過去・現在・未来と自身の人生を歌うことで昇華した切実な思い。今回も多彩な作家陣とのコラボが実現したポップ・アルバムの制作で得た心境の変化とは──

優しい作品を

 「(コロナ禍による)自粛期間のなかでもいろんなことを考えてたり、落ち込むことや、逆に良いこともあったり、単純に言葉で言い表せないような感情がありました。そんななかで自分の〈今〉や〈今まで〉〈これから〉を歌ってるような曲をひとつひとつ作っていくうちに、〈人生って、自分にとって何だろう?〉と思うようになりました」。

入野自由 『Life is…』 Kiramune Project(2020)

 そんな思索の期間を経て、入野自由がニュー・アルバムに名付けたタイトルは『Life is...』。昨夏のアーティスト活動10周年記念ツアーで初披露されたミュージカル風味のファニー・チューン“だって愛は半端ないじゃない”(作詞/作曲/編曲はsooogood!)を含む全13曲は、1年以上をかけてじっくりと作り上げられたものだという。

 「1年半ぐらい前に、自分の身の回りで嫌なこと、悲しいことがいろいろ起こって、世の中を見てもそういうニュースばっかり目に入るようになりました。そういうこともあって、今度、自分が作品を作るなら、触れた人がホッとできるような、優しい作品を作りたいなと思ったんです。(俳優/声優としての自身は)まず作品があって、その作品のメッセージだったり、その作品での立ち位置を演じることが多いんですが、音楽は自分自身として表現できる場ということがあるので、パーソナルなテーマをここに持ってきたっていうのもあります」。

 

思いを昇華して

 楽曲が近しい雰囲気にならないよう、作家陣とは〈優しい作品〉というテーマを共有したり、しなかったりと調整しつつ、自身も3曲の作詞を担当。和田唱の作曲によるジェントルなミディアム“どうしようもなく辛い夜は”、佐伯youthKと共作したリズミックな疾走チューン“確かにそうだ”、nikiieとのコラボとなった繊細なピアノ・バラード“優しさは誰のためにあるんだろう”がその柱となっている。

 「“どうしようもなく辛い夜は”を書いたのは去年の10月ぐらいかな? 当時自分が受けた傷だったり、その当事者だったりを思いながら、どこか救いのある曲というか……自分が歌いながら、あと、聴いてる人が耳にしたときに少しでも気持ちが楽になるような曲になればいいなと思って書きました。この曲はアルバムの中でも2曲目か3曲目に生まれた曲だったんですけど、〈和田さんに書いてもらえたらいいね〉って夢物語みたいに語ってたらディレクターが話をしてくれていて、〈デモが届いてビックリ〉みたいな(笑)。
 “確かにそうだ”は改めて聴くと今の世の中の状況にかぶるようなところもあると思うんですけど、もともとは自分と、自分を見てくれてる人たちに対してのメッセージというか……自分はどんどん変わっていったりするし、結局変わらない部分もあるけど、ファンの皆さんは僕の何が好きなの? 自分が変わっていくとみんなはいなくなるの?とか、逆に僕が離れていってるのか?とか。人間の考えは生きてるものだから、こうじゃなきゃいけないとか、それに縛られることは絶対にしたくないし、とか……そんなふうにぐるぐるぐるぐるしてることを、愚痴っぽいことも含めて書いてみた感じで、自分の拙い言葉を詩的に、音楽にマッチした表現にしてくれたのが佐伯君です。
 “優しさは誰のためにあるんだろう”は自分の身の回りで起きたことが題材になっていて、見方によっては恋愛っぽい雰囲気がありますけど、実際は友人との関係性を書いた曲です。物凄くつらくてどうしようもなくなったとき、まあ、良かったことも含めてですけど、アーティストは曲にすることでその考えや思いを昇華するっていう話を聞いて、自分もやってみようかと。〈優しさは誰のためにあるんだろう〉って言葉はnikiieさんが考えてくれたんですけど、自分でも〈ああ、確かに〉と思って。自分が書いた言葉がこんなふうに変化するんだ、と。共作の良いところですよね。優しさはその人のためにならないかもしれないけど、じゃあ、この気持ちは誰にあげたいものなんだろう、この気持ちはどこにいっちゃうの?っていう思いがメロディーに乗ったときは衝撃でした」。

 

制作後の心境の変化

 こうした切実な思いに端を発した『Life is...』だが、参加したアーティストたちの個性と主役の変幻自在なヴォーカリゼーションが溶け合ったポップ・アルバムに結実しているのは入野作品らしいところ。先述の和田のほか、言葉遣いもユーモラスなMega Shinnosukeによるファンキー・ポップ“ユウランセン”、めくるめく昂揚感を与えてくれる津野米咲(赤い公園)作の“Sunny Side Story”、Kai Takahashiが書き下ろしたチルなベッドルーム・ポップ“Tokyo”、ノスタルジックなメロディーが光る佐藤千亜妃製の“グッド・バイ”など、偶然の出会いがあったり、もともとファンだったりという理由から実現した初タッグ曲が新鮮な風を吹かせるなか、歌唱における自身の挑戦となったのはこの2曲だとか。

 「向井太一君の曲、“Alive”はいまだに難しいなって思いますね。キーがすごい低いところからすごい高いところにいったりするし、あと太一君らしさ全開のグルーヴ感というか、聴いてて心地良いのに歌ってみると全然歌えないってことが発生したり。息継ぎも大変で……もう大変なことしかない(笑)。
 あとchelmicoもデビューしたときからずっと好きで、〈chelmico大好き、イェイ!〉っていうノリで曲をお願いしたんですが、上がってきたデモを聴いたときに、〈そうだ! ラップを歌わなければならないんだ!!〉と気付きました(笑)。流石にサビはメロディアスに……というオーダーをして、詞は全部お任せでした。二人は収録にも来てくださって、僕は基本的に二人の仮歌の完コピをテーマにやってたので、緊張しましたね。〈めっちゃいい〉って言ってくれてるけど、ホントかな?って(笑)」。

 作家が投げ掛けた意外性や驚きも楽しみながら制作した本作の13番目のピースとなったのはオープニングを飾る“やってみればいい”。尾崎雄貴が贈った80s趣味全開の開放的なエレクトロ・ポップだ。

 「尾崎君の“やってみればいい”は、彼がGalileo Galileiのときにやってた音楽と、今のBBHFとかソロでやってる音楽、いろんな方向性があるので、どんな曲になるんだろう、というドキドキやワクワクがありました。今回のアルバム、作りはじめたときはホントにどうしよう、つらい、自分のためにも、それで影響を受けて悲しんでる人たちに向けても何か良い〈気〉を作り出さなきゃみたいなのがあって、今もその気持ちはありますけど、それが楽曲の制作を通してもうちょっと前向きな考え方になっているので、作りはじめと終えたあとではだいぶ心境の違いがありますね。一番最初に作った“だって愛は半端ないじゃない”がアルバムの最後に、最後に出来た“やってみればいい”が一番最初になっているのはそういう理由なんです」。

 本作の楽曲を生演奏で楽しむ場も期待したいところ。世情を考慮しながら、今後の展望についての探究は続く。

 「せっかくここまでの曲が出来上がったので、ライヴはやりたいですね。僕が去年出演した『ボディガード』  という舞台で使用されていた曲をモチーフにして、〈終わりよければすべてよし〉みたいなものをテーマにDECO*27さんに書いてもらった“S.H.E.”って曲は、みんなで歌うことを意識して作ったりしてますし。だから本来はお客さんを入れてやりたいけど、無観客だからこそできる演出もあると思うので、いろんな可能性を考えていきたいと思います」。

『Life is…』に参加したアーティストの関連作品。

 

入野自由の近作を紹介。

 

『Life is…』に参加したアーティストの関連作品。