PLASTIC GIRL IN CLOSET(以下、 プラガ)のニュー・アルバム『DAWN TO­NE』が掛け値なしに素晴らしい! MVが公開中のリード曲“DRAMATIC”“HEART & SOUL”を聴いてもらえればわかる通りに、これまでの作品とは段違いのクォリティーを誇っていて、結成から15年目にしてバンドとしてあきらかに化けた。石田ショーキチの主宰レーベル〈SAT RECORDS〉からリリースされた本作は、実に6年ぶりのオリジナル・アルバム。この間にどんな試行錯誤があったのだろうか。

 「前作までは年に一枚アルバムを出して突っ走ってきたけど、客観的に自分たちの音楽を振り返ったとき、今のままの知識量じゃダメだなと思ったんですよね。あとは、所属していたOnly Feedbackがシューゲイザーに特化したレーベルだったことで、サウンドを制限してしまいがちな部分もありました。たとえば、歪まないほうがいい場面でもつい音を歪ませてしまったりとか。その感じから抜けないといけなかった。そんななかでショーキチさんと対バンする機会があって、いろいろ相談に乗っていただいたんです。音楽的に広がるためにも、本当にやりたいことをやるためにも〈このままじゃイカンでしょ〉と言ってもらって」(高橋祐二)。

 かくして、2017年にSATへ移籍を果たしたプラガ。メンバーはライブで東京を訪れる際、町田市にある石田の事務所に泊まり、地元の公民館で彼にみっちりと音楽授業を受けていたのだという。

 「鍵盤の白鍵のドレミファソラシドの並びの意味とか、基礎中の基礎から教えていただいて、無知のまま感覚だけでやってきた自分に愕然としました。コードの名前やそれに合うメロディーのスケールもわからず、使っちゃいけない音を使ってしまったりしていたので。ショーキチさんの指導を受けられて本当によかったです」(高橋)。

 「ドラムもシューゲイザーの様式に囚われていたというか、なるべく平坦に叩かなきゃいけないと思い込んでましたね。レコーディングでショーキチさんに〈どうしてドラムのリズムはずっと変わらないの?〉と言われてハッとしたり」(津久井たかあき)。

PLASTIC GIRL IN CLOSET 『DAWN TONE』 SAT(2020)

 石田のもとで学び、コードや転調を多彩に盛り込んだ自信作『DAWN TONE』は、ピアノの音色をライブでギターに置き換えられるように、そう補ったときに音が薄っぺらくならないようにベースを和音感の出る弾き方にするなど、同期ありきではなく人力でのプレイも考えて作られた。また、歌詞と音にほんのり官能的な香りが漂っているのもたまらない。

 「祐二さんの書く歌詞や曲が、すごく健康的になった感じがするんですよね」(津久井)。

 「初期の頃からポップな顔をしながらも毒気のある楽曲をめざしていたけど、〈甘酸っぱい青春ソング〉みたいに受け取られてしまうことが多かったんです。なので、意図するところをもっと意識的に出したというか(笑)。今回はいい歌詞が書けたと思ってます」(高橋)。

 これまでにはなかった長めのギター・ソロが新鮮な“ORANGE”、跳ねるビートに須貝彩子と津久井――リズム隊の成長が窺える“SATELLITE WATCH”“LOVE LIGHTS”、高橋が「スウェディッシュ・ポップのバンドがグランジっぽいアプローチをしたイメージ」と語る“POST HUMAN”など、音の位相やパンニングも細密で心地良いナンバーが並ぶ、バンドの濃厚な最高傑作。〈夜明けの音色〉というアルバムのタイトルが示すように、プラガ第2章の躍進がここから始まっていきそうだ。

 「初のブックレットもいい仕上がりで、CDとして価値のあるモノが出来ました。ライナーノーツを読みながら聴くとすごく有意義な時間になると思うので、ぜひ手に取ってみてほしいです」(高橋)。

 


PLASTIC GIRL IN CLOSET
須貝彩子(ヴォーカル/ベース)、高橋祐二(ヴォーカル/ギター)、津久井たかあき(ドラムス)から成る、岩手県在住の3人組バンド。2006年に結成。2010年に初作『TOY』を発表し、以降は『cocoro』『ekubo』『A.Y.A -All of the Young Adluts-』『eye cue rew see』と1年に1枚のペースでアルバムをリリース。5作目は〈CDショップ大賞2015〉の〈東北ブロック賞〉を受賞している。2017年に石田ショーキチが主宰するSATへ移籍。2018年には初期3作品から選曲したセルフ・カヴァー集『LESSON 1』を発表。2枚の配信シングル『DRAMATIC / BUTTERFLY』『HEART & SOUL / DOUBT』に続き、このたび、ニュー・アルバム『DAWN TONE』(SAT)をリリースしたばかり。