられる雰囲気はアルバムからもある程度滲んでいるんですけど、ひとつひとつ照らし合わせるとびっくりしますね。サウンド的にはクールな側面もあるアルバムなので。

「“Momongah”なんかもっと具体的ですよ。最初に出てくる小太鼓は子供が山に探検にいくときの不安と冒険心。山に入っていくと、知らない動物が飛び交ってる。途中で四つ打ちになるところがあるけど、あれは夕方になってもっと暗くなって、もっと不安になりながらも、突き進んでいくところ。暗さに慣れてきたある瞬間にモモンガが一匹飛ぶ、っていうことを仕掛けとして入れようと思って。それを見て〈うわっ〉と驚いたところで曲が終わる構成にしました。いつも自分で繰り返し聴きながら〈あ、飛んだ!〉って思う瞬間があります(笑)」

『Domingo』収録曲“Momongah”
 

――各曲、田中さんのなかでのイメージはがっつりあるんですね。

「ありますね。自分は子供の頃、なかに物語のある曲がすごく好きで。いま朝ですよ、お昼ですよ、ご飯を食べていますよ、ここから仕事をしはじめましたよ、とわかる曲。自分が子供のとき、母親が学校の先生をしていた関係で、クラシック的な音楽にたくさん触れてたんですけど、そういう音楽を15分でも30分でも自然と聴けたのは物語のおかげだと思う。子供のときにそういうクセがついているから、曲を作るにしても、曲のなかにドラマとかストーリーをこめていることが多い、というか、そうじゃなく作りはじめてたとしても時間が経つと、自然に自分の音のなかにドラマを見つけてしまう」

――アルバムの締めくくりになっている“Night Flight”は、BPMがやや速めのエイト・ビートで、まさにフライトという疾走感のある曲です。飛行機というだけあって、子供時代のノスタルジーというよりも大人の時代のそれなのかなと思いました。

『Domingo』収録曲“Night Flight”
 

「これは再会をイメージした曲なんです。今回のアルバムを聴いてくれた人に対して〈また会いましょうね〉ということがひとつ。そして、自分を好きでいてくれてる人って海外の人は特にゲームから入った人が多いんです。『メトロイド』だったり若い人なら『MOTHER』だったり。そういう人が初めて(このアルバムを聴いて)〈田中宏和はChip Tanakaという名前でこんな活動をしてたんだ!〉と知るという、そこの再会の意味も含めてます。

自分はずっとレゲエも好きやったんですけど、当然90年代くらいのインディー・ロックもすごく好きで。最後の繰り返しの部分は自分のなかでイメージするインディー・ロック的な感覚を、ファミコン色の強いサウンドで構成していきました。今回のアルバムのなかではいちばんファミコンっぽいと思います。昔の自分の印象や音使いのクセが出てるんじゃないかなと」

――ちなみに90年代のロックで思い入れのあるバンドはありますか?

「恐ろしいほどあるけれども……たとえばステレオラブとか。あと僕はペイヴメントがすごく好きで。よれよれの、でもガツン! と来るようなところが。ライヴも何度か足を運んだし。もう少し前からいるバンドだと、プライマル・スクリームはいまも好き。

当時は特に当時の音楽雑誌に影響されるまま、そこに紹介されてるさまざまなバンド、特にロック・バンドを好んで聴いてました。僕らの世代では〈ストーンズしか聴かない、ビートルズしか聴かない〉っていう若い頃にファンだったバンドを変わりなく聴き続けてる方が多いようにも思いますが、僕はさまざまな音楽メディアに翻弄されるまま、とにかくいろんなバンドを聴いてきました」

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