京都を拠点に活動するロック・バンド、本日休演による3年ぶり4枚目のアルバム『MOOD』が完成した。オリジナル・メンバーであるキーボード/ヴォーカルの埜口敏博の急逝、ギター/ヴォーカルの佐藤拓朗の脱退を経て、スリーピースというミニマムな編成になった彼らは、今作で初の本格的なスタジオ・レコーディングに挑戦。あくまでもロック・バンドというフォーマットを保ちつつ、激しさと優しさが同居し、ヒップホップ~現代ジャズとも共振する様々な〈揺らぎ〉を孕んだ音楽へと結実させた。
幻想的でドリーミーなコーラス・ワークと柔らかなギター・サウンド、あるいは切れ味鋭いドラム音やノイジーに歪んだサックス・ソロ、無骨で重厚感あふれるベース、そしてクセのある歌声からラップ調の語りまで聴かせる低音ヴォイス等々、スタジオ録音ならではの新鮮なサウンドメイクはリスタートを切った彼らの新たな〈ファースト・アルバム〉と言うに相応しい内容に仕上がっている。そこにはロックをはじめアヴァンギャルド・ジャズやノイズ・ミュージックなどジャンルを越えて数多くの名盤を手がけてきたエンジニア、中村宗一郎(PEACE MUSIC)との共同作業も大きく影響していることだろう。
今回のインタビューでは新作の制作経緯やスタジオでの具体的な制作プロセス、ジャズ系ライブハウスの新宿ピットインにおけるエピソード、さらに同時発売された『LIVE 2015-2019』と『MOOD』の関係性について、バンドの中心人物である岩出拓十郎に話を伺った。
ファースト・アルバムをもう一回作る
――新作『MOOD』はいつ頃から、どのように制作が始まりましたか?
岩出拓十郎(本日休演)「2019年の春過ぎにNEWFOLKのA&R、須藤朋寿さんから〈新しいアルバムを作らない?〉ってお話をいただいたんです。〈中村宗一郎(PEACE MUSIC)さんのスタジオで録音しようよ〉って。それがきっかけでデモ曲を作って、12月にレコーディングを始めました。
僕は京都に住んでいたので、あまり頻繁には東京のスタジオで作業できなかったんですけど、年が明けてからはコロナ禍の影響で録音が延期になってしまったんですよね」
須藤朋寿(NEWFOLK)「ちょうどレコーディングが延期になったあとに岩出くんが東京に拠点を移して、まとまった時間が作れるようになったので7月からじっくりとレコーディング作業を進めていきました」
――須藤さんはなぜアルバム制作の話を持ちかけたのでしょうか?
須藤「本日休演って、ずっとDIYなやり方でアルバムを作っていたと思うんです。岩出くんが宅録でデモを制作して、そのイメージを自分たちの身の回りにある機材と場所とでレコーディングするというスタイル。
それは京都に住んでいるがゆえの限られた環境もあったとは思うんですが、2017年にメンバーの埜口(敏博)くんが亡くなって、その後ギターの佐藤(拓朗)くんが脱退して、スリーピースのシンプルなバンド編成になったいま、もう一回ファースト・アルバムのような作品を作ることができるんじゃないか?と思ったんです。これまでのDIYなやり方ではなくて、スタジオでエンジニアとがっぷり四つに組んだら面白くなるんじゃないかと。それで声をかけました」
岩出「ちょうどバンドが良い状態で、身体的な感覚として自分たちの演奏ができるなという思いはありましたね。ただ、デモの段階で音像のイメージはあったんですが、レコーディングした結果、全く別物になりました」