2025年8月1日にリリースされた『Metro Boomin Presents: A Futuristic Summa (Hosted By DJ Spinz)』。2023年の映画「スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース」の音楽や2024年に発表したフューチャーとの共作『WE DON’T TRUST YOU』『WE STILL DON’T TRUST YOU』など、常に話題作を連発している当代随一のプロデューサー、メトロ・ブーミンの新作だ。今回、注目すべきは、米アトランタの〈フューチャリスティックスワッグ〉というジャンルに立ち返った点。近年、振り返られることも多いフューチャリスティックサウンドと本作の関係について、音楽ブロガー/ライターのアボかどに掘り下げてもらった。 *Mikiki編集部

METRO BOOMIN 『Metro Boomin Presents: A Futuristic Summa (Hosted By DJ Spinz)』 Boominati/Mercury/Republic(2025)

 

2000年代後半のアトランタを熱くさせた〈フューチャリスティックスワッグ〉

「フューチャリスティックサマーになりそうだ。宇宙船に乗り込もうぜ」。メトロ・ブーミンの最新ミックステープ『A Futuristic Summa』は、こう話すスキット“Black Migo Forever (Intro)”で幕を開ける。この〈宇宙船〉は、単にタイトルの未来感と絡めただけの単語ではない。本作の〈フューチャリスティック〉とは〈未来的〉ではなくむしろ過去を見ており、〈宇宙船〉もその過去に登場したモチーフなのだ。

イントロ明けの“I Want It All”ですぐにその由来が明かされる。同曲に客演しているラッパーはJ・マニー。ちょうどLil’Yukichi+アボかど(筆者)監修の書籍「サウス・ヒップホップ・ディスクガイド」で、Lil’YukichiがJ・マニーの2009年のミックステープ『Mr. Futuristic』のレビューを書いているので引用しよう。

〈Jと(ヤング・)LAが提唱したフューチャリスティック・スワッグというサブジャンルは明るくて楽しいサウンドが多いのが特徴だ〉〈「宇宙船(車)で来たぜ」と宇宙ネタを絡めた良曲満載〉

そう、本作の〈フューチャリスティック〉とは、このフューチャリスティックスワッグの〈フューチャリスティック〉なのである。J・マニーとヤング・LAの2人が中心となったこのムーブメントは、2000年代後半のアトランタで始まってファスト・ライフ・ヤングスタズ(F.L.Y.)の名曲“Swag Surfin’”などを生み出した。ヤング・サグやロンドン・オン・ダ・トラックもこのシーンから登場し、その影響は現代のトラップミュージックにも受け継がれている。

フューチャリスティックスワッグの音楽的な特徴としては、ホーンやスペイシーなシンセなどを使った陽気なウワモノ、トラップと共通するパターンながら軽快さが際立つドラム、どことなくコミカルなムードを纏ったのっぺりとしたゆるく歌心のあるラップなどが挙げられる。それを踏まえて“I Want It All”を聴いてみよう。ホーンの音を使った陽気なビートに乗るJ・マニーの飄々としたラップは、まさにフューチャリスティックスワッグそのものだ!

メトロ・ブーミンはDJ・キャレドやカルヴィン・ハリスのように曲ごとに異なるゲストを迎えるのではなく、数人のコアメンバー+少数のゲストでアルバムを作り上げる傾向があり、J・マニーは本作のコアメンバーの1人として数えられる。本作のコアメンバーは彼のほか、ヤング・ドロー、ロスコー・ダッシュ、リッチ・キッズの面々、ワカ・フロッカ・フレイムなど。彼らはいずれもフューチャリスティックスワッグ期のアトランタで活躍したラッパーだ。クエイヴォも何曲かで参加しているが、彼がメンバーであるミーゴスも初期はフューチャリスティックスワッグに挑んでいた。また、本作のホストDJを務めるDJスピンズも、先述した『Mr. Futuristic』など数々のフューチャリスティックスワッグ作品に参加していたDJだ。まさにムーブメントへの愛溢れる一枚となっている。