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インタビュー

岩代太郎が語る作曲家人生30周年作『30/55』

「〈生かされている自分〉を見つめ直すきっかけにしていただければ」

ⒸRowland Kirishima

人の縁に恵まれた30年に感謝
この世に生かされている自分ができること

 岩代太郎が今年、作曲家人生30周年を数えた。55年の実人生のうちの30年。それを2枚組仕様のアルバム『30/55』のタイトルに込めている。1枚目に音盤化がかなわなかった最近の映画用楽曲や舞台音楽などが収録され、2枚目に自作自演によるピアノ・ソロ音源がまとめられた。構成だけを見れば、岩代が過去に手がけた『TACT』のようなベスト盤に『Self-Notes』的なピアノ・ソロ盤を掛け合わせたような仕上がりといっていい。

 「結果論ですが、実に素晴らしいタイミングでリリースさせていただけました」

 結果論、というのは、具体的にはコロナ禍をめぐる自粛期間に由来しての発言である。

 「仕事の予定が全部、真っ白になって、期せずして自分自身を見直す時間を持つことになったんですね。家にこもりながら、世代が近いのに亡くなってしまった友人たちのことを思ったりしながら、ずーっとこのCDを聴いていました。何かというと、これを聴いていましたね。そうやって聴き込んでいるうちに〈自分は何のために生きてきたのか〉と考えるようになり、自分が〈生きる〉というより〈生かされている〉という感覚すら覚え始めたんです」

 従来通り、代表作を忘れないようにするための備忘録的なアルバムになるはずが、この時代、この時勢の中で重ねて耳にするうちに、巧まずして新たな付加価値を見いだす結果になったということか。

 「まさに自問自答をしたくなるような時代のタイミングであり、奇しくもそういうことを考えさせてくれるCDの内容でもあったということですね」

 確かに「二重生活」「あゝ、荒野」「新聞記者」「MOTHER/マザー」といった映画用の初音盤化音源だけをとっても、それだけで人間の何たるかを考える種が蒔かれており、あまつさえ岩代自身が原作を書き下ろした奏劇「ライフ・コンチェルト」などは教誨師を題材にした心理舞台劇なのであった。

 「いずれも〈生きるとは〉をテーマにした楽曲ですね。企画自体はコロナ禍以前に動いていたものですが、偶然にもそういうメッセージを内包する一枚になっていたんだな、と。『ライフ・コンチェルト』は僕が書いた短編小説をもとにつくられたものですが、あらためて〈人の命をもって償うとはどういうことか〉と考えさせられます。心への響き方がまた変わってきた感じがありますね」

 岩代といえば、ワーカホリックを絵に描いたような人物。それが、歩みを止めることで新たな風景を見いだした。それだけで十分に大きな事件である。

 「本当に仕事人間で、マグロみたいな生活を送っていたんですよね(笑)。それが全く作曲もせず、頼まれていた委嘱曲の作曲もやる気がなくなっていき、娘と一緒にいるか、趣味の絵画や物書きをやるだけという2、3ヵ月の自粛期間を送りました。朝、起きて花壇の花に水をやったり、家の前のバス停に来る近所の人と話したりもしてね。町内会の会長でもやるんじゃないかというくらい(笑)毎日が楽しかったですし、とことん自分と対話する機会を持つこともできて、実に意味のある時間を得られました。そんな状況の中で深いところまで行くことができたという意味では、やはりシンボリックなCDになったと思いますし、今までのベスト盤と決定的に違います。これまでの中でいちばん聴き込んだCDかもしれません。リスナーの方にとっても〈この世に生かされている自分〉への自問自答をするきっかけにしていただけるなら作曲家冥利に尽きますね」

 あらためて30年という歳月を振り返るなら「これでもかというほど人の縁に恵まれた」とのこと。分母を55でなく30にしたら、お世話になった人の数を示す分子はいくつになるのだろうか。

 「100や200では到底ききません。ひとえに僕の人徳と言いたいところですが(笑)、いろんな人に迷惑をかけてきましたし、本当にありがたいことです。ご縁を生かしながら、今後も作曲家として後世に思いを託せるような活動をしていきたいですね」

 


岩代太郎 (いわしろ・たろう)
1965年東京都出身。東京藝術大学音楽部作曲科首席卒業、同大学院修士課程首席修了。91年、修了作品『TO THE FARTHEST LAND OF THE WORLD(世界のいちばん遠い土地へ)』がシルクロード管弦楽団国際作曲コンクールにて最優秀賞を受賞。以後、テレビ・映画・アニメ・舞台など幅広いジャンルで活躍。NHK大河ドラマ「葵 徳川三代」ではスケール感のある壮大なオーケストレーションを披露し、若手実力派としての地位を不動のものとする。代表作に「殺人の追憶」(2003)、「レッドクリフ」(2008/2009)、「FUKUSHIMA 50」(2020)等。

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