田中亮太「Mikiki編集部の田中と天野が、海外シーンで発表された楽曲から必聴の5曲を紹介する週刊連載〈Pop Style Now〉。今週は、なんといってもアメリカ大統領選の話題につきますね。ジョー・バイデンが現職のドナルド・トランプに勝利し、次期大統領に就任することが確定しました」

天野龍太郎「ビリー・アイリッシュやレディー・ガガといったミュージシャンたちも、SNSなどに祝福の言葉を投稿していました。トランプ期に加速した分断や対立が緩和され、より理性的で他者に優しい世界に近づいていく契機となればいいのですが……。とはいえ、傷は深そうだと思います」

田中「おっしゃるとおりです。音楽を含むアートにおいても、トランプ時代とはまたちがった様相を帯びていくのではないでしょうか。バイデン時代のポップがどんなものになるのか、楽しみですね。もうひとつ大きな話題では、〈ロックの殿堂〉のセレモニーが11月7日に開催されましたね」

天野「デペッシュ・モード、ドゥービー・ブラザーズ、ホイットニー・ヒューストン、ナイン・インチ・ネイルズ、ノトーリアス・B.I.G.、T・レックスが殿堂入りしました。ホイットニーやビギーが認められたというのが、なかなかおもしろいですね。豪華なパフォーマンスも話題でした。それでは、今週のプレイリストと〈Song Of The Week〉から!」

 

1. Davido feat. Lil Baby “So Crazy”
Song Of The Week

天野「〈SOTW〉は、ダヴィドがリル・ベイビーをフィーチャーした“So Crazy”! ここ最近、当連載で毎週紹介しているアフロビーツの楽曲です。セヴン・ストリーターとの“Kissez”を10月に紹介したときにも話したとおり、ダヴィドはアフロビーツの本拠地であるナイジェリア系のアーティスト。昨年、傑作『A Good Time』を発表し、今年9月には“FEM”というシングルを発表しました。今回の新曲は、それに続くものです」

田中「本日11月13日にリリースされたニュー・アルバム『A Better Time』からのシングルですね。この曲にはリル・ベイビーが客演していますが、アルバムには他にニッキー・ミナージュ、クリス・ブラウンとヤング・サグ、ナズといったアメリカのスターたちが参加。かなりポップな作品になっていそうですね」

天野「正直、アメリカのメインストリームに目くばせをしすぎな気もして、不安なのですが……。ただ、ナイジェリアのマヨークン(Mayorkun)やティワ・サヴェージ(Tiwa Savage)も参加しているので、彼らしいナイジェリアン・ポップを打ち出したグローバルなアルバムでもあるのかなと期待しています。さて。この“So Crazy”は、アフロビーツというよりもレゲエ/ダンスホール色の濃い軽快なナンバーですよね。アフロビーツの主流よりもちょっとテンポが速めで、ダヴィドの歌はかなりレゲエっぽいパトワ語です」

田中「ハイライフなどを思わせる、西アフリカっぽい涼しげでブリージンなギターの音色もいいですよね。広いヴィジョンでさまざまな音楽をハイブリッドさせ、新しいグローバル・ポップを作り出しているダヴィドらしい一曲と言えそうです」

 

2. Billie Eilish “Therefore I Am”

田中「ビリー・アイリッシュの新曲“Therefore I Am“が2位! ひとつ前のシングル“my future”をこの連載で取り上げた際に、天野くんは『もっと音楽的に冒険した曲を聴きたいな、とも思いました!』と言っていましたが、この曲はいかがでした?」

天野「えーっと……。まず、低音が歪んでいてかっこいい(笑)! ここ最近のビリーの楽曲のなかでは、まあまあ攻めたサウンドだと思います。イントロのスクラッチ音から〈おっ〉となりますし、ちょっと潰れていてノイジーなドラムの音色も独特。BPM 95くらいのゆったりしたテンポではあるんですけど、ビートにかなり存在感がありますね」

田中「ビリーの歌声も歪んでいたり、不明瞭だったり、それらが重なっていたりと、ヴォーカル・プロダクションにもさまざまな工夫が凝らされています。彼女のサウンドはASMRファンにも人気が高いそうですが、この曲もかなりゾクゾクした感覚を味わえるのでは。また、彼女の魅力としては、Z世代特有の倦怠感や人をくったような悪戯なユーモアがあったと思うんですが、ここ数曲では比較的抑えめだったそれらの要素がまた表れているのがいいなと。曲名の“Therefore I Am“は、哲学者ルネ・デカルトの有名な言葉〈我思う、ゆえに我あり(I think, therefore I am)〉からきているのだと思いますが、歌詞はどんな内容なんですか?」

天野「彼女の成功に乗っかろうとする人たちへの批判が主題なんでしょうか? とてもヒップホップ的ですね。〈あんたは私の友だちじゃない〉〈私のかわいい名前を口にすんな〉〈あんたの名前、なんだっけ?〉といったフレーズが鋭い。もう一歩突っ込んで考えると、さっき亮太さんは〈Z世代特有〉なんて言い方をしていましたけど、ビリーをZ世代のアイコンとして過剰に祭り上げること、聴き手が自分自身をビリーに重ねすぎてしまうことへの牽制とも捉えられます。飛躍しすぎかもしれませんが……」

田中「いや、あながち間違いじゃない気もします。アークティック・モンキーズの〈Whatever People Say I Am, That’s What I Am Not〉じゃないですけど、外野からのレッテル貼りに抗うのはポップ・スターの宿命ですからね。そもそも、彼女は常に〈自分がどんな人間かを決めるのは他人じゃなくて自分〉とルッキズムやセクシズムを非難してきました。この曲について、ビリー自身も〈もっとも自分らしい曲〉と言っているようですし、今後彼女のキャリアにおいて大事な一曲になっていくのかも」

 

3. Lil Nas X “HOLIDAY”

天野「3位は、リル・ナズ・Xの待望の新曲“HOLIDAY”。一世を風靡した“Old Town Road”と『7 EP』(2019年)を発表したあとはリミックスなどをリリースしただけで、純粋な新曲は出していませんでした。本人も『ほぼ2年ぶり!』と言っているように、ひさしぶりのシングルですね」

田中「タイトルが〈ホリデー〉ということもあって、一応リル・ナズ流のホリデー/クリスマス・ソングなんでしょうね。〈Ayy, it’s a holiday〉という能天気なフレーズが耳に残るなあ。映画『ブレードランナー』をビッカビカにしたような、あいかわらず謎な世界観のミュージック・ビデオにはメタル・サンタクロースやメタル・トナカイが出てきますし……(苦笑)」

天野「なぜかマイケル・J・フォックスが出演しています。本当になにがしたいのかよくわからなくて、思わず笑っちゃいますよね。さらに米アマゾンでは、この曲のリリースにあわせて〈Santa Nas X〉の銀ピカのハットが売られているようです(笑)。こういうユーモラスなところも、彼の魅力なのですが。〈ああ、ホリデーだぜ/コントロール不能な女たちに囲まれている〉という歌い出しからして〈なんじゃそりゃ〉って脱力してしまいますし、〈俺はマイケル・ジャクソン並みにバッドだぜ〉というラインも〈いやいや、リル・ナズはマイケルほどの超天才じゃないですよ!〉っていうツッコミを待っているかのようです」

田中「楽曲を制作したのは、超売れっ子プロデューサーのテイ・キース(Tay Keith)とテイク・ア・デイトリップ(Take A Daytrip)という鉄壁の2人。メロディーはいかにもリル・ナズっぽい感じですね。リリースが待たれている、彼のデビュー・アルバムへの布石になるのでしょうか?」

天野「……なんだかこの緊張感に欠ける曲を聴いていたら、UKドリルのMC、エイブラ・カダブラ(Abra Cadabra)のヒリついた新曲“Spin This Coupe”とか、他に紹介するべき曲がたくさんあるように思えてきました(苦笑)」

田中「Ayy, it’s a holiday」

 

4. Vivian Green feat. Ghostface Killah “Light Up”

天野「4位はヴィヴィアン・グリーンの“Light Up”。彼女は米フィラデルフィア出身のR&Bシンガーで、すでに20年以上のキャリアを持つヴェテランです。2002年のソロ・デビュー以前はジル・スコットのバッキング・ヴォーカリストを務めていたり、ボーイズIIメンに楽曲提供をしたりしていました。この曲は、本日リリースされたばかりの7作目『Love Absolute』からのリード・シングルです」

田中「ニュー・ジャック・スウィング調の軽快かつアッパーで最高ですね! フィーチャーされたゴーストフェイス・キラーも活き活きとラップしていて、彼のハイテンションっぷりも楽しい(笑)。新しいサウンドかと訊かれたら返答に窮しますが、長年第一線で活躍する両者だからこその鉄板感というか、若造には出せないかっこよさのある楽曲ではないでしょうか」

天野「最初に聴いたときは笑っちゃいましたよ。だって、イヴリン・キングのディスコ・クラシック“Love Come Down”(82年)を引用していて、めちゃくちゃ心地よくてノスタルジックだったので。でも、いい曲だと思います! 跳ねたビート、ぐいぐいと迫るベース、キラキラしたシンセサイザー……嫌いになれるわけがないですね」

田中「主役の溌剌とした歌声も気持ちいいですよね。ゴーストフェイス・キラーの野太い歌声とも相性抜群。アルバムは、この言い方もなんだか懐かしいですが、〈ヒップホップ・ソウル〉の名作といった雰囲気を感じました。ぜひ『Love Absolute』を聴いてみてください!」

 

5. Drakeo The Ruler “Fights Don’t Matter”

天野「今週最後の一曲になります。ドラキオ・ザ・ルーラーの“Fights Don’t Matter”。彼のことは、以前から紹介したいと思っていたんですよね」

田中「ダレル・コールドウェル(Darrell Caldwell)ことドラキオ・ザ・ルーラーは、LAのラッパーですね。Wikipediaによれば、2017年に火器の不法所持で、2018年に第一級殺人容疑で逮捕されているんだとか……」

天野「札付きのワルですね。2019年に無罪判決が出ているのですが、ギャング犯罪などで裁判にかけられていて、獄中で録音したのが2020年6月にリリースされたアルバム『Thank You For Using GTL』です。〈GTL〉というのは電話会社の〈Global Tel Link〉のことで、彼はこの電話サーヴィス越しにラップを吹き込みました。アルバムにはザラザラした音質のままでドラキオのラップが収められていて、ものすごい雰囲気なんですよ。『Thank You For Using GTL』は、Pitchforkなどのメディアから大絶賛を受けました。僕にとっても、今年のフェイヴァリットのひとつです」

田中「札幌のB.I.G.JOEみたいじゃないですか!」

天野「福島・いわきのラッパーの鬼みたい、とも言えます。で、つい先日、11月5日に釈放されたドラキオが、わずかその4日後にリリースしたのがこの“Fights Don’t Matter”なんです。ものすごいストーリーですよね」

田中「YouTubeのキャプションには、〈LAの壊れた司法制度との3年間にわたる闘いを経て、ドラキオ・ザ・ルーラーがついに帰還した〉とありますね。〈やつらが噂している、マイクで答えを言わせろ〉〈あいつに33発の銃弾を打ち込んでやる、闘いはいとわない〉というリリックが、ものすごく低いテンションでつぶやかれていて、逆にこわい……」

天野「このマンブル・ラップっぽいダウナーなムードは、いまのギャングスタ・ラップのモードのひとつなんですよね。それこそ、ビートやサウンドの感じはデトロイトのギャングスタ・ラップと共有しているものが多くて……というよりも、こっちのウェスト・コーストのほうがオリジナルなのですが。ドラキオの才能は注目すべきものですが、ぜひ彼から現行のギャングスタ・ラップを深堀りしてもらいたいですね」