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初来日コンサートを楽しんだ方も、行けなかった人も必見!

 今年5月にキャリア初となる日本公演を横浜と名古屋で開催し、音楽ファンの間で大きな反響を呼んだのも記憶に新しいハンス・ジマー(1957-)。1988年に手掛けた「レインマン」の音楽で注目を集めたのを皮切りに、大ヒット映画のサントラ・スコアを数多く手がけてオスカーやグラミー賞などにも輝く、言わずと知れた現代の巨匠・作曲家である。同公演でも卓越したバンドとオーケストラ、ソロ・ミュージシャンたちを率い、本人もただ指揮をするとかじゃなく、プレイヤーのひとりとして複数の楽器を弾きながらステージ狭しと大暴れ。目の前で繰り広げられる、クラシックとエレクトロニックな要素をパワフルなサウンドに融合させた壮大な音楽的スペクタクル(しかもどれもスクリーンを彩ったみんな大好きな楽曲ばかり……)に、満員の巨大会場は熱狂の渦に包まれっぱなしだったとか。

 そんな世紀のコンサートを体験できた幸せな方も、残念ながら行きそびれた人にも朗報! 既に欧米やアジアで大規模な〈Hans Zimmer Live〉を何度も成功させてツアー・アーティストとしても名高いジマーが、中東ドバイでの壮大なライヴ・パフォーマンスに秘蔵映像を加えて制作した未曾有のコンサート映画が、遂に日本でも公開される。

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 〈Diamond In The Desert〉と名づけられた本作は文字どおり、画面いっぱいに広がるアラビアの砂漠からスタート。つまり日本公演と同じく、2度目のオスカー作曲賞に輝いた「DUNE/砂の惑星」より“アトレイデス公爵家”がオープニング曲なのだが、同サントラに共作者/シンガーとして参加しているロワール・コトラーがエキゾチックな歌声を響かせ、風に布をなびかせながら砂丘を歩く姿を空撮で捉えた映像が美し過ぎる。彼女が頂上に置かれた太鼓に辿り着き、打楽器奏者と一緒にそれを打ち鳴らした瞬間、場面が一転してドバイ最大規模を誇るコカ・コーラ・アリーナのステージが華やかに出現。そこから曲は間髪入れずに「インセプション」より“モンバサ”になだれ込み、ミュージシャン一同が一糸乱れぬ音符の連打を披露。先ずはそんな幕開けに圧倒され、映画館の観客も一気にアリーナ会場へと引き込まれること間違いない。

 監督はグラミー賞に3回ノミネート歴があり、エミー賞、BAFTA賞、全米監督協会賞を2回ずつ受賞している世界有数のポップカルチャー系ディレクターのポール・ダグデール。これまでに数多の世界的アーティストたちのドキュメンタリーや音楽映画の脚本・演出・ディレクションを担当し、映画館で生中継されたコールドプレイのライヴ・イベントでは史上最大の視聴記録を樹立。アデル関連のプロジェクトではYouTubeの再生回数で20億回超えを達成したという実績の持ち主。今回もその手腕が存分に発揮されまくりのように思う。

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 「ワンダーウーマン」組曲では前面に配置された女性だらけの弦楽器チームやパーカッション、ドラムによる力強い演奏と勇ましいかけ声が、さながら劇中のアマゾネス軍団のよう。とりわけ、ジマーが愛弟子のひとりであるジャンキーXL(※トム・ホーケンバーグのソロ・プロジェクト)と共同で手がけた「バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生」のサントラから、ワンダーウーマンの初登場シーンに流れてそのまま彼女のテーマ曲としてその後の作品にも流用されている“Is She With You”でソロを担当する、女性エレクトリック・チェリスト、ティナ・グオの迫力ある演奏に会場のボルテージが急上昇するのがわかる。

 「マン・オブ・スティール」組曲では、先ずステージにぽつんと置かれた小さなアップライト・ピアノ(※当然ジマー自身が演奏)で「人間らしさを求めて葛藤する孤独なクラーク・ケント」の姿を表現。そこに様々な楽器が加わって全体が荘厳なサウンドに包まれてから、満を持して仙人のような佇まいの英国人凄腕ギタリスト、ガスリー・ゴーヴァンが登場。飛翔するスーパーマンの如く、エレクトリック・ギターを高らかに鳴り響かせるのがもの凄くカッコイイ。

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 「次にお届けするのは古代ローマ時代の曲です」と告げるジマーのMCに沸き立つ会場。続く「でもグラディエーターではありません」の言葉にはどよめきが。すかさず「嘘です」と茶目っ気たっぷりに言ってから始まる「グラディエーター」組曲も大盛り上がる。オーストリアが生んだ歌姫リサ・ジェラルドが歌うお馴染みの主題歌“Now We Are Free(ついに自由に)”も感動的。

 もちろん「パイレーツ・オブ・カリビアン」組曲では、お待ちかねのあの旋律が近づくにつれて会場の興奮が高まり、遂にテーマが流れた瞬間それが最高潮に達して大爆発するのを臨場感たっぷりに疑似体験できるはず。

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 しかも本作の醍醐味はそれらのコンサート映像だけに留まらない。交友関係の広いことで知られるジマーだけあって、本編の合間に絶妙なタイミングで挿入される多彩なゲストたち(※いずれも作品との関わりが深い面々)との対談も盛りだくさん。それも元々は仕事部屋に籠もりがちだった彼に大規模なライヴ・ツアーを勧めた張本人である元ザ・スミスのジョニー・マーとファレル・ウィリアムス(※ジマーの弟子ヘイター・ペレイラが担当した「怪盗グルーのミニオン危機一発」の主題歌“Happy”などでの繋がり)を筆頭に、フィニアス&ビリー・アイリッシュ(※「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の主題歌繋がり)、「DUNE」のティモシー・シャラメとゼンデイヤ、クリストファー・ノーラン監督、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、そして本作の製作総指揮でもあるジェリー・ブラッカイマーなど錚々たる面々。その貴重な会話を通して、創作への原動力やその過程における“ジマー・マジック”の秘密に迫る、見ごたえある内容になっているのも魅力だ。

 ネタバレになるのでこれ以上は書かないが、他にも万博会場エキスポ・シティ・ドバイ内のアル・ワスル・プラザ・ドームや有名なブルジュ・アル・アラブを舞台に、あの曲この曲が演奏される圧巻映像が目白押し。本人の言葉を借りれば「映画のための音楽がライヴ・パフォーマンスへと姿を変え、再び大スクリーンで蘇る」この夢のような企画をお見逃しなく!

 


MOVIE INFORMATION
映画「ハンス・ジマー&フレンズ:ダイアモンド・イン・ザ・デザート」

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監督:ポール・ダグデール
出演:ハンス・ジマー/ビリー・アイリッシュ/クリストファー・ノーラン/ドゥニ・ヴィルヌーヴ/ティモシー・シャラメ/ゼンデイヤ
日本配給:カルチャヴィル合同会社
(アラブ首長国連邦(ドバイ)|2025年|158分)
https://www.culture-ville.jp/hanszimmer
2025年7月11日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか順次公開