本日休演の岩出拓十郎を中心に結成された異端のレゲエ・バンド、ラブワンダーランドが、デビュー・アルバム『永い昼』と7インチ・シングル『ラズベリーサン/アロエ・ベラ』をリリースした。メンバーは岩出(ギター、ヴォーカル)の他、ぱる(ヴォーカル/象の背)、小池茅(ドラムス/映像作家)、矢野裕之(ベース/ex.バレーボウイズ)、白川大晃(キーボード/Bagus!)、足立大輔(ギター/Emerald Four)という、いずれも他バンド・ジャンルで活躍する実力派かつ曲者たち。〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉をテーマにした彼らの楽曲は、ぱるのあどけなさすら感じる無垢な歌声に、ルーツ・レゲエやダブを自己流に昇華したサウンドが組み合わさり、独自の世界観を醸し出している。そんな摩訶不思議なバンドの結成秘話から今後の展望まで、岩出と小池の2人に話を訊く。

ラブワンダーランド 『永い昼』 Pヴァイン(2020)

ラブワンダーランド 『ラズベリーサン/アロエ・ベラ』 Pヴァイン(2020)


埜口が亡くなっちゃって、取り残されたような感覚があった

――個人的には、岩出さんは本日休演のメンバーとして、小池さんはその本日休演のMV監督など映像作家としてそれぞれ知っていたんですけど、お二人の出会いは知らないのでまずはそこから教えていただけますか。岩出さんは京都大学で本日休演を結成されますけど、ご出身は東京なんですよね。

岩出拓十郎「そうなんです」

――小池さんも東京の出身で。

小池茅「そうです。それで3年前に仕事で大阪に来ました」

――東京出身者同士が、どうして京都で出会ったんですか?

岩出「大学の知り合いが小池の高校の友達で。京都に来た時に一緒に遊んだり映像を撮ったりしてたんです。それが2012年かな。その時に撮った映画、YouTubeにありますよ」

小池が監督、岩出とNロトシヒ口(本日休演の埜口敏博)が主演した短編映画「余命一日のノぐち」

――その頃、小池さんは何を目指していたんですか? 映像作家?

小池「うーん、なんでしょう……。大学時代から音楽も映像も両方好きでやっていて、いまもそれを欲張って続けています。僕の友達も岩出君も大学から関西に行って、僕は就職して配属先がたまたま関西。岩出君たちと合流できて一緒に活動しているという流れです」

――それがどうバンドになるんですか?

岩出「本日休演のセカンド・アルバム(2015年リリース『けむをまけ』)を作っている時にドラマーがいなくて、小池がドラムスを叩けるということで参加してもらって、当時はよく遊んでたのでもともと〈何か一緒にやりたいね〉とは言ってたんです。でもその後、本日休演のメンバーの埜口(敏博)が亡くなっちゃって、そのタイミングで周りのみんなの世界がどこか変わっちゃったんですよね。取り残されたような感覚があって、その時に改めて〈何かやりたいな〉って思ったんです。それがきっかけですね」

小池「僕はレゲエがすごい好きで、〈こんなのもあるぞ〉って岩出に教えると岩出もハマっていって、そしたら岩出もまたすごい音楽を紹介してくれて、その熱が戻ってくるんです。ディグり合い合戦みたいな。その時のレゲエ熱をうまく昇華させたいっていう気分もあったし、さっき岩出が言ったような状況もちょうど重なって、どこか必然的にレゲエ・バンドになったんでしょうね」

――デモCD『フォーエバーヤングボウイ』のクレジットを見ると、この時はまだメンバーが4人ですよね。岩出さん、小池さん、現メンバーの矢野裕之さんに、ひでおasa桜井さん(ヴォーカル/ex.ユーカリ心中、風のあと)。

岩出「桜井さんというのがその亡くなった埜口君の彼女で、よく一緒に遊んでたんです。矢野はバレーボウイズというバンドを脱退してヒマそうにしてて、じゃあ一緒にやらない?と。矢野とはバンドをやり始めてから距離が縮まったなあ」

――デモCDを購入した時にお手紙が付いていて、これも矢野さんが書いてたそうで。

岩出「そうです。彼は包装とか発送とかのセンスもあるので。その4人に、阿佐ヶ谷ロマンティクスのメンバーだった荊木(敦志/ギター)君をサポートで加えた5人でラブワンダーランドの活動を開始しました」

――そこからいまのメンバーにはどう変遷していったんですか?

岩出「桜井さんが実家に帰ったので少し休むことになって、しばらくライブができなくなって新しい女性ヴォーカルを入れようということになり、ぱるちゃん(象の背)を誘って」

――象の背は岩出さんがプロデュースしていますよね。

岩出「そうです。いい歌を歌うなと思っていたので。“恋のモーニングコール”なんかはバチッとハマったので是非やってもらおうとなりました。ヴォーカルはぱるちゃんにやってもらってますが、桜井さんもバンド結成からスピリチュアルな部分を支えているメンバーですので、休みつつやってもらってます。今回のアルバムでも1曲参加してくれたんです(“フォーエバーヤングボーイ feat. ひでおasa桜井”)」

岩出「その桜井さんが出られなかったライブの時、〈どうせだったらいろんな人をバンドに呼んじゃおう〉みたいなことになって、キーボードの白川君を呼んだり、スタジオ練習してたら廊下で話しかけてきた謎のインド人にコーラスを任せてみたり、本日休演のベースの有泉(慧)が手伝ってくれたり(本作にはメガドライブの音源で参加)、ギターの足立さんもレゲエが好きらしいから入ってもらったり」

――足立さんはそこからメンバーになったんですね。

岩出「小池がEmerald Fourでパーカッションを叩いていたこともあって。足立さんは結構スピってる人で、実はバンドでいちばんヤバい人かもしれないと思ってます」

――白川さんもこのタイミングでメンバーに?

岩出「彼はBagus!というバンドで、それまではソウルっぽい音楽をやってたんですけど、その頃ラヴァーズ・ロックに転向したというのを聞いて、せっかくだから手伝ってもらおうと」

小池「白川君はノリがすごくいいんですよ。レゲエのキーボードってリズム隊でもあるので、黒人みたいなタイム感だし、吹奏楽部っていう出自も関係してるのか。だからプレイヤーとしてすごくいいなと思ったのでお誘いして、最初はサポートだったけど、何となくヌルヌルとバンド・メンバーになりました」

――そうやっていまの6人が集まったんですね。

 

喪失感がラヴァーズ・ロックに

――レゲエ熱を昇華したかった、というのは分かったのですが、なぜラヴァーズ・ロックだったんですか?

岩出「もともと山本精一とかサイケ・ロックが好きで、レゲエもずっと聴いてたんですけど、レゲエのダブはサイケに通ずるものとして聴いてて。その中でラヴァーズ・ロックも知っていくんですけど、ラヴァーズ・ロックってメロディーが綺麗でメロウじゃないですか。完全に山本精一と同じノリだと思って、僕の中にスルッと入ってきたんです。女性ヴォーカルでやろうと思っていたし、ある意味ではシティー・ポップにも近いし。レゲエの中ではルーツ・ロックよりかはラヴァーズ・ロック、ロックステディなぬるい感じが好きで」

小池「レゲエって、ジャマイカでは〈戦え〉とか〈起き上がれ〉みたいに人々を鼓舞したり反抗したりするためのプロテスト・ソングだったと思うんです。それがイギリスに渡った時に、故郷を離れた移民の歌として、メロウな愛の歌に進化したんですよね。それがラヴァーズ・ロック。僕らもさっき言ったように埜口君を亡くしたり、頑張っていたバンドを脱退したりして、ある種の喪失感というものを共有していて、故郷ではない別の場所で愛を歌うラヴァーズ・ロックという音楽形態がいちばんふさわしかったんだと思うんです」

――ラヴァーズとは言っても、その愛が恋人同士だけのラヴじゃないのがいいですね。その〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉というテーマについて、もう少し詳しく教えてもらえますか。

岩出「意味わかんないですもんね(笑)」

小池「例えばいわゆるジャパレゲって、漠然としたイメージとして〈お前と結ばれたい〉とか〈親を大事にしろ〉とか〈こっち側〉のことばかり歌ってるじゃないですか。僕や岩出が好きな音楽はそういうものではなくて、例えばフィッシュマンズのように〈向こう側〉のことを歌っているもので。だからそういう音楽をやりたかったんです。でも安易にフィッシュマンズの後継バンドにはなりたくないし、どういう線を狙っていこうかって考えた時に、岩出が〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉っていう言葉を打ち出してきて、みんな意思統一されたんです。……ごめん、違ってたら言ってね(笑)」

岩出「いやいや、そうだね。でもまだ〈彼岸のラヴァーズ・ロック〉には到達できてない感じはしてます」

――〈向こう側〉を歌う境地には至っていない。

岩出「まだまだですね」

 

僕たちの中には2つのものがあって、その片方の世界で生きている

――作詞作曲の役割は?

岩出「小池に曲を投げて、〈歌詞作って〉っていうことが多いですね」

小池「半分くらいは岩出君が作詞して、残りの半分は曲だけ出来てて僕が詞をつけて岩出が補うっていう感じですね」

――歌詞を書くときはどういうことを考えてるんですか? 例えば〈彼岸〉っぽいことを考えてるとか……。

岩出「彼岸っぽいことを考えてますね。1曲目(“永い昼”)とかは特に、埜口が生きてた頃の日常が続いてたら……みたいなことを、失恋ソングのように書いてみたり。全体的にそういうテーマで書いてます」

岩出「それと“あくびのうた”と“はっぱさんのうた”は小池の映画のために作った曲ですね」

小池「そうですね。大学の時に自主映画を作って、岩出君に曲を頼んで、詞は自分で書きました」

岩出「その頃からレゲエでね。小池の映画の曲は全部レゲエです」

小池「(笑)」

――小池さんはどういうことを考えて歌詞を書くんですか?

小池「後から振り返ってみて、の話ですけど、ぱるちゃんの声を通す、という前提があるから、自分語りじゃなくてもっと自由な気分で書けるんです。〈彼岸〉がテーマなので、意識と無意識とか、夢と起きてる時とか、生と死、晴れと雨みたいな歌詞になっちゃうことは多いですね。いま言った対称的な言葉って、つまり〈彼岸〉が立ち現れている瞬間で。僕たちの中には2つのものがあって、その片方の世界で生きている。……ってことにされがちだけど、もう片方の世界――〈彼岸〉も実際は常に並行して伸びている。だからそういうことを詞に落とし込もうと思ってます。岩出もそうだと思いますよ。いつも詞に〈夢〉が出てくるので」

岩出「〈夢〉と〈眠り〉ね。普段からよく寝てるからね(笑)」

 

きっと埜口がいる世界ではずっとレゲエが鳴っていて、そういう音楽をやりたいな

――デモCDより前、最初にSoundcloudでデモ音源を聴いた時に音像に衝撃を受けたんです。後で聞いた話だと、一度録音したデータをVHSに焼き直してたらしいですね。

LOVE WONDERLAND · ラズベリーサン

岩出「VHSに焼いたり、データを一度アンプに通したり、そういうことをしてました。何かひとつ噛ませた感じとか、例えば80年代のCMの音質が劣化してる感じとかがすごく良くて、そういう感じにできないかなって」

――ヴェイパーウェイブ的なところとも繋がってくるんですかね?

岩出「そうですね。VHSってギリギリ見てた世代なんですけど、あの〈昔あったな~〉感。久しぶりに見て〈これじゃん〉っていう。郷愁というか……懐かしさともう消えた感じ。過去にあった未来とか、過去に最新だったものとか。そういうものが気付いたら消えてて、でも別のパラレル・ワールドではずっと残って存在しているような感覚があるんです。そういう感覚が、埜口がいる世界と自分の取り残された世界の関係性にマッチして。きっとその世界でずっとレゲエが鳴ってて、そういう音楽をやりたいなって思ったんです」

――なるほど。今作でもVHS化のような特別な処理は施しましたか?

岩出「今回もギターだけVHSに入れてみたり、テープレコーダーに入れたり、アナログのミキサーを使ったりしてみました」

――ダブだけでなくエコーやリヴァーブも大事にされていますよね。レコーディングは京大で行ったんですか?

岩出「そうです。京大の一室に馬場(友美)さんというエンジニアの方に来てもらって、ドラムス以外は全部ラインで、エフェクターあり/なしで録って」

――ポスト・プロダクションは?

岩出「僕がほぼ一人でやりました。ライン録りだったので後からいくらでもいじれるので、パソコンでエフェクトをかけたり」

――ドラムスは?

小池「後でダブの処理をするかもしれないというのと、リムショットを正確に録りたかったので、結構ドラムスにマイクを集中させて録りました」

――ライブではトリガーを効果的に使ってますよね。

小池「あれはライブで使うと〈なんだこれ!?〉って音を出せるんですけど、録音する時はズレるので今回で使ったのは少しだけですね」

――あともう一つ、僕が観たライブで衝撃だったのは、PA卓にわざわざダブ・マスターを呼んでエフェクトをかけてたことですね。

小池「シヴァさん(VERSION BROTHERS)というドレッドロックの方ですね。あの人があそこにいるだけでなんだか魔術がかった感じになりますよね、まず見た目的にも……」

岩出「ライブにおいてPA卓でダブ・エフェクトをかけてもらうっていう手法はレゲエの人がよくやっているんですが、自分たちでもやってみたくて。プレイヤーもエフェクターを踏んでいるので、あの時はドラムスだけやってもらいました。即興的なダブ・セッションももっとできたらと思います」

――インド人の方を呼んだり、ドレッドロックの方を呼んだり(笑)。その上でスネアからいろんな音は出るし、衝撃でしたよ。

岩出「(笑)。小池はレゲエ専門のドラマーなんですよね」

――それと今作にはテンテンコさんの“アロエ・ベラ”のカヴァーも収録されています。これは足立さんのEmerald Fourが作詞作曲を手掛けていて、これまでにライブでテンテンコさんと共演したり、ラブワンダーランド・ヴァージョンを披露したりしてきましたよね。

岩出「あの曲はテンテンコさんと共演するという時に足立さんが持って来てくれて、レゲエ・アレンジしてやってみたらすごくハマったんですよね。それ以来定番になったというか」

オリジナルのテンテンコ版“アロエ・ベラ”
テンテンコとラブワンダーランドが共演した際の“アロエ・ベラ”

ラブワンダーランド版“アロエ・ベラ”

――全体的に、熟しすぎて腐る直前のフルーツのドロッと溶けるような美しさがあると思っていて、特にこの曲はそれが顕著です。

岩出「そういう感じが出てるなら嬉しいですね」

 

いいズレ、いいヨレ

――CDのリリースはどうやって決まったんですか?

岩出「別のバンドの作品リリースの話をいただいたのですが、作業が進んでないとかいろいろな事情があって、でもこっちは結構やってたので〈こういうのもありますけど〉ってお話をして、やることになった感じです」

――ファースト・デモから急に躍進が。

岩出「ありがたいですね」

――岩出さんは本日休演もやっていて、ラブワンダーランドとの住み分けとか違いはどう考えているんですか?

岩出「今作を作った後で思ったのが、こっち(ラブワンダーランド)は録った後にがんがんエフェクトをかけたりVHSにしたり、レゲエ・マナーを突き詰めていきたいと思っているんです。ゴール……というかイデア的なものが明確に見えている感じで。一方で本日休演は3人で演奏している身体感……ぐじゃぐじゃな、ズレズレな演奏なんですけど、そこをもっと突き詰めたいんです」

――ズレズレ(笑)。でも分かります。僕はもともとBPMは遅いより早いほうがカッコいい、音程もリズムも正確なほうがいいって思ってたんですけど、岩出さんの音楽を聴いてそうじゃなくてもいいんだって思いました。

岩出「それは嬉しいですね。悪い意味でズレてたらダメなんですけど、そこがいちばん難しいところです。いいズレ、いいヨレ。実はレゲエも形式的にはスクエアなことをしてるんですけど、突き詰めればジャストじゃないんですよね。そこをどうズラすか、みたいな世界で。ジャマイカのバンドを聴いているとベースがドラムスに対してとても重かったり、それをズレって言葉で表したらいいのかはわかりませんが、どうレゲエのグルーヴを出すかということで、まだまだ全然そういうところまで到達できてないんです。ラブワンダーランドはBPMに対してどうズラすか、みたいなことをやっていますけど、一方の本日休演はBPM自体をぐじゃぐじゃにしていく、みたいな感じで。本日休演はズレに対する意識が強いですね」

――でも、〈こういうタイム感、どうやって習得したんだろう?〉って思いますよ。やっぱり世界中の音楽を聴いてるし、それにプラスして京大周辺のごった煮感とかもあるのかなって思います。こんなバンド、東京にはいないですもん。

岩出「流れがないから、自分で好きなものを煮詰めるしかないんじゃないですかね。東京はいろんな人がいて、その交流とか交換があるから洗練されていくけど。京都は風がないですから」

――コロナ禍で世界がいろいろと変わってしまいましたが、今後の活動予定などあれば教えてください。

岩出「状況的にもそうですけど、メンバーが多くてなかなか集まれないから、あんまりライブはしないんですよね。なので音源を作りつつ、配信ライブでもできればいいなとは思っています。でも、やっぱりもっと音源を作りたいですね。どう? 小池は」

小池「先のライブとかの予定はないし、メンバーとも久しく会ってないんですけど、逆にこの状況はおもしろいなと思っていて。会ったら会ったでセッションしたり、肉体的な方向へ向かったりすると思うんですけど、今は会えないからこそ音や映像をどんどん加工していくというか、それこそヴェイパーウェイヴみたいなことをやっていきたいなと思います。そういうのを元に配信をやってみるのもありだし。今回のアルバムには、自分たちがいまできることは全部詰め込みましたけど、いまこういう状況だからこそ次があるとしたらちょっと新しい要素が加わっていて、みなさんに驚いていただけるといいなと思っています」

岩出「VHS通したっていうのは良かったよね。ダブやディレイの音をもっと滲ませたり歪ませたりして、音の気持ちよさを追及するとか、そういう方向にももっと深めていきたいなと思いますね。もちろん曲もどんどん溜まってきているので」

――ありがとうございました。小池さんは今度、映像監督としてもMikikiに出てくださいね。

小池「ぜひ、よろしくお願いします!」