堂本剛の〈ファンク〉の開花と米南部音楽志向(2012~2014年)
『shamanippon -ラカチノトヒ-』『瞬き』『shamanippon -ロイノチノイ-』
ここまで内省的でパーソナルな作品が続いていたが、ついにアルバム『shamanippon -ラカチノトヒ-』(2012年)で現在の堂本の音楽性に繋がるような〈ファンク〉が花開いていく。
堂本が〈shamanippon〉とチャントのように繰り返すファンク・ロック“shamanippon 〜くにのうた”がまず鮮烈だ。これは、当時彼が構想していたという共和国〈SHAMANIPPON〉の建国宣言だろうか。
ちなみに〈SHAMANIPPON〉とは、「自分の中にある愛とかを自分に憑依させて、その中でトリップして表現するための架空の国」だそう。「誰でも参加でき」、「宗教は意味を持たなくて自分のみが意味を持」ち、「自分がそこにあると信じればそこにある」ものがSHAMANIPPON。「政治が乱れている今の日本よりは、もしかしたら面白いことができるんじゃないのかなぁ?」という憂いも語っており、単純な現実逃避やスピリチュアリズムではなく、堂本の〈理想の未来〉の投影だと思われる。
そんな前向きなヴィジョンが投影されているのだろうか、これまでの作品とは打って変わって、とにかくアッパーに攻めていく。スライ&ザ・ファミリー・ストーン風の“に ひ”で〈あたらしい 次元へ ゆこう〉と歌われるのも〈SHAMANIPPON期〉の堂本らしく、同時にそれはENDRECHERIでの宇宙的な愛を歌うファンクを予見させる。
ライブ録音だとおぼしき長尺のファンク・セッション“TUKUFUNK”(屋敷豪太のドラム・ソロが凄まじい)は、まるでジミ・ヘンドリックス × Pファンクといった感じだ。ファンクのゴッドファーザー、ジェイムズ・ブラウンのスタイルを思わせるタイトな“一鼓動 ~1 beat”では、ラップに近い言葉を詰め込んだヴォーカリゼーションを聴くことができる。
注目したいのは“Mind ligt blues”。堂本の艶っぽいヴォーカルも素晴らしいが、ブルース~ブギウギに挑んでいるところがかなりおもしろい(堂本のディスコグラフィーに、このような曲は他にないのでは?)。
SHAMANIPPON期の堂本の作品には音楽的な遊び心や〈あれもこれも〉という豊饒さがあり、どんどんソリッドになっていく現在のENDRECHERIとはまたちがったおもしろさを感じる。
『瞬き』(2013年)は、モノクロのポートレートがあしらわれたジャケットが印象的なシングル。
キャッチーだが切ないメロディーを狂おしく歌うバラードの表題曲はフォーク・ロック調だが、ブリッジで琴や鈴の音色が入ってくることで曲調がガラッと変わるあたり、とても堂本らしい一曲。
驚かされたのは、和の意匠を取り込んだエレクトロ~EDMの“Welcome to shamanippon”。
また、ブルージーなギターとゴスペル風のコーラスがローリング・ストーンズっぽい“縁 - groovin’”も素晴らしく、繰り返しになるが、こういった音楽的な振れ幅の広さは(特にこの時期の)堂本というアーティストの個性だと感じる。
次なる作品はアルバム『shamanippon -ロイノチノイ-』(2014年)で、タイトルからは『shamanippon -ラカチノトヒ-』との強い連続性を感じさせる。
配信版のオープニング・ナンバー“I gotta take you shamanippon”は、前述の“縁 - groovin’”(アルバムでは2曲目に配置)を引き継いだファンキーなロックンロール。初期スライ&ザ・ファミリー・ストーンやローリング・ストーンズ、あるいはアメリカ南部音楽を志向していた頃のプライマル・スクリームを思い起こさせるソウルフルな逸品だ。
冒頭の2曲に引っ張られるように、アルバム全体からは、〈ファンク〉というよりも、広くアメリカ南部音楽からの影響が香り立つ。“イノチトボクラ”“美しき日”“Ginger”“shamaspice”“shamadokafunk - 謝 円 音 頭”など、後半の一連の楽曲は、ホーン・セクションやピアノ、エレピがリズミカルに響く、アーシーで泥臭いアレンジだ。なかでも“美しき日”は、堂本らしい切ないソングライティングとサザン・ソウルとの出会い、といった趣。